第5話 あれ、今日もこのパターンなの?


 俺は輝夜から受け取った上着を着て、授業を受けた。

 気の所為かもしれないけど、上着からいい匂いがする。


 どこか浮ついた気持ちで授業を受け、一限、二限と過ぎて行き、昼食の時間になった。


「イズ」


「ん、あぁ。昼飯だよな?」


「うん」


「行こうか。今日は財布持ってきた?」


「……ある」


「はは、よかったよ」


「……いじわる」


「ごめんごめん」


 そう言って俺は席を立ち、エリと一緒に学食に向かった。

 学食へ向かうと、今日はそれなりに人がいる様子だった。


「昨日より多いな」


「うん、でも座れそう」


「だな。さっさと券売機で券買っちゃおうか」


「イズは何食べるの?」


「俺はいつも無難に日替わりかな」


「今日の日替わり何?」


「えっとー……豚の生姜焼き定食だな」


「……悪くないけど、今日はダメ」


「えっ?」


 エリは俺の日替わりにダメ出しをして券売機のメニューを睨むように眺め始めた。そして―――


「これにして」


「これって……オムライス定食トマトスープ付き?」


「そう」


 何故? と疑問に思うけど、ここはエリの言う通りにしておこう。

 俺はお金を投入して、言われた券を購入した。

 横を見ると、エリも同じ物を買ったようだ。

 俺達は食券をカウンターに持って行き、オムライス定食が運ばれてくるのを待つ。


 ―――数分すると、学食のおばちゃんがオムライス定食を持ってきてくれた。

 俺とエリはそれを受け取り、空いている席に座った。


「で? オムライスにタバスコかけるのか?」


「違う、こっち」


 エリが指差したのは―――


「トマトスープ?」


「うん、それにこれをかける」


 エリはポケットから緑の小瓶を取り出した。

 

「何それ?」


「これがハラペーニョ。これを―――」


 エリは俺のトマトスープに5滴ほど垂らした。


「飲んでみて」


 俺はトマトスープを軽く混ぜるように揺すって、恐る恐る一口飲んでみた。


「!? へぇ! タバスコほど辛くはないけど、普通に飲むトマトソースより酸味があってスッキリした味になるな!」


「ふふ、これがハラペーニョの魅力」


「あぁ、驚いたよ」


 そしてエリも自分のトマトスープに10滴ほど垂らし飲み始めた。


「うん、いい味」


「ありがとな、タバスコの魅力を教えてくれて」


「! こちらこそありがと……」


「?」


 なぜか俺にもお礼を言って、エリはそのままオムライスを食べ始めた。

 俺も食べるか。


 ―――そこから特に会話はなく、黙々とオムライスを食べた。


「今日もおいしかったなー」


「そうだね」


「じゃあ食器片づけて教室戻ろうか」


「うん」


 俺とエリは二人揃って食器を洗い場の方へ持って行く。

 そして、洗い場に食器を置こうとした時にそれは起きた。


「あっ!?」


 洗い場で作業中のおばちゃんが流しっぱなしの水が出ている蛇口に手が当たり、その影響で水の出る部分が狭まり、勢いよくこちらに飛んできた。

 その被害に遭ったのは―――


「…………うぇ」


 エリの正面の上半身部分がずぶ濡れになってしまった。


「え、エリ!? 大丈夫か!?」

「あらあら、ごめんなさい! すぐにタオル持ってくるから!」


 洗い場のおばちゃんがパタパタと走ってタオルを取りに行ったので俺はエリを見たのだが……

 

「っ!?」


 シャツが透けてブラが見えてる……

 俺はどうするか、一瞬思考した後に、今日帰ってきたばかりの上着を脱ぎ、エリの正面から上着を押し当てた。


「え、エリ、その、透けてるから……」


「!?」


 エリは俺に言われて、状況を理解して驚きの表情になり、俺が持っていた上着を剥ぎ取り、誰にも見られないように自分の上半身を隠した。

 俺もこれ以上見ないように、顔を逸らす。


「……見た?」


「……すまん」


「……イズのエッチ」

 

 エリは恥ずかしそうな声色で文句を言ってきた。

 

「……その、見る気はなかったんだが……」


「……わかってる。でもこの上着は借りておく」


「あ、あぁ、好きにしてくれ」


 そして、エリはおばちゃんが持ってきたタオルで拭いたが、シャツが乾く訳ではないので、俺の上着を着ることになった。


「……袖が長い」


「そりゃー……ねぇ?」


 エリは袖をブラブラさせて、何を思ったのか、唐突に袖を自分の鼻に近づけた。

 

