13



針のむしろだ。


周囲に居るクラスメイト達からの視線が突き刺さる。剥き出しの敵愾心が重たくのしかかってくる。


クラスどころか学園内で崇められる女神様のお言葉で、俺はすっかり悪者とされた。


もはや俺が何を訴えたところで、この状況が覆る事は無いだろう。


実際、悪者だから反論の余地は皆無だ。


みなまで言わずとも俺が白井に手を出してしまったのが悪いのだ。


こうなることも考慮していなかった訳じゃない。


白井に手を出すと決めた時に覚悟はしていた。


だが、実際に体験してみないと分からないこともある。


これは……キツイな。



「はい、あーん」



キツい現状でさらに羞恥プレイが上乗せされて、さらにキツい。


自分のクラス。教室内で白井は俺にベッタリとくっついて甲斐甲斐しく俺の口へと食事を運んでいる。


相変わらず白井はニコニコと笑っている。笑いながら俺の食事の世話をしている。


それを見るクラスメイトの表情が凄いことになっている。もうなんか凄い変な顔してる。アレは一体どういう感情なのだろうか。おそらくその変な顔をしている本人すら現状をどう受け止めればいいのか理解できてはいないだろう。


分からないでもない。


だって断罪した相手にまるで恋人の様に寄り添っているのだから、訳が分からないだろう。俺にも訳が分からない。



「あっ、もう。黒田くんったら。頬にお米が付いてますよ?今取ってあげますねー!」



なんて言いながらグイッと白井の顔が寄ってくる。


フラッシュバックするのは今朝の一幕。白井が俺の顔を舐めまして垂れたミルクを舐めとった光景。


俺は寸前のところで白井の顔を掴んで止めた。


こいつ、この場で俺の顔を舐める気だ。



「し、白井さん……?ここで、それは、流石に……」


「ぐぐぐぐぐっ、黒田くん……?なんで、止めるん、です、か……?」



白井の押す力はとても強い。


妨害を突破し、俺の頬に付いた米粒を舌で舐めとらんと掴んだ手を押し返してくる。この女ァ……どんだけ顔を舐めたいんだ……!



「指で取れるんじゃないだろうか?」


「黒田くんを触ったら指が汚れてしまうじゃないですか。食事中なので衛生面には気をつけないといけませんので。この手を離してください舐められません」


「指がダメなら舌はもっと衛生面に問題あると思うんだが?」


「口内で黒田くんの毒素を消毒できるので問題ありません。取るなら指じゃなくて舌です。私の唾液まみれにして消毒するんです。だからこの手を離してく下さい」



何言ってんだ、この女……。



「それなら指で取って、その指を舐めて消毒でもすれば?」


「それでは無駄に手間がかかってしまうじゃないですか。直接舐めとった方が早いです。観念して顔を舐めさせてください黒田くん」


「おまえ……俺の顔を舐めたいだけだろ」


「何を言ってるんでしょうか?そんなことあるわけないじゃないですか。本来なら黒田くんみたいな汚物を自ら舌で舐めたいなんて非常識な人が居るわけないじゃないですか。これは致し方なくです。必要な事なので黒田くんの顔を舐め回すだけです。黒田くんの顔を舐め回すのは私の義務なんです。少しでも薄汚れて汚い黒田くんを綺麗にしませんと。だからこの手を離して下さい」


「わ、わかった……それなら水道で顔洗ってくるから。それでいいだろ?」


「ダメです。何を考えているんですか?黒田くんが顔洗って腐食した汚水を水道に流さないでください。配管が腐り落ちて大変なことになってしまいます。絶対に止めて下さい」


「俺の顔、そんな汚いの……?」


「汚いです。人類を滅ぼす程度の細菌兵器です。一度、世に放たれれば瞬く間に増殖感染を繰り返して地球上の生命が息絶えます。だから、それを食い止め世界中の人々の尊い命を守るためにも私が黒田くんの顔を舐め回さなければならないんです」


「そんなわけあるかよ……」


「というわけで観念して、この手を離してください。これでは黒田くんの顔を舐め回せません」


「やっぱり舐めたいだけだろ」


「汚物は唾液で消毒です!」


「ヒャッハーすな」



押し問答が繰り返された。


結果。頑なに譲らない白井に軍牌が上がる。


俺の顔は白井に舐め回された。


教室で。


クラスメイトの悲鳴が上がった。



顔面が……白井の唾液まみれでベタベタする……。顔を洗いたい。



「顔を洗ってはダメですからね。黒田くんの顔面は私の唾液で絶賛消毒中なので、しばらくはそのままで居てください。具体的に言うと今日一日は私の唾液まみれで生活してください。いいですね?」



白井はまるで俺の心情を汲み取ったように……。いや、こんな顔面唾液パックされてベタベタだったら誰でも顔を洗いたいと思うわ。



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