第3話 俺の幼馴染が俺の部屋をラブホ代わりに使っていた件について(完結編)
「先輩とは遊びだったの!こころはずっとまーくんの事が好きだったの!!」
いやいや、何いってるのコイツ。散々俺の事をこきろしてたじゃないか。今更それかよ、胡散臭ぇー。
「えぇ?!いやそんなこと言われても困るわ」
「なんでぇー!?幼馴染なんだよ?!幼稚園の頃から一緒だったんだよ!?あんなに一緒だったのに!!こんな事であっさり終わりにするの!?」
いやー、こんな事じゃないだろ。俺への侮辱をさておいても不法侵入と窃盗は事実だしお前犯罪者だもん。
「その長く一緒にいた相手をあっさり裏切ったのはお前じゃん」
「はぐっ?!」
半目で見ながら言い返すと言葉に詰まるなのみ。
「で、でもぉ!私はまだまーくんの事が好きなのぉ!別れたくないのぉ!」
「俺はお前が嫌いで別れたい」
「イーヤー!ヤダヤダ!!」
泣き叫ぶなのみ、今更この状況でお気持ち表明だけで駄々をこねてもどうにもならないのが解らないんだろうか、困るね。
「ハァ……いい?貴女は自分がしたことの重大さが解っていないようね」
そう言って横から口をはさんできたのは姉ちゃんだった。
「私はね、子供のころから仲良しだった2人の事を応援していたの。それがこんな事になって本当に残念だわ。浮気がどうこう、ではないのよ。まだ貴女には想像が恋愛のその先には、結婚があるわよね?人の家に不法侵入して窃盗するような相手、犯罪者となんて将来的に結婚なんて―――家族になるなんて認められないでしょう。少なくとも私は断固辞退する」
姉さんの容赦のない言葉に、なのみがデモデモダッテとブツブツ言っている。
「で、でも、ちょっと家に勝手に入っただけでェっ!漫画本と、ゲームソフトを、持って行ったのは先輩でぇっ!そんなの借りパクとかじゃ」
「借りパクなんて言葉は存在しないの。それは窃盗。万引きとかもそうだけど、都合よく言葉を置き換えてもそれが犯罪である事実は変わらないのよ?あと家の中でみだらな事をしてちょっと勝手に入っただけなんて寝言は通じないわ」
淡々と冷たい姉さんの言葉がなのみを容赦なく抉るが、自業自得だし俺も姉さんの言葉に完全同意なので静観する。なのみと姉さんは仲が良かったから擁護でも期待したのかもしれないけどうちの家におめーの席ねーから!!!!許される要素があると思う方がおこがましいわ、たわけ。
「で、でもぉ、いやだよぉっ!!わたしまーくんと別れるなんて、なんでこんなことになったのぉ?」
「……何でそんなに別れるのを嫌がるんだよ。お前あれだけ録画の中で俺の事馬鹿にして多じゃん。それを望んでいたんじゃないの?」
「……ちがうもん。私、まーくんのことをずっと好きだったよ。でも、周りの女子は彼氏とエッチなことをしたとかそういうはなしをするけど、まーくんとは全然そういうことしないし、不安になってたんだもん。そこに先輩が、それなら俺がエッチな事を教えてあげるよって……それで、身体を許しちゃっただけでェ」
ば~~~~~~~っかじゃねーの??と思わずツッコみたくなる。
「ねぇ、まーくん。なのみのしたことは確かに許される事ではないかもしれないわ。だけれども、なのみを不安にさせたことは、君にもよくないところがあったんじゃないかしら」
なのみ母が突然そんなことを言いだした。何いってるのこのおばさん。しかもなのみも我が意を得たりとでもいわんばかりにまたなんか息を吹き返している。
「そ、そうっ!なのみを不安にさせたまーくんにも落ち度はあったとおもうの!だから、やりなおそ?今度は間違えないから」
「頭お花畑なんすか?俺、なのみとキス以上の事が出来ないのはそこにいるなのみのお父さんから硬く禁じられていたからで、それはなのみにも言っていましたし。週末は出かけたり、誕生日や行事の時にはプレゼントを渡したり渡されたり、一緒に勉強したり。普通に彼氏彼女らしいことはやってましたよ。それで俺に何をどう落ち度があるんでしょうかねぇ??」
いい加減なのみがウザくてしかたがないので睨み返し怒気を言葉に含めながら言い返すと、なのみ母も口をつぐむ。
「ハッキリ言っておくけど、浮気自体はもう縁がなかったから仕方ないと思ってるんですよ。
年頃の男女だし幼馴染だから何があるかわからないし、別れることになるってのも仕方がない事だと思う。
だから先に別れ話なりしてくれてたらそれでよかったんだ。
俺が許せないのは、俺の部屋をラブホ代わりに使ってサカっていたってことで、それは何をどういいわけしたって許される理由にはならないでしょう?
