07
「見てください黒田くん!このベッドシーツに私の真っ赤な血の跡がありますよ!これは昨日黒田くんに私の初めてが奪われた時についたものですね!」
満面の笑みで白井は生々しい血の跡がついたベッドシーツを広げて見せてくる。
洗濯機に突っ込んでいたものを目ざとく見つけたようだ。何でそんなものを持ち出して笑顔でいるのか。
自分の血の跡に、他にも色んな液体が染み込んでいるであろうベッドシーツ。
白井にとっては忌まわしき痕跡では無いのだろうか……白井が何を考えているのか、まるで分からない。
「折角なので記念に残しておきましょうか?」
トンデモ発言が飛んできた。それは本気で言ってるのか?
「洗濯、した方がいいと思うんだが……」
「そうですねぇ。黒田くんとしては犯行の証拠を残しておくのは都合が悪いんですもんね。でしたら、やっぱり、このまま保管しておきましょうか」
マジかよ……。
「そう簡単に証拠隠滅出来ると思ったら大間違いですよ! 」
ふふんっ、と得意気に笑ってみせる白井。
証拠隠滅とか、そういう話ではない。それ以前の話だ。
いや、もしかしたら俺の頭がおかしくなってるのかもしれない。それは白井を貶めようと画策して行動を開始してからか。頭のネジが何本か外れていた。それは紛れもない事実。
そうか、やっぱり俺の頭がおかしくなっていたのか。間違えたのは俺で、正しいのは白井なんだ。
「それでは、このベッドシーツは必要で残しておくものですね。さて、あと捨ててしまうのは……」
俺のスマホが白井専用機にされたーーその後。白井は俺の部屋の”お掃除”を始めた。
『もう、そこそこの時間ですから、本格的なお掃除は休日にするとして、今日は必要が無いものを予め見繕って置くことにしましょう』
といった具合で、俺の私物が選別されていく。白井の見立てでアレもイラない、コレもイラないと、次から次へと必要無いものにされていく。
「あっ、こんなところにも私以外の女性が写ってますね。こんなのダメです。ポイですよポイ。黒田くんの目には私以外の女性を写してはイケません!」
要らない物とする選別の基準は主にそこだった。
白井では無い、別の女の姿がある物が軒並み排除されていく。
漫画や雑誌、さらにはたまたま女が写っていた生活用品すら要らないものとして処理するようだった。
その行動は異常なまでに徹底されていて、部屋の隅から隅まで白井のチェックが入る。
「……そこまでする必要があるのか」
「あるに決まってるじゃないですか」
思わず漏れた言葉に白井はすかさず反応を示す。
「他人を貶めて無理矢理襲ってしまう黒田くん。そんな黒田くんから皆さんを守る為にも、黒田くんの相手をするのは私だけであるべきです。他の皆さんに被害を出さないようにするのは私の使命なんです。ですから、他の女の人が黒田くんの目に入るのは極力控えるべきです」
「…………」
「いいですか?黒田くんが見ていいのは私だけですからね?」
白井がその身を寄せてくる。
ふわりと白井の両手が俺の頬を包み込み、口と口とが触れてしまいそうな超至近距離まで、白井の女神のような美貌が眼前に迫り来る。
俺のくすんだ黒い瞳を白井の澄んだ青空のような碧眼が覗き込む。
「そろそろ……我慢するのも限界ですか?」
声と共に白井の吐息が俺の顔にかかった。
「女性を犯すことしか考えていないケダモノの黒田くん……。あなたは私と触れ合ってる間、ずっと興奮していましたね?ずっと、ずっと、昨日のように私のことを犯したいと、そればかりを考えていましたね?」
「そ、そんな、こと……は……」
否定しようとした。だが、否定しきることは出来なかった。
白井が俺に触れる度、白井の身体が触れる度に昨日の記憶が何度もフラッシュバックした。あの至福のひと時が、何度も脳裏を過ぎった。
それは紛れもない事実だった。
「いいですよ。黒田くんは、私の……私だけの身体を使用してください」
それは女神が人々にもたらす救済のお告げのように。
「他の人を見ては行けません。私だけを見てください。私だけを見て、私にだけ興奮してください。黒田くんに必要なのは私だけです。黒田くんが使っていいのは私だけです。他の人でそういったことを考えてはいけません。してはいけません。私だけを使用して他の人に迷惑をかけてはいけません。危害を加えてはいけません。それは全て私が引き受けましょう。あなたの欲望は全て私がこの身で受け止めます」
慈愛に満ち溢れたその言葉は天使の囁きか、それとも堕落へと誘う悪魔の囁きか。
「ほら、黒田くん……ベッドに行きましょう。あなたの性に狂った欲望も、穢れた罪も、全て私の身体で吐き出して下さい」
手を引かれてベッドへ誘われる。
「私の身体を自由に使用してください」
昨日の行為がフラッシュバックする。
また、あの至高のひと時が味わえる。
1度だけ、1度だけで終わらせるつもりだったのに。
心臓が鳴る。警鐘のように脈打つ。
血が滾る。血流が下半身に集まり、否応無しに興奮が形を成していく。
「私だけ、私だけの事しか考えられなくなるように……あなたの全てを絞り尽くしてあげましょう」
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