第3話 貴方の落とし物はなんですか?

 

 昼食を終え、午後の授業が始まった。

 いつもならこの時間眠くなるのだが……

 タバスコの影響か汗が出るな……暑くて眠気が吹っ飛んだ気分だ。

 

 周りを見渡すと頭がカクンカクン動く者や、下を向いて動かない者もいる。

 チラッと横を見ると静流も船を漕いでいた。


 授業に集中したいならタバスコ使うのはありだな……


 そして、5限目、6限目と授業に集中できて、今日は一日真面目に授業を受けることができた。

 帰りのHRも終わり、いつもならすぐに帰るのだが……今日は、日直の仕事があるのでまだ残っている。

 日直の仕事として、涼華と一緒に窓を閉め、次の日直当番を黒板に書き、涼華が日誌を書き終わるのを待っている。


「ごめんね出流君、待たせちゃって。先に帰ってもいいんだよ?」


「日直の仕事を手伝うって約束したんだ。最後まで付き合うよ」


「……ふふ、ありがとう」


 涼華が日誌を書き終わったので、俺達は教室に鍵を閉めて、職員室に向かい、鍵を担任に返却した。


「今日は本当にありがとうね? 助かったよ」


「いいってことよ。困った時はお互い様ってね?」


「うん! 今度お礼させてね」


「気にしなくていいんだよ?」


「うんん、それだと私の気が済まないから」


「わかった。期待せずに待っておくよ」


「そこは期待してて欲しいかなー?」


「ははっ、りょーかい」


 そのまま、俺と涼華は校門前まで移動する。


「じゃあ、私こっちだからまたね。バイバイ!」


「あぁ、また明日な!」


 俺は涼華とは逆の道を歩き出す。

 にしても、今日は変な日だったなぁ。おばあさん助けたり、日直手伝ったり、金貸したりと……でも女の子の友達が増えたからいい日だよな?

 高校生になったからには恋愛の一つや二つしたいし、誰かとこのまま仲良くなれたらいいな……


 俺は帰り道を一人でのんびり帰っていると、その日がまだ終わっていないことを示す出来事に遭遇した。


 あれは……?


