第10話 魂の影響
ビハールのあまりにも必死な様子に、上官天使は室内の他の天使たちと目配せをしてから、ゆっくりと頷いた。
「わかった、集まれる者をそこに全員集めよう。それから君の話を聞かせてくれ」
そしてすぐに、両部署から上官天使も含む、天使たちが通達所へと集められた。
「みなさん、お忙しいところ申し訳ありません。
今日起きたミスについてですが、放っておくとこれから度々発生する恐れがありあります。ですので、出来るだけ早く沢山の方々に知っていただくため、集まっていただきました」
集まった天使達は、ビハールの言葉を静かに聞いていた。
「まず、僕たち天使は神界の神様に作られましたが、その元となっている魂は神様が選び抜いた物だというのは皆さんご存知ですよね?」
この知識は天使が生まれた後、わりとすぐに学ぶことの一つ。気に留める者は少ないだろうが、ビハールはエドウィンと共にいることで、その事がようく記憶に残っていた。
「僕たちは自分の魂が元は何だったかなんて知ることはないですが、元の魂に影響される部分が少なからずあります。
それもまた個人差がありますが……」
「そんなものは常識だろう……早く本題に入れよ! オレ達は今日、決定部署のミスの所為で大変だったんだから……!」
一天使(ひとり)の雲絵師がそうイラついた様子で声を上げた。
おそらく彼も今日、被害を被った者なのだろう。憤りを必死に抑えながら言っているのがわかる。
「……わかりました。では――」
そう言うと、ビハールは手前のテーブルに、二枚の紙を少し離して置いた。そしてその横で、エドウィンが先程の始末書の一部を掲げて言う。
「すみません、この通達を出した方に少々お手伝いいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
すると、偉い方々が集まっている所から、一人の天使が静かに前へ出てきた。
「何をしたら良いのだ?」
出てきたのは、今日明日と本当は休日だったという、先程ビハールの言葉を聞き入れてくれた上官天使だった。
「こちらに一から九までの数字をお書きください。出来るだけ急いで」
「……わかった」
エドウィンに言われ、その方が書き込んでいる間、反対側に立ったビハールが、ミスを犯したとされた天使を呼んだ。
「君はこっち側に来て、同じように数字を書いてくれるかい?」
ビハールが言うと、暗い表情をしたその天使が無言でペンを受け取り、数字を書き込んでいく。
二人が書き終わるとビハールは「ありがとうございました」と言って、二枚の紙を受け取った。そして二人が元の席へと戻ると、その場の全員に向けて声を上げた。
「これからお二人が書いた数字を皆さんに見ていただきます。エドウィン、お願いしてもいい?」
「おぅ、任せとけ」
ビハールがエドウィンに何かを頼むと、エドウィンは集まった天使たちに背を向けて両手を掲げた。
すると、掲げられた手の先、空中に大きな光るスクリーンのような物が現れ、そこに上官天使の書いた数字が映し出される。
天使たちは一瞬ザワザワとして、またすぐに沈黙した。確認が終わったと判断したビハールは、声を上げた。
「全員確認しましたね? ではもう一方も見てください」
そう言うと、スクリーンはもう一方を映し出した。
すると…………
はじめは小さかったざわめきが、どんどんと大きくなり、もう誰が何を言っているのかもわからないほどとなる。
静かにして、とビハールが叫ぶもなかなかその声が届かない。
その時、数字を書いた上天使がスッと立ち上がって手を叩いて言った。
『皆のもの静かにしなさい、続きの話を聞こうではないか』
その音と声はざわめきを越えて全員の耳に響き、再び静寂が訪れる。
それはその上官天使の『力』なのだろう。
「御力をお借りしてしまってすみません、ありがとうございます」
エドウィンがお礼を述べると、その上官天使は苦笑しながら、もう一度席に座り直した。
「では、失礼します……。
今見ていただいてお分かりになったと思いますが、数字の1と7の書き方に注目していただきたいのです!」
誰の采配か、通達所の一番大きな掲示板に、二人の書いた1と7の数字が大きく映し出される。
エドウィンがやったのかと思ってビハールが見ると、エドウィンはブンブンと首を振って否定した。
このような力は、中天使以上の者が持つ力。エドウィンでないなら……と、ビハールが上官天使たちの集まっている場所