第2話 タバスコマイスターとの出会い

 あの視聴覚室での授業の後は特に変わったこともなく、普通に授業を終え、通常の授業も終わり、昼食の時間になった。


「出流は今日も学食か?」

「あぁ」

「そうか、じゃあまた後でな!」


 俺は高貴と別れて学食へ向かう。

 ちなみに静流と涼華は他の人と弁当を食べている。

 俺の家は両親が共働きのため、弁当がないので、いつも学食へ行っている。

 この学校の学食は意外とメニューが豊富で安くておいしい。

 今日もいつものように食券を買おうとして、券売機のところに行くとひとりの女の子が目に入った。

 券売機の前で自分のスカートのポケットを裏っ返したり、胸ポケットを見たりしたあと絶望したように俯き、肩を落としていた。

 あの子うちのクラスの子だったよな……?


「おっす! どうしたんだ? なんか悲嘆に暮れているようだが」


 話しかけるとハイライトが消えた目で俺を見上げてきた。


「……誰だっけ?」


「同じクラスの御堂出流だ。確か同じクラスだよな?」


「……そうだっけ?」


「まぁ、いいさ。んで、どうしたんだ?」


「……財布を忘れた」


「あー、それで昼飯食えなくて悲嘆に暮れてたのか」


「そう、昼抜きはきつい……お腹空いた」


「……明日返してくれるなら千円貸そうか?」


「! 本当!?」

 

 希望の光に見えたのか目に光が戻り、キラキラした目で俺を見てくる。


「あぁ、ほら」


 俺は財布を取り出し、中の千円札を取り出すと少女は俺から千円を引ったくるように奪い去った。


「おぉぉ! この恩は明日まで忘れない!」


「金返したら忘れそうだな!」


「……出流だっけ? 出流……出流……イズ……イズ!」


「イズ?」


「私、周防すおう 智恵理ちえり。よろしく、イズ」


 周防智恵理は、ぱっと見ダウナー系の子だ。

 目が大きそうに見えるが、眠たげな目をしているせいでダウナー系に見えるのだろう。

 髪は肩より少し下ぐらいまで伸ばしている緑髪で、背が低い割に胸部が大きい。


「イズは命の恩人だから、私のことをエリと呼ぶことを許す」


 大げさだなと思い、思わず苦笑いになってしまう。


「ありがとう、エリ」


「ん、こちらこそ」


 そして俺は、券売機でいつも通りに日替わり定食を購入した。


「イズは日替わり?」


「あぁ、エリは何にするんだ?」


「私はこれにする」


「……激辛カレーか」


「そう。激辛カレーにタバスコをかけるのが至高」


「そ、そうか」


 激辛カレーにタバスコとか絶対お腹壊すわ……

 そして俺達は受付でそれぞれ料理を受け取り、流れで一緒に食べることになった。


「いただきます」


 俺は日替わり定食をそのまま食べるが、エリはポケットからあるものを取り出した。


「何それ?」


「? タバスコだよ?」


「なんでポケットから出てくるの?」


「いつも持ち歩いているから」


 エリはそう言うとぱっぱっとタバスコを激辛カレーにかけていく。

 いや、かけすぎじゃないか……?

 カレーの上に赤い水たまりみたいなのができているぞ……?

 

「それ、家から持ってきてるのか? マイタバスコか……?」


「この食堂タバスコ置いてないから」


「確かに置いてないな」


「置いて欲しい。……欲しくない?」


「んー……俺は別にいいかな」


「……辛いの嫌い?」


「嫌いではないけど、辛過ぎるのはちょっと違うかな?」


「そう……」


「エリは辛いのが好きなんだな?」


「うん、どんな物でもタバスコかけると至高の料理になる」


「それ辛い物っていうより、タバスコが好きなんじゃないのか?」


「……そうなのかな? ……そうかも?」


「まぁ、物によってはタバスコかけるとおいしいよな。ピザとかさ」


「……イズはタバスコ好き?」


「んー、好きかと言われれば好きかも?」


 ピザとかパスタとかにかけるとピリッとしておいしいんだよな。


「そっか」


 それだけ言うとエリはパクパクとカレーを食べ始める。

 辛くないのか……?


「タバスコって色々種類あったよね? やっぱ色々持ってるのか?」


「!? タバスコに興味があるの!?」


 タバスコの話題にはすごい食いついてくるな!

 俺はまた自然と苦笑いになる。


「そうだな。今度ピザ食べたいからその時に使いたいからさ」


「それなら、ハラペーニョかハバネロがおすすめ。次の日休みならガーリックもおいしい。もちろん普通のものいい」


「へぇー、色んな種類があるんだな」


「うん。どれもおいしい」


「おいしいって言っても料理によってやっぱり使い分けてるんだよな?」


「うん。学校では普通のタバスコしか持ってこないけど、家の料理では使い分けてる」


「へぇー、流石タバスコマイスターだな」


「タバスコのことなら任せて」


「あぁ、タバスコかける時はよろしくお願いするよ」


「……それにかける?」


 今日の日替わり定食はチキンステーキなんだが……意外と合いそうだな?


「……少しだけかけてもらっていいか?」


「わかった」


 エリは切り分けられたチキンの一つに2滴ほど垂らしてくれた。

 俺はタバスコがかかったチキンを口に運んだ。


「うん! ピリッとしておいしいな!」


「! よかった。 もうちょっとかける?」


「あぁ、残りの半分に同じ量かけてくれないか?」


「任せて」


 そう答えると嬉々としてエリはタバスコをかけてくれた。

 うん、水が欲しくなるけど、タバスコのピリッとした味のおかげで食が進むな!

 そして、俺達はそれぞれ食事を終えて、食器を洗い場に出したあと―――


「確かにこれは学食にタバスコ置いて欲しくなるな」


「でしょ?」


「あぁ、めちゃくちゃ食が進んだわ。ありがとう」


「またかけてあげる」


「おう!」


「じゃあ私教室に戻るから……またね?」


「あぁ、またな!」


 そう挨拶して、エリは教室の方に歩いていった。

 ……今度買い物する時、タバスココーナーでも覗いてみようかな?

 ちょっとだけタバスコに興味が沸いた。


◆―――――――――◆

《SIDE 智恵理》

 

 ……イズ。


 ……良い人。


 ……初めてタバスコの良さをに興味持ってもらえた。


 ……明日も一緒に食べたいな。


 ……明日は違うの持ってきて、食べさせてあげよう。


☆―――――☆

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