 前方で同じ学校の制服を着たギャルっぽい女の子が地面に這いつくばりながら何かを探していた。

 悲しそうな顔をしながら、地面を見たり、茂みを探している……

 今日はそういう日なんだなぁー……


「どうかしたのか? 何か落とし物?」


「えっ? あぁ、うん、家の鍵無くしちゃって……」


「なんか鍵にキーホルダーとか付けてた?」


「うん、小さい猫のキーホルダーが付いてる」


「この辺で落としたのか?」


「多分……」


「わかった、俺も探すよ」


「……いいの?」


「あぁ、鍵無いと家に入れないんだろ?」


「うん」


「なら手伝うよ」


「……あんがと!」


 そして俺も女の子と同じように地面に這いつくばりながら、女の子と逆方向に探し始めた。

 ―――10分ほど探してみたが特に見当たらないな……進捗を確認してみるか。


「こっちの方探してたけど、見つからないや。そっちにもない?」


「うん……」


「んー、本当に落としたのはこの辺なの? 最後に鍵見たのはいつ?」


「……帰る時に学校の靴箱で見た時にはまだあったから、そこからどこかで落としたんだと思う」


「なるほど、なら俺は学校の靴箱から探してくるよ」


「えぇ!? その……いいの?」


「あぁ、いつまでもここで探しても仕方ないからさ。君はここから学校の方に向かって探してきてくれないか?」


「……わかった」


「あぁそうだ、何年生? その辺りの靴箱探すからさ」


「1年生だよ」


「なんだ、同級生じゃないか。じゃあ1年の靴箱探してくるね」


「うん、あんがとね」


「うん、じゃあ見つかったら教えてね!」


 俺は駆け足で学校に戻った、一応軽く走りながら周りを見てみたが、落ちては無さそうだ。

 校舎の靴箱まで戻ってきたので、靴箱の中を覗きながら鍵がないかキョロキョロ探していると―――


「何してるの出流?」


 声の方に顔を向けると静流が立っていた。


「あぁ、ちょっと探し物」


「何か無くしたの?」


「うん、家の鍵を探してるんだ。猫のキーホルダーが付いた鍵を見てないかな?」


「うんん、見てないよ。いつ無くしたの?」


「最後に鍵を見たのがここらしくて、ここから帰り道のどこかで落としたみたいなんだ」


「……ここらしく? もしかして、鍵無くしたの出流じゃなくて別の人?」


「そうだよ」


 静流はハァーっとため息をついて、あきれた目で俺を見てくる。


「なんでそんなに人助けが必要な場面が来るの?」


「俺に言われても困るんだが?」


「ハァー……職員室に行って落とし物が届いてないか聞いてきてあげる」


「いいのか?」


「友達が人助けしてるのに見捨てれる訳ないでしょ」


「ハハッ! ありがとう静流!」


 俺がお礼を言うと静流は職員室に向かっていった。

 とりあえず静流が戻るまで靴箱と玄関探すか。

 それから俺は下に敷いてあるスノコをひっくり返したり、傘立ての下に落ちてないか見てみたが、見つからない……


「出流、職員室で聞いて来たけど、届いてなかったよ」


 静流が聞いて戻ってきてくれたが、やっぱり届いてなかったか。


「そっか、わざわざありがとう。この辺は無さそうだから帰り道方面探してみるよ」


「待って、私も行くから」


「……悪いな!」


「どういたしまして」


 そこから俺と静流は校門までの道をウロウロしながら、鍵を探してみたが、校門に着くまで見つかることはなかった。


「うーん、学校にはないのかな?」


「これだけ探しても見つからないならないのかもね」


「とりあえず、無くした子の方面に向かって探しながら向かおうか」


「そうだね」


 俺と静流で道の端の方をキョロキョロ探し回りながら、向かっているとなんと鍵の方からやってきた。


「待てええええええ!」


 俺と静流は思わず声の方を見ると、鍵を無くした子が猫を追いかけていた。

 猫の口に……鍵のようなものが、ぶらさがってる!

 猫はまっすぐこっちに逃げてきている。逃がすわけにはいかない!


 俺より先に静流が走りだし、猫を捕まえようと手を伸ばすが、それを猫はヒラリとかわし、こっちに向かってくる。


「くっ! 出流!」

 

 ―――なるほど。ここで俺が逃すと、確実にめんどくさいことになるな。

 ……やってやろうじゃん! オラアアアア!!


 猫がこちらに向かって少し横に避けようとしているのがわかったので、俺は服が汚れることを厭わず猫に飛びついた。


 ニャーーー!!


「しゃー! 猫ゲットだぜ!」


 捕まえた瞬間、猫は咥えていた鍵をポロっと落とした。

 鍵を落としたから用はないので、猫を離してあげると、猫は逃げるように去っていった。

 俺は落ちた鍵を拾い、落とし主に渡す。


「この鍵で間違いないか?」


「うん! 本当あんがとね!」


「鍵を無くしたのって、輝夜だったの?」


「あれ、シズっちじゃん!」


「ん、知り合いなのか?」


「中学からの友達だし、同じクラスだよ」


 ……知らなかったよ。


「まぁ、何にせよ、見つかってよかったよ」


「出流……袖のボタンが取れてない?」


「えっ?」


 静流に指摘され、袖を見ると2つ付いているボタンが2つとも取れていた。


「あー、さっきので取れちゃったかな」


「このボタンだよね?」


 輝夜と呼ばれた子が俺の近くに落ちていたボタンを拾ってくれた。


「あぁ、それだね。ありがとう」


 俺はそれを受け取ろうとするが、輝夜はボタンを握りしめ手を引っ込めた。


「あたしの所為だから、あたしに直させて」


「え、気にしなくていいよ」


「ダメ。あたしのせいで取れちゃったんだから、あたしに直させて」


「……わかったよ」

 

 俺は上着を脱いで輝夜と言われた子に渡した。


「あたしひじり 輝夜かぐやだけど、あんたは?」


「俺は御堂出流、よろしくな」

 

 さて、ようやく落ち着いたので聖輝夜を見てみるとしよう。

 金髪のポニーテルに気の強そうな目をしている。

 背丈は俺とあまり変わらない……女性にしては高い方なんじゃないかな?

 それ相応に胸部も大きいと主張しており、発育が良さそうだ。


「出流ね……じゃあ、イズっちだね! 本当にあんがとね! あたしのことは輝夜でいいから! 今度お礼するね! バイバイ、イズっち!」


 そう言って輝夜は走って帰っていった。


「私達も帰ろうか」


「そうだな」


「……ありがとね」


「ん、何が?」


「私の友達を助けてくれて」


「……いいってことよ」


◆―――――――――◆

《SIDE 輝夜》


 鍵見つかってよかったー。


 イズっちには本当に感謝だ。


 あんな飛び込んで捕まえてくれて。


 明日お礼にボタン直すだけじゃなくて、何か持っていこうかな。


☆―――――☆

念のため……こちらの作品は不定期更新なのでご了承下さい。

明日4話が更新されます。

もしよければ、応援、フォロー、星をよろしくお願い致します。

特に創作意欲に繋がるので星を何卒……!

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