04



「一緒に帰りましょう、黒田くん」



放課後になると白井がやって来た。一緒に下校をお望みのようである。


周囲の目もあるし、その申し出を断りたいとことではある。


だが、昼休みを得て分かったことは、白井に何を言おうとも俺がクズであることを引き合いに封殺されてしまう事だ。


まるで加害者に人権など無いと言わんばかりに……まあ、その通りなんだが。


正しいのは白井であり、間違ってるのは俺だ。



「分かった」



椅子に張り付いていた身体を引き剥がして俺は立ち上がった。






ーーーーー






「流石に離れて歩かないか?」


「ダメです。卑怯な黒田くんは私が手を離せば逃亡します。絶対に離しませんよ」



ニッコリと微笑みながら白井はデカい胸で挟んでいた俺の腕を強く抱きしめなおす。ふわりとホットミルクのような甘い香りがして、くらりと脳が震える。白井の匂いを嗅ぐとふつふつと心の奥底から劣情が湧いてくる。


たゆんたゆんのデカパイに挟まれるのは大変気持ちが良いのだが、理由が理由だし、通行人の嫉妬混じりの視線も痛いし、素直に現状は楽しめない。微妙な気持ちだ。



「歩きづらくないか?」


「確かにそうですが、急ぐ必要もありませんので。ゆっくりと2人で歩いて行けば特に気になりませんよ」



この居心地の悪い衆人環視からさっさと逃れたい俺の事など知ったことでは無いとばかりに、宣言通りゆっくり歩みを進める白井。


女神様のお言葉は絶対だった。諦めよう。



そこで、ふと思った。


特に何も考えず帰路を歩いていた訳だが、進む道のりの先は俺が一人暮らしをしているマンションへと向かっている。


白井にストーカーじみた真似をしていた俺は白井の自宅が何処にあるかを知っていた。


白井の家は俺の家とは逆方向だ。



「なあ、白井。俺の部屋に来るのか?」


「そうですよ?」



俺の問いに白井は不思議そうに小首を傾げた。何を当たり前のことを聞くのかと。


当たり前では無いだろうと思う。だって俺の部屋は言わば犯行現場だ。そこで俺は白井を……。


それが昨日の今日で特に気にした様子もなく来れるのか。また同じ様な酷い目に会うとは思わないのか。


むしろ、そうなることを望んでいるのか?


そうであるならば、それは……俺としても望むところだが。


白井は俺がどんな手を使ってでも味わいたいと思わせた極上の女で、普通では絶対に手が届かないと思った。だからこそ卑劣な手段で騙し行為に及んだ。


元から1度だけで終わらせるつもりだった。だから行為の後に白井を脅す為に使った材料は全て綺麗さっぱり処分したし、白井には「警察に通報するなら通報しろ」と言った。


卑怯な真似だ。俺の断罪を白井に丸投げした。自ら裁かれることを恐れて、それを白井に委ねて逃げたんだ。


聖女のように心優しい白井ならば見逃して、許してくれるのではないかと最低な打算も少なからずあった。


ああ、そうだ。俺はどこを取っても最低な糞野郎だ。



『あなたを絶対に許しません』



その結果がコレだ。


白井は俺を許さなかった。だが通報はされていない。天使様が自ら裁きを下すのだ。



「にこにこ」


「…………」



白井は腕を組んで歩きながら楽しげに笑っている。傍から見ればさぞ幸せそうな雰囲気だろう。



…………。



やっぱり……。



現状、傍から見たらどっからどう見てもただの熱々バカップルだよなぁ……。



「あっ、黒田くん。家に帰る前にスーパーに寄って行きましょう。今日のお夕飯と、明日の朝ごはんと、それからお弁当の食材も買っておかないといけません!」



昼休みに言っていた、これから俺の食事は全て用意すると言ってたのは本気なのか……。


昼に謎の白い物体を食べた(食べさせられた)がお世辞抜きに美味かった。今後も白井の手料理が食べられるというのは役得以外の何物でもない。


が、相当な手間がかかるだろう。


コレはその手間を押しんでまで白井がすることなのか?


俺の為に。


いや、白井にとっては違うのか?






ーーーーー






「たくさん買ってしまいました。ちょっと張り切りすぎましたね」



悪戯っ子のようにテヘペロする白井。ちょっとあざとい気もするが白井ぐらいの美少女になると、ただただ可愛いだけだった。


途中、スーパーに立ち寄り、白井はこれでもかと食材を買い込んだ。パンパンに膨れ上がった一番大きいサイズのレジ袋が2つ。


荷物は俺が持つと気を利かせたが「腕が組めなくなるので1つづつ持ちましょう」とお互い1つづつレジ袋を持っている。


そして、相も変わらず白井は俺の腕に自分の腕を絡めてピタリと身を寄せてくる。


余っ程、身体をくっつけて居たいのか。いや、これは単に「離したら逃げ出すから」ってところだろう。そろそろ俺も分かってきた。



それにしても……。



「白井さん。その……これ、俺のメシの材料なんだろ?流石に代金は俺が払おうと思うんだが」



大量の食材。これだけの量だ。金額にしたらそれなりの値段になるだろう。だが、その支払いは白井がして、俺に払わせようとはしなかった。


俺は一人暮らしで金銭的に余裕がある訳では無い。現にバイトもしていて、バイト代を生活費の足しにしているくらいだ。


正直、この大量の食材の代金を支払うとなると、かなり財布に痛い。それでも俺が食べるものなら食費として割り切れる。



「お金は必要ありません」



しかし、白井は俺の申し出をバッサリと切り捨てた。



「いや、でも……」


「黒田くんがお金を払っては意味が無いんです」


「意味が無い……?」


「そうですよぉ。黒田くんが食べていいモノは私のお金で買った食材で、私が調理した食事だけですから」



白井は女神様のようにニッコリと微笑む。



「あー、そうですね。帰宅してからでいいので、お財布と通帳と銀行のカード……他にそれらに関するものは全部出してください。私が責任を待って預かりますので」





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