第3話彼女なぜか激怒《げきおこ》

 昼休み、ようやく見つけた小夜子に

「本当ごめんな。俺、お前が調子悪いって気付かへんくて。変なこと頼んで悪かった」

「調子が悪い?」

 言われた彼女は不思議そうな顔をしている。

「え、ちゃうの?カメがお前がしんどそうやったって」

「別にえらくはありません」

「そうなん?」

 確かに相手は調子を崩しているようには見えない。やはり自分の目はおかしくはなかった。彼女に対するアンテナの高さが狂っているわけでなないことに内心ほっとしていると

「すみませんが、私これから訪問があるので」

「あ、ああ」

 何か違和感。

(俺、この時間、あいつに訪問付けてたか?誰かと交代したんかな)

 河野はこのヘルパーステーションの責任者。職員に訪問を振り分けるのもこの男の仕事である。今日昼一番で小夜子に訪問を付けた記憶はなかった。

(何か怒ってる?)

 つい気になって後を追おうとすると

「河野さん」

 と職員に呼び止められて、仕方なく追跡は諦める。

「急に松永さんがご家族とお出かけだそうで、入浴どうしましょう?」

「また急やな。せやったら…」

 突如起きた訪問変更に対応してから、コーヒーを飲もうと休憩室の扉を開けると、訪問があると去ったはずの小夜子が、職員の吉川徹と楽しげに会話している。

(なんやあいつ。訪問ちゃうんか。しかもよりにもよって吉川さんと)

「あ、河野さん」

 笑みを浮かべて中へ入るのを促す吉川とは対象的に、小夜子はこちらを見ようともしない。

「お邪魔します」

「いえいえどうぞ」

 始終無言の彼女。閉める扉。

(あいつ何やねん!!吉川さんはお前を狙ってんねんで、分かっとんのか!くそ、楽しそうに会話しやがって。どうせ俺は吉川さんみたいな芸術を解する脳のない、退屈な男や!)

「あの、河野さん、萩原ケアマネージャーからお電話が」

「今忙しいんで、後で掛けますって言うとってください!」

「え、あ、はい」

「河野さん、外部の訪問のことなんですけど」

「また後で聞きます」

「河野さん、ケアプランが届きました。どこに置いておいたら」

「俺は今忙しいねん!!」

 事業所内が騒然とする。

 そこへ所長の高遠健吾がやってきた。

「皆、そっとしといてあげようか。で、河野君、ちょっと」

 手招き。

 うん、河野太陽、やってしまいました。



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