03
白井に腕を引かれて校内を練り歩いた。特に急ぐことも無くゆったりと。終始、腕に白井は抱きついたままだった。
傍から見れば恋人を通り越してバカップルのソレ。
まるで自分達の仲の良さを周囲にアピールしていると捉えられてもおかしくない状況だった。
お陰様で”あの”白井那由多に彼氏が出来たのかと、それは何処の糞野郎なのかと、校内は蜂の巣をつついたように騒がしい。
「おい……いいのか、コレ」
「何がでしょうか?」
現状を理解しているのか、していないのか。白井はニコニコと笑っているだけで特別気にした素振りを見せない。
「何がって……白井さんに変な噂が」
「どんな噂でしょうか?」
「白井さんと俺が付き合ってるなんて噂だよ」
「ふふっ。それはとてもおかしな話ですね。黒田くんみたいな最低な人と恋人同士になるはずないじゃないですか」
白井は「なんの冗談ですか?」とおかしそうに微笑んだ。表情とは裏腹にその言葉は辛辣で心を抉られる。
「でも、それでもいいかもしれませんね。皆さんが私と黒田くんが恋人同士なのだと勘違いしてくれるなら、それだけで黒田くんに近づこうとする人を減らせます」
自分以外の他人は近づけさせない、と。そんな独占欲の強い彼女のような発言だが……。
「悪人の黒田くんと関わると酷い目にあってしまいますから。私以外の被害者を出さないためにも、その方が好都合ですね!」
その本質は全く別のモノ。
「黒田くんに犯される被害者は私だけに留めるべきです。私は善良な皆さんに悲しい思いをして欲しくないです」
他人を思いやる慈愛の心。それは世のため人のためにその身を捧げる自己犠牲の精神か。
そう言葉を紡ぎ、微笑みながらも、白井は俺の腕をキツく抱きしめている。
俺にはそれが「これは私のモノで他の誰にも渡さない」と語っているようにも思えた。
いや、これはただの俺の妄想ーー願望か……。
貼り付けられた微笑みの裏で白井は一体どう考えているのか、俺には何も分からなかった。
ーーーーー
大勢の生徒の目に晒されながら歩き回った末に辿り着いたのは人気の無い校舎裏。校舎が影になっていて日当たりが悪く、昼間なのにジメッと湿度が高く薄暗い。
「ここなら他の方が来ることは無さそうですね」
腰掛けられそうなコンクリートの段差にハンカチを敷いてから白井はその上に腰を下ろした。
俺を見上げながらポンポンと自分の隣の地面を叩く白井。隣に座れということだろう。俺はそれに従って白井の隣に腰を下ろした。
「それではお昼にしましょう。さて黒田くんのお昼ご飯はなんですか?」
「俺はこれだな」
持っていたコンビニのレジ袋から菓子パン1つとペットボトルのお茶を取り出した。なんとも味気ない昼飯である。
「では、それは私が食べますね」
「……は?」
「大丈夫ですよ。黒田くんから食べ物を取り上げて断食させる訳では無いです。黒田くんには私が作ってきたお弁当を食べて頂きます」
「は??」
「今後、黒田くんの食事は全て私が管理します。これからは私が調理した物しか食べてはいけませんよ」
「は???」
どうしてそうなった?
「危険人物である黒田くんが自分で用意する食べ物は何が入っているか分からない危険物です。それも何か危ないお薬を混入しているのでしょう?」
「いや、これコンビニで買った市販のものだし。自分が食べるモノに危ないもの入れないだろ……」
「嘘ですね。黒田くんはいつも食事と一緒に危ないお薬も摂取しているから、頭がおかしくなってしまったんですよね?ですから、お薬はもうやめてもらいます」
流石に危ない薬はヤッて無いが……。
白井の中で俺はヤバい薬を常用しているヤバい奴にされている。ツッコミどころは大いにあるが、そう思われても仕方の無いことを俺は白井にした。反論は出来ない。
「……分かったよ。でも、これからも俺の食事は全て白井さんが用意するのか……?」
「はい。そうですよ」
そんなことはなんてこと無いと白井は曇りない笑顔を見せる。
「黒田くんの口に入るものは全て私が用意します。黒田くんが摂取する栄養ーー身体を構築する全てのモノを私が管理するんです。そうすれば最低な黒田くんも少なからずマトモになると思うんです」
「…………」
思わず言葉を失う。絶句。
なんと言うか。あまりにも、あまりにもアレじゃないだろうか。
上手く言葉が出てこない。
積み重なっていく白井の言動。白井那由多という女はこんな女だったのか。元からこうだっのか、俺のせいでこうなったのかは、分からない。
俺が犯した罪の重さが背中にのしかかり。その重さを増していく気がした。
「そして、こちらが今日の黒田くんの昼食になりますね」
持ってきていたトートバッグから白井は真っ黒い布に包まれた弁当箱と思しき物を取り出した。それがどうやら俺の昼飯らしい。
「今日は事前の準備が足りなかったので、有り合わせのものになってしまったのですが……次からはちゃんとした物を作りますね」
言いながら白井は弁当の包みを解いていく。黒い包みの中から黒い弁当箱を取り出して蓋を開けた。
弁当箱の中身は……真っ白だった。
白米にオカズと思われる白い謎の物体が詰められていた。なんだあれ?マシュマロ?いやハンペンか何か?正直な話、とても美味そうには見えない。
「はい、あーん」
白米を箸で摘んでそれを俺の口元に近づけてくる。当然のように食べさせようとしてくる。
「……いや、自分で食べられるんだが」
「人の気持ちを軽々しく踏みにじる非情な黒田くんの事です。食べるふりをして私が作った料理を捨てるんですよね?そんなことはさせませんよ。ちゃんと私が食べさせてあげます」
そんなことをする筈ないが、それを否定出来ない。
白井に食べさせて貰ってなにか不都合がある訳じゃない。白井のやりたい様にやらせよう。
「はい、あーん」
意外にも白井の作った料理は美味かった。最後まで白い物体がなんの料理かは分からなかったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます