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「いえーいっ!那由多ちゃん見ってるぅー?零菜とぉ、黒田わぁ!こーんなにっ!なっかよっし!でぇーすっ♡」


「や、やめ、やめ、お”ッ、お、”お”、お”ッ……!」



村崎は俺の膝の上に横になって座り、肩に腕を回し、その腕の先は俺の顔の横でピースサイン。


もう片方の伸ばした腕の先にはカメラ付きのボールペンを掲げ、カメラをコチラに向けて俺と村崎のツーショットが映る角度に調整している。


さらにあろうことか村崎はカメラの向こう側にいる人物に現状を見せつけるように、俺の頬に自分の頬をピッタリくっつけて頬擦りまでしてくる始末。


電気ビリビリでまともに抵抗出来ないことをいい事に村崎のバカ女に好き勝手されていた。


電流が……止まんねぇ……!クソ痛いんだが……!


なんでこんなことになったのか。


それもこれも無駄に頭の回転が早く、察しのよすぎる村崎が諸悪の根源である。


白井の不在、先週の出来事、俺の首に付けられた聖女様ファングッズ、様子のおかしい俺、謎のカメラ付きのボールペン……これらの要素から『何故そうなったのか?』という原因はともかく『今コイツはどんな状況に居るのか?』というのをおそらく勘づかれた。


糞が。無駄に頭を回しやがって。この女、マジで厄介極まりない。



「あれれー?黒田ァ?なんかずっとスマホ鳴ってるけどぉ?とらなくていーの?」



村崎が馬鹿な行動に出てから、ひっきりなしにスマホが鳴り続けていた。電話に出たいのは山々だが、出たくても出れない。ビリビリ痛いし、村崎が邪魔だ。



「その着信……那由多ちゃんでしょ?そっかぁ。確信は無かったんだけどぉ……。やぁっぱり、この先に那由多ちゃんがいるんだねっ?那由多ちゃん見てるんでしょ?」



くるくるとボールペンを器用に回しながら村崎は口の端を吊り上げる。



「はいっ、くるくるーっと!これでなにも見えないかなぁ?あっ、コレ、ちなみに声は聞こえてる感じ?ねぇ、黒田ぁ、そこら辺どぉーなのっ?」


「……し、知らん」


「あーーー、はいはい。聞こえてんのね?黒田は分かりやすいねー」



村崎は確信を持ってそう言った。今の発言のどこにバレる要素があったのか。しかし、バレた。全てを見通しているかの様な赤黒い瞳が俺の瞳を覗き込んでくる。



「なるほどねー。と、なるとー。そのキッショイ首輪かなっ?これが盗聴器になってるとか?ねえねえ?どう?正解?大当たり?大正解?ご明察ぅ?那由多ちゃぁん零菜ちゃんの声、聞っこえってるぅー?」


「…………ぐぅ」


「それに黒田。アンタ今なんかされてる?さっきから明らかに様子がおかしいんだけど?これは……なんだろ?流石にちょっと分かんないかも。まっ、でも、それは分かんなくて、いいっかなー」



電流を流されてる事までは思い至らなかったようだが、それは別にどうでもいいと切り捨てた。



「ねえねえ黒田ァ。ホントどうしちゃったの?超面白いことになってんじゃん。なにがどうなったらこんなことになんの?マジで意味わかんなくてウケるんですけどぉー!だってアンタ……那由多ちゃんのこと好きすぎて”れーぷ”しちゃんたんだよね?それがなんでこんなことになるのかな?ねえ?なんで?ねえねえ?なんでなんで?何があったか詳しく聞かせろよー!なんでなのぉ?」



心底楽しそうに嗤いながら、なんでなんでと繰り返す。その言動が、仕草が、死ぬほど癪に触って感情を逆撫でる。顔面をぶん殴りたい。



「黙りすんなよ黒田ぁ。なんか喋りなよ黒田ぁ。黙ってたらなんもわかァんないよぉ黒田ぁ。その口は何のために付いてんの黒田ぁ。ボクを愉しませるために付いてるんだよね黒田ぁ。アンタみたいなキモいウジ虫の存在価値なんてボクをちょっと愉しませるぐらいしかないんだからさ黒田ぁ。もっとボクを愉しませてみせなよ黒田ぁ。ほら、なんか喋れよザコ。ザコ黒田。ざーこ、ざぁーこッ!」



プツンッと、俺の中で何かが音を立ててブチ切れた。


拳を固く握りしめて、村崎の顔面に向けて振り抜いた。



「いやぁーんっ♡あっぶなぁーい!」



しかし、その拳は虚しく空を切る。


村崎は俺の行動を予想していたとばかりにヒョイと身体を捻って避けた。



「怒っちゃった?怒っちゃったの?もぉー、やだぁー、黒田ったらぁー!こんなのちょっとしたお遊びじゃん?そんなムキになって怒らないでよォー!ただでさえブサイクな顔が、人に見せらんないぐらいブッサイクな顔になっちゃってるよぉ?あーもーホント見てらんなーいっ!目が腐っちゃうっ♡」


「この……クソ野郎ッ」


「野郎じゃありませーんっ!零菜ちゃんは可愛い可愛い女の子でーすっ!超絶美少女だぞっ!きゃはっ♡もうっ、そんな見つめないでよーっ!美少女の零菜ちゃんに黒田のブサイクが移ったらどう責任とるつもり?死んで償って貰うしかなくなっちゃうよぉー?」


「ふざけやがって、このクソ女がッ」


「やだやだやだぁ!ザコ黒田が怖いよぉ!煽り耐性クソザコで、ちょっと煽ったらすぐに手が出ちゃうけど、カスりもしないザコザコパンチしてくる、クソザコウジ虫のキモキモチンカス野郎が零菜ちゃん怖くてしょうがないのぉー!怖すぎて笑いが止まんなくてプルプル震えちゃうのぉー!きゃはははっ♡」



怒りの……ボルテージがッ……上がっていくッ!












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