勝手に人の家に入って。俺はそのサカられたベッドにそうと知らずに寝てたのを知った瞬間吐きました。そのベッドはもう使えませんよ、気持ち悪すぎて。部屋の中に在るものだって、汚くてさわりたくなくなるくらいに」
俺の穏やかな心と激しい怒りを含んだ言葉に、リビングが静かになったが、そして暫くの静寂の後、岡島父が苦虫を噛み潰すような表情をしながら口を開いた。
「……まーくん、君の気持ちは分かった。確かになのみのしたことは犯罪で、許されない事かもしれない。だけどなのみにも将来があるし、こんなタイミングで書類送検でもされたら退学になってしまうかもしれないしこのみにもい影響が出るかもしれない。……ここは堪えて、被害届を取り下げてもらえないだろうか?勿論、こちらも弁護士を立てて相場以上の示談金を払う事を約束するから」
「お金の問題じゃないって親父が言っていたじゃないですか。俺がのぞんでいるのはけじめですよけじめ。
あと、なんで被害者が加害者に配慮しなきゃいけないんですか?そんなの知りませんよ。なのみは前科一犯食らってこればいいじゃないですか!このみちゃんは可哀想だけど、それは姉が馬鹿だったから仕方がないってことで俺からは何も言えないしこのみちゃんが可哀想でもだからといって俺が屈辱を甘んじて受けるつもりはありません。絶対に被害届は取り下げません。あなたたち一家の顔はもう金輪際見たくもありませんので」
岡島父の寝言に対して感情を殺しながら返す。もうだめだこの家族、このみちゃん以外終わってるわ。まとめて死ぬが良い。絶望がお前たちのゴールでいいよもう。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!!!どうして、なんでこうなるのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!私、恋をしていただけなのにィィィィィィッ!!あアアアアアアアアアッ!!みんながまだエッチしないなんて遅れてるっていうからぁぁぁぁぁ!!私わるくないのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「やめなよ。お姉ちゃ……なのみ、これ以上何言ってもみっともないだけだよ、諦めなよ……。まー兄さん、ごめんね。なのみが酷い事して」
このみちゃんが疲れ切った顔でなのみを抱えて立たせていた。床に突っ伏して泣くなのみを引きずるようにして、岡島一家は去って行った。
「私、女の子なんだけど、罪になるの……?」
去り際になのみがそんな事を呟いていたけど、伝説の92かよ、怖ッ。
「――――このみちゃん以外最後まで謝らなかったわね」
ずっと一連の流れを静観していた母さんがぼそりと呟いた。
「そうだな。あの親にしてあの子あり、かもしれんなぁ。北岡君、徹底的にやってくれ―――あぁ、でもあの妹には転校なりの窓口をアドバイスしてあげてくれ」
親父が北岡弁護士にオーダーをしていた。巻き添えを受けたこのみちゃんは確かに可哀想だったもんね。そこ「だけ」は俺も可哀想だと思う。
ちなみに間男の林間は家族総出で逆切れ乗り込みをしてきたので普通に警察に通報してドナドナしていってもらった。
「高校3年の秋に警察沙汰になんてされたら進学どころか前科一犯の高校中退じゃねーか!!!ふざけんなよお前ええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
連行されて行く間、なんかアホみたいなことを泣き叫んでいたけど自業自得だ、馬鹿がよ。そして逆切れで乗り込んで暴れてきたことで一家まとめて罪状+1、もう一回起訴できるドン!!
