第2話最愛の彼女の不調に気づけない最悪な日

「河野君、ホント仕事増やさないでくれる。女の子殺すとかマジ有り得ないから」

「人聞き悪いこと言うな。誰が殺すか。勝手に倒れたんや」

 言い合いをしているのは関連事業所の訪問看護に勤める亀谷沙耶。河野とは専門学校の同期であり、良きライバルでもある。

 あれから小夜子は少女をもて余して、通りすがりの亀谷に看護をお願いしたらしい。

(あいつも訪問があったのに悪いことしたな)

 と、目の前の亀谷には反省の気持ちもなく、小夜子の姿を探すも見当たらない。

「聞いたわよ。あの娘、『陽だまり』の玄関で河野君に情熱的な愛の告白したそうじゃない」

「は?何でそれを!」

「皆知ってるわよ。あの後入ってきた門脇ケアマネが一部始終を見てたそうだし、鷹取さんが喜んで事細かにステーションで話してたから」

「相談員は守秘義務が大切やろ。あの人、ほんま…」

「とにかく。自分に気のある女の子を瞬殺しておいて、他の人間にその看護頼むって、どういう神経なの!」

「しゃーないやん。俺あの後すぐに担当者会議あってん。ま、俺の顔が見るだけで目眩おこすくらい神々しかった、ちゅうことやろ」

「ほんと、鼻持ちならない男ね!!」

「どうとでもおっしゃってください」

 亀谷はわざとらしく、音を立てて椅子から立ち上がると仕事に戻ろうとする。ふと振り返ってから、

「後でちゃんと一ノ瀬さんに謝っときなさいよ。何か一ノ瀬さんのほうが調子が悪そうだったもの。訪問が回るなら帰らせてあげたら?」

「そうなんか。分かった、ありがとう」

「ちゃんとお礼言えるんじゃないの。最初から言いなさいよね」

 言う後ろ姿を見ながら、

「あいつ、そんな調子悪かったんか。俺の目、どないなってん」

 やはり小夜子にだけ反省する河野だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る