16
「俺、今日、バイトあるんだけど」
「そうですか。では黒田くんがアルバイトをする必要はもうありませんから、今日で辞めてくださいね」
「いや、そういうわけにはいかないだろ……」
「大丈夫です。そもそも黒田くんみたいな社会不適合者が働くことが間違ってます。何の役にもたたず、他人の足を引っ張ることしか出来ない黒田くんは働き先に自分が迷惑をかけているという自覚をちゃんと持ってください」
そんな迷惑はかけてないと反論しようと思ったが、それがあくまで自分自身の評価だということに気がつく。
もしかしたら、言われてないだけで実際はそうだったのかもしれない。陰口で無能と罵られてるかも知れない……なんて疑心暗鬼が脳裏を過ぎった。
いや大丈夫だとは思うが。
白井の説教じみた罵倒が心に刺さる。
「でも……辞めるにしても、こんな急に辞めたら、それこそ迷惑をかけると思うんだが」
「それも一理ありますね。分かりました。では2人でごめんなさいをしに行きましょう。「これまで多大なご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。今後、御社にご迷惑をかけない為にも今日限りで辞めさせて頂きたいお思います。自分勝手な申し出ではありますが何卒ご容赦ください」と、こんな感じで土下座して謝りましょう。大丈夫です。不本意ではありますがちゃんと私も黒田くんと一緒に謝罪しますので。誠心誠意、心から謝罪すればきっと分かっていただけます」
優しく諭すように懺悔強要してくる女神様。
やっぱりイカれてんな、この女神。そろそろ、この理不尽にも大分慣れてきたが。
当然ながらスラム下民の俺に拒否権はない。女神様の神託は絶対だ。
白井と共にバイト先であるファミレスチェーン店に向かい、そこで店長に謝り倒して辞めさせて運びになる。
部外者の白井同伴で詫びを入れに来たことに対して店長は困惑を隠せない様子だったが、難色を示しながらも申し出を了承してくれた。
難色を示してくれたということは少なからず必要とされていたということで、それで僅かに救われた気分だった。店長ありがとう。
しかし、今日のシフトに穴を開ける訳にはいかない。俺が居ないと店が回らなくなるということで、今日だけは働くことになった。
逆にこれに難色を示した白井だったが、店長が涙目になったことで許しを得た。ちなみに俺の提案は何一つ聞いてくれなかった。
「ねえ……黒田くん。黒田くんの彼女さん?そのなんて言うか……可愛いけど、怖すぎない?」
店長がコッソリと俺に耳打ちしてきた。
「なにを話してるんですか?」
俺がなにか答える前に白井のインターセプト。笑顔で肩がガッシリ掴まれる。反応が早いって。
店長は「ヒッ……!」と小さい悲鳴を漏らして逃げるように退散する。本当に店長には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「いいですか黒田くん。迷惑をかけないようにしっかりと働くんですよ?ずっと見てますので、もしなにか人様に迷惑をかけるようなことや、悪いことをしようというのであれば直ぐに連れ出しますからね?あと女性の接客はしてはいけませんからね?いいですね?私以外の他の女性と話してはいけません。分かりましたね?」
「俺、基本的に厨房だから接客はほぼしないけど……」
「分かりましたね?」
「はい……分かりました」
白井には有無を言わせぬ圧があった。真面目に働こうと思った。いや、バイトに関してはいつも真面目に働いているつもりだったけど。
そうして俺は最後のバイトに赴く。
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