そして結論から言うと、岡島一家はこの街を去った。なのみは容赦なく書類送検された後に起訴されていた。このみちゃんは遠方の全寮制高校に転校したようだが、このあたりは武士の情けで弁護士さんが助言と手をまわしたらしい。
林間は普通に窃盗で逮捕されて本人が叫んでいた通り前科一犯の高校中退となった。コイツに関しては全然かわいそうだとはおもわなかったので弁護士さんが辣腕を振るったようだけど、生き地獄に落としてもらえたので多少溜飲は下がった。
「ま、余の中こんな事もありますよ坊ちゃん。何可愛い女の子は他にもいる。今度俺が女の子の扱い方ってのを教えて差し上げます―――あっ、もしもしゴローちゃん?俺だけど、クライアントの坊ちゃんが女の子に酷い目に―――そう、その件。今度連れて行くからさ、可愛い女の子もきてるあの会員制の高級屋内ナイトプール、あそこ予約とっておいてよ」
何故か弁護士の先生に慰められて、女の子がいる所に連れまわされたりもした。
そして慰謝料としてもらったお金で家具が入れ替わった俺の部屋に、今回の騒動でお世話になったカメラの持ち主の友人を家にあげていた。借りていたカメラを回収して返却しつつ今回の件を報告するためで予め買ってきて置いたケーキを2人で食べつつ事の顛末を説明していた。
「……それは大変でしたね。でもカメラが役に立ったようで良かったですよぉ」
そう言って穏やかに笑っているのは、カメラ好きの友人の源舞莉果(みなもとまりか)。俺にしては珍しい女子の友達だ。
「いやー、源には頭があがらんぜ。カメラ貸してくれなかったら今も知らずにこの部屋がラブホ代わりにされてたかと思うとマジでゾッとするもん。もしかしたら気づかないまま岡島と結婚とかしてたのかもしれないし、ボロがでなければ浮気相手に托卵とかされてたかもしれないんだよなぁ」
「そこは解決したのでとりあえず良しとしましょう。でも大丈夫、小天狗君には私がついていますよぉ」
そういってにっこり笑う源さんからは言葉にできない心強さを感じる。黒髪ミディアムヘアに赤色の髪飾りが良く似合っている可愛らしい女の子なので、笑顔を向けられるとついドキッとしてしまう。
「カメラは魔法なんですよぉ、一度しかない一瞬をきりとって、ずっと永遠の残し続けるんです……うふふ、素敵ですよねぇ」
「そうか、確かにそう言われるとなんだかロマンチックに感じるなぁ。そうか、俺もカメラ触ってみようかなぁ」
源さんの言葉に頷きつつ、話も終わったので暗くなる前に送って行くことにした。源さんは時々意味深な言葉を言うけど、カメラに凄く詳しいんだよな。
「はー、でも子供のころから一緒だったから相手がいなくなると、後悔はないけどやっぱりなんか喪失感みたいなのはあるんだよなぁ。俺、恋愛できるのかなぁ」
「―――大丈夫ですよぉ、小天狗君は絶対に幸せになりますから。私が保証しますから。小天狗鞍馬(こてんぐくらま)君」
しゃべりながら両頬に手を当てて身体でしなを作る源さん。あ、これ知ってる。
―――伝説の、恍惚のヤンデレポーズ!!!!
「子供はなんとなく女の子が産まれる気がするんですよねぇ。名前は舞花なんてどうでしょうかぁ」
あれっ、もしかして俺って詰んでる??
汚馴染との関係は終わったけど、なんとなくだけど俺は源さんからは逃げられない、そんな気がした。
―――――――――――――――――――――――わぁい。
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