20
「卑怯な黒田くんは逃走するかも知れないので手を繋ぎましょう」
白井と手と手、指と指を絡ませて手を握り会う。所謂、恋人繋ぎというヤツ。
何を今更と思うが、今までは腕を組むばかりで、こうして手を繋ぐのは初めてだと気がついた。抜群の今更感。
この白く綺麗で汚れひとつない、しゅべしゅべお手て。俺の鳩尾にめり込んだり、頬を何度も往復したり、脈打つ肉の棒を握り締めたり、擦ったりもしている。
表面上はこんなに綺麗なのに、その手は赤と白とが混じりあったスケベピンクで汚れているのだと考えると、人は見た目だけでは無いと思わされる。
外装はただの天使なのに、この女の中身は人を堕落させて支配するサキュバスかなんかだ(前日の記憶を思い出しながら)。
どうしてこんなことになってしまったのか。
いや、俺に原因があるわけだが。
だが、この白井のクレイジーさは元々この女がイカれた感情を抱えていてたのが露見しただけで、俺の行いはあくまできっかけだったのかも知れないとも思う。
でも、結局は俺のせいか。
イカれた女の歪んだ思考、言動を解き放ったのは俺だ。
だったらその責任を取るのは至極真っ当なことなのかも知れない。
ーーーーー
お手て繋いでパッと見は仲良さげなカップルの如く移動中。
どうやら目的にはショッピングモールらしい。いろいろ必要なものを買い揃えるらしい。
「お金とかって大丈夫なのか?」
ふと思った疑問を口にした。
食材を大量に買い込んだ時も、ゴム代で5桁の支払いをした時も、白井はなんの躊躇もなくポンッと支払っている。
そう簡単に諭吉を出せるのかと隣りで見ていて疑問だった。確実に学生の金銭感覚では無い。完全に金持ちのそれだ。
それに俺の住んでいるところの家賃やら何やらも払うとか言っていたし。
白井が何処かの金持ちのお嬢様という話は聞いたことは無い。その金は一体どこから湧いて出てくるのか。
「お金の心配はありませんよ。お金はありすぎて、使い所に困っていたので丁度いいぐらいです」
なにそのブルジョワ発言。
「オマエ、そんな金持ちだったの?」
「お金持ち……というのは微妙ですね。それはそうなんですが私が働いて稼いだお金では無いんです。あくまでポッと出てきたお金ですから」
「はい?」
「実は困っているおじいさんを助けたときに、お礼として宝くじを貰ったんです。それが当選しまして、流石におじいさんに悪いと思って返そうとは思ったんですが……「老い先短い爺が持ってるより、お嬢ちゃんのような未来ある若者が持っておった方がいいじゃろ。それにそれはワシがお嬢ちゃんにあげたもんじゃ。だからそれはお嬢ちゃんのもんじゃよ」って押し付けられてしまったんですよね」
「なるほど」
なんかほっこりいい話が出てきたな。それで白井は金を持っていると。
「ちなみに何等が当たったんだ?」
「1等です。私の口座に3億円ぐらいありますよ。だからお金の心配はまったく必要ありません」
「…………」
絶句。
3億。
3億かぁ……。
庶民すぎて、まったく想像も出来ないが、とりあえずアレか。一生遊んで暮らせる?それを学生である白井が持ってらっしゃる?もうゴールだろ。勝ち組人生。
持てる者は全てを持っている。
顔面圧倒的美少女。胸も尻もデカく誰もが羨む抜群のスタイル。勉強も運動も出来る。周囲からの人望も厚い。オマケに金も持ってらっしゃる。
この女神が持ってないものはなんだ?何も思いつかない。欲しい物は全部もっている。神は二物を与えず、むしろ存在が神。
完璧超人。パーフェクト。
改めて思う。
白井那由多という女は、化け物だ。
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