23




真っ白だ。



世界の全てが真っ白に染まっている。


眩しくて目が眩む。目を開けているのか、閉じているのかすら定かじゃない。そこに何があるのかも分からない。自分の身体も何処にあるのか分からない。



真っ黒な闇より深い白い闇が全身を包む。



汚い、汚い、汚い、汚い、汚い。


いくら洗っても洗っても洗っても綺麗にならない。1度汚れたモノはいくら洗っても綺麗にならない。戻らない。もう元には戻らない。もう後戻りは出来ない。変えられない。変わらない。変わりたい。戻りたい。許せない。許したくない。許すわけが無い。



ーーあなたがいつまでたってもしろくきれいにならないから……。



切り刻んで、混ぜて、舐めて、すすって、飲んで、取り込んで、ひとつになれば、今度こそ白く綺麗に産まれ変わることでしょう。


そうしたら、次は、きっと、私は、あなたのことを、愛せるのかも、知れません。











「それでは最後にホケちゃん様を買って帰りましょうか黒田くん」



やっと帰れる……。


白井がそう宣言したのは日が暮れて、辺りがすっかり真っ暗になってからであった。


丸1日、引きずり回されてショッピング。結果、両手に荷物、背中にも購入した荷物を背負っている。ついでに白井も白井で両手に荷物を持っていた。これが爆買いというヤツか。


ずっと歩き回って流石にヘトヘトだ。昨日のこともあるし、それに買い物中に通算3回ほど生気を搾り取られ追い討ちをかけられている。立ってるのもシンドいし、ダルいし、腰が痛い。


今はもうとにかく家に帰りたいという思いしかない。


というかこの荷物を抱えたまま、ちゃんと家に帰れるのか怪しい所もある。歩くのシンドい。



「やっぱりホケちゃん様は可愛いですっ」



当初の予定通り、締めとしてふざけた顔の鳥の人形を買ってきた白井。満面の笑みでそれを抱きしめている。その表情に疲れは一切見られず、ゲッソリした俺とは対照的に心なしかお肌ツヤツヤしてる。もう来た時より元気になってない?










「ーー……ココと。それからココと。ココにも付けて……。あとは……。はい。これで死角は無くなりますね!」



帰宅後。


疲れからソファにぐったりと沈み込んだ俺を後目に嬉々として購入してきた商品の開封を始めた白井。


取り出したのは大量の小型監視カメラである。それをスマホを弄りながら部屋中の至る所に設置する。おそらくスマホと監視カメラを同期させて稼働状況をチェックしながら取り付けているのだろう。


アレコレこだわりながら監視カメラの設置を終えた白井は、ひと仕事終えたとばかりに「ふぅ」と息を吐きながら俺の隣に腰を降ろした。



「どうでしょう?しっかりと私と黒田くん映ってますよね?」



ピタリと身体を寄せながら白井は自分のスマホの画面が俺にも見えるように見せてくる。


そこには苦虫を噛み潰したような渋い顔をした俺とそれに寄り添うウキウキ笑顔のミラクル聖女様が映っていた。なにこの美少女。クソ可愛い。



「……ちゃんと映ってるな」


「ちょっとカメラに向かって笑顔でピースしてもらってもいいですか?」


「…………」



言われた通りに笑顔でピースしてみる。


スマホの画面に無理やり作ったのが丸わかりなぎこち無い笑顔でピースする不審者が映った。


あー、これ、マジで見てらんないわ……。



「黒田くんは本当にブサイクな顔で笑いますね!もっと自然に笑えないんですか?”あの時”みたいに自然体なとってもいい笑顔で」



ぐっと白井は笑顔で下から俺を覗き込んできた。



「ほらぁ。黒田くん?笑顔笑顔!私、あの時の黒田くんみたいな笑顔がまた見たいです!あの時の醜悪で、醜くて、おぞましい狂った笑顔がもう一度見たいです!ねっ、黒田くん?いいですよね?またあの時みたいに笑ってくださいっ」



”あの時”が何を指すのかはすぐに理解出来た。


そうか、俺はあの時、笑っていたのか。



「ああ、そうですか」



白井は俺の内心を見透かしたかのように呟く。コバルトブルーの瞳は俺を捕らえて離さない。



「黒田くんはもうあの時みたいに笑えないんですね?それは残念ですね。でも仕方ないですね。全部、黒田くん自身のせいですから。でもこれだけでは終わらせませんよ」












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