「……イズの匂いがする」


「えっ!? あの、臭いかも知れないから匂い嗅ぐのはちょっと……」


「? 別に臭くはないよ」


「そ、そうか?」


「うん、大丈夫」

 

 ……一先ずエリは満足したようだ。


 エリの応急処置が終わり、昼休みの時間も少なくなってきたので、俺達は二人揃って教室に戻った。


「あ、出流く……」


「ん? どうしたんだ涼華?」


 涼華は俺とエリを見ている。


「……もしかして、周防さんが着てるのは出流君の上着かな?」


「あぁ、エリがシャツを濡らしてから上着を貸してあげたんだ」


「エリ……? そう、そうなんだ?」


「う、うん」


「周防さんに今日一日貸しておくの?」


「そうなると思う」


「……じゃあ明日は私に貸して?」


「えっ? な、なんで?」


「聖さんと周防さんには上着貸したんだよね?」


「う、うん? なんで輝夜に貸したこと知ってるんだ?」


「女子ネットワークで回ってきたの」


 どんな情報が出回っているんだ……?


「それで、出流君は、私には貸してくれないの?」


「えっ? あぁ、わ、わかった明日貸すよ」


「ありがとう! それでね、出流君の好きな食べ物は何かな? 明日のお弁当に入れようと思って」


「好きな食べ物かー……なんだろう、肉系かな?」


「お肉ね、お弁当に入れるなら唐揚げとかかな?」


「定番でおいしいよね!」


「じゃあ唐揚げ作ってくるから楽しみにしててね!」


 それだけ聞くとそれだけ伝えると涼華は離れていった。


「……イズは明日学食来ない?」


「あぁ、明日は涼華がお弁当作ってきてくれるらしくて、一緒に食べるつもりなんだ」


「……わかった、じゃ」


 エリも自席に戻って行くようだ。

 俺も自分の席に戻るかと思い、自席の方を見ると高貴と静流と目が合った。

 なんだろうと思い自席に戻ると……


「なんで男子の上着を周防さんが着てるんだ?」

「あれ、出流のだよね? 今度は周防さんに貸したの?」


「あぁ、学食でエリがびしょ濡れになってね」


 高貴と静流は顔を見合わせて俺を見て困り顔で伝えてきた。


「……学食でそんなことに、なることあるか?」

「周防さんの運が悪いのか、出流の運が悪いのか……」


「…………」


「……あれ、そういえば放課後、輝夜と出掛けるって言ってたよね?」


「あぁ、そうだよ」


「……また何か起きるんじゃないの?」


「……さっきのこと考えると否定は出来ないな」


「……私もついて行こうか?」


「……お願いしたほうがいいかも? あぁ、高貴も来るか?」


「あー、悪い、俺はパスだ」


「そっか」


「……あー、俺さ、隣のクラスに幼馴染がいるんだわ」


「ん? うん」


「そいつと仲良くてさ、その……思いを告げずに、死んだら後悔するからさ」


「……俺殺されるのか?」


「直接はないんじゃないか?」


「直接は?」


「なんか今日お前の藁人形作るって男子達の間で噂だぞ」


「…………」


「俺も今日、藁と五寸釘買いに行かないかって誘われたけど、断っておいた」


「……なんでそんなことに」


「静流だけなら見逃されただろうけど、四天王全員に手を出したからじゃないか?」


「別に手を出した訳じゃないんだけど???」


「周りにはそう見えないってことだよ」


「…………」


「葬式には出るよ」


「その前にその呪術を止めてくれないか?」


「俺は平和主義者なんだ」


「……裏切者」


「除霊師か霊媒師を探しといてやるよ」


「俺が呪われることは決定事項なの?」


「あきらめろ……」


「出流」


 ここで静観していた、静流が話しかけてきた。


「なんだ?」


「今ネット通販サイトの『Nile River』で『悪霊退散 お守り』で検索したらお手頃価格で売ってるから今日買っときなよ」


 そう言って静流が俺に携帯を見せてきてくれた。

 うん、確かにお手頃価格だ。いや、そうじゃない!


「お前達二人に俺が呪われないようにしようって言う気持ちはないのか?」


「「無理」」


 ……近いうちに俺は呪われるようです。


☆―――――☆

もしよければ、応援、フォロー、星をよろしくお願い致します。

特に創作意欲に繋がるので星を何卒……!

コメントもお待ちしております!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る