第6話 放課後デート……したかった。
今日の授業が終わり、帰りのHRが始まった。
「明日、来週行われるオリエンテーション合宿の説明をする。4限目にあるから、明日は必ず学校に来るようにしとけよ」
そう言って担任はHRを締めくくり、教室を出て行った。
「じゃあな、出流。達者でな? あいつは良い奴だったってちゃんと言うから」
「勝手に殺すなよ……」
それだけ言い残すと高貴は教室を出て行った。
「イズっち! 帰ろう!」
輝夜が笑顔でこちらにやってきた。
「あぁ、静流も一緒だけどいいか?」
「シズっちも?」
「私も一緒にいいかな?」
「シズっちならいいよ! じゃあ三人で帰ろう!」
俺と静流と輝夜で教室を出る……が、その前にさっきの話が気になり、チラッと周りを見渡してみた。
クラスの端の方で男子五、六人が俺のことを穴が空くほど見ていた。いや、むしろそのまま目からビームを出さんばかりの視線だった。
あれが噂のやつらか……? 関わらないように気をつけよう……
俺と静流と輝夜は靴箱まで行き、靴に履き替えようとしたが、静流はできなかった。
「うわ……」
「ん? どうしたんだ静流?」
「ごめん……先行っててくれない? ちょっと用事出来ちゃった」
そう言うと、静流は手に一通の手紙を持っていた。
「シズっちまた告白?」
「多分ね」
「じゃあ、駅前のあの店に行ってるね」
「うん、あとで向かうね」
そう言うと静流はどこかへ行ってしまった。
「じゃあ、行こっか?」
「……うん」
けっきょく、俺と輝夜だけで帰ることになってしまった。
まぁ、でも女の子と二人で帰るなんて放課後デートみたいでいいな。
俺と輝夜は靴に履き替え、校門まで特に会話もなく、ついてしまった……
そのまま俺達は駅に向かって歩き出した。
輝夜とは昨日初めて会話したんだ。いきなり二人っきりはちょっと気まずい。
かといってこのままだとダメだよな?
「えっとー……駅前に行くの?」
「うん、よく行くお店があるんだ」
「そうなんだ。何のお店?」
「普通のカフェだよ。駅前って言っても脇道に入っていくからちょっとした穴場なんだ」
「へぇー、何かオススメある?」
「んー、イズっちは普段紅茶とか飲む?」
「あんまり飲まないかな。別に嫌いってわけじゃないけど、コーヒーとかの方がよく飲むね」
「あっ、なら、オリジナルブレンドって言うのがいいかも? あたしは飲んだことないけど、マスターとシズっちが美味しいって言ってたから」
「静流が美味しいって言うなら美味しいんだろうな! それ頼むことにするよ」
「……イズっちはシズっちと仲いいの?」
「ん? まぁ、友達になったのはつい最近だけどちょくちょく話はするよ?」
「どんな話してるの?」
「んー? 大した話はしてないかな? 昨日何見たとか、あれおもしろかったとか」
「……ふーん、叶さんとは何話すの?」
「……涼華と? ……これと言って大した会話はしてないな」
「嘘」
「えぇ? 本当にちょっとした会話しかしてないよ?」
「じゃあ昼休み何話してたの?」
「昼? あぁ、明日お弁当作ってもらうから、何が好きか聞かれたから答えただけだよ」
「……明日お弁当作ってもらうの? 叶さんから」
「うん、昨日のお礼をさせて欲しいって言われてね」
「なるほどね……周防さんとは? 周防さん男子の上着着てたけど、あれイズっちのだよね? 今日返した上着着てないし」
「うん、今日一緒に学食食べたんだけど、食器返す時に洗い場のおばちゃんがエリに水かけちゃって前がビショビショだったから上着を貸してあげたんだ」
「ふーん……じゃあ明日には返ってくるんだね」
「うん、あぁ、でも、そのあと涼華に貸すことになってる」
「……なんで?」
「……さぁ? 輝夜と智恵理には貸して自分には貸してくれないのかって言われて」
「……へぇ~。そっか。叶さんは確定だね」
「? 何が?」
「気にしないで。それで? 周防さんとはどんな話するの?」
「タバスコの話かな」
「タバスコ?」
「うん、エリってタバスコが好きみたいだからさ。今日トマトスープにハラペーニョを入れてもらったんだけど、めちゃくちゃ美味しかったよ」
「学食にハラペーニョなんてあるの?」
「いや、エリが家から俺の為に持ってきてくれたんだ」
「……へぇ~。なるほどね」
「……さっきから何で俺と他の人の会話を聞きたがるんだ?」
「気にしないで」
これで気にするなって言う方が無理があると思うんだけど……
なんか輝夜の様子がちょっと怖いから聞くのはやめとこ……
そんな会話をしているとだいぶ駅の近くまでやってきた。
駅前には社会人の人が帰る時間ではないとは言え、それなりに人がいる。
でも、時間や人の多さなんて関係ないのだろう。事が起きる時には起きるもののようだ。
「誰かあああああ! その人を捕まえてえええ! 引ったくりよおおおおおお」
正面から大きな声が聞こえ、一人の黒尽くめの男が、女性用の鞄を持ってこちらに向かって走ってくる。犯罪者のお手本のような格好だ。
俺は、彼を捕まえようと動こうとするが、その前にいち早く動いた者がいた―――輝夜だ。
彼女は自分の鞄をその場に捨てて引ったくりを捕まえようと、自ら犯人に迫るが……
「どけぇぇぇぇぇ!!」
男は引ったくった鞄を豪快にブンブン振り回しながら輝夜の横顔にぶつけた。
「きゃっ!」
輝夜は咄嗟に腕でガードするが、走って犯人に向かっていた所為で体勢が崩れ、横に倒れてしまった。
すぐに輝夜に駆け寄りたいが、そういう訳にも行かない。
「邪魔だあぁぁぁぁぁぁ!!」
男は再度鞄をブンブン振り回し俺に当てようとする。
でも――― それさっきやったよね?
俺は顔に当ててくるだろうと予想して、腰を落として男の下半身に向かって飛びついた。
我ながらボールを持ったラグビー選手でも止めれそうな良いタックルだと思う。
俺の予測は的中し、鞄は空を切り、男を下半身に正面から飛びつき、男は後ろに倒れた。
「がっ!? 糞がっ! 離せっ!!」
男は俺から逃れようと鞄から手を離し、俺の顔を殴ってくる。
「ぐっ……離すかぁぁぁ! だれかああああああ!」
俺は痛みに耐える為、大声を上げ、自分に活を入れる。
「ふざけんな! クソ! クソッ!!」
痛い―――早く―――誰か―――
俺は殴られていない右の目を僅かに開き、誰かが来るのを待つ。
そして―――
ガン!!!
「ぐぁっ!」
俺が薄く開いた目に入ったのは、男の頭を思いっ切り蹴り上げる白い太ももと白いパンツだった……
「イズっちに何してんだ!!」
―――蹴り上げた犯人は鬼の形相をした輝夜だったようだ。
そのまま輝夜は男の頭を全力で踏みまくっている。
おかげで、男が俺を殴るのをやめ、頭を守り始めたので、俺は男に馬乗りになり、両手を押さえた。
そして、周りに人が集まりだし、他の人が犯人を取り押さえてくれた。
俺は犯人から離れ、フラフラと成りながら汚れることを厭わず、地面にペタンと座った。
「イズっち! だいじょ……!? ちょ、目!? 病院! 誰かー! 冷やす物持ってませんかー!? あと救急車呼んで下さーい!」
左目の瞼が上がらない。
いや、あがっているのか?
わからない。多分腫れてるんだろうな。
「はっ? ちょ! 出流、だいじょ、うわっ!」
開かない目の方から声が聞こえる。静流っぽい気がするが……
「……静流か?」
「そうだよ! えっとえっと、ちょっと待って!」
静流が横でゴソゴソ何かやっている。
少しすると冷たい何かが左目に押し当てられた。
「とりあえず、ハンカチを水で濡らしたの当ててるから!」
冷たくて気持ちいいな……
やがて、周りの喧騒がより強くなると共にサイレンを鳴らした車が近づいてきた。
☆―――――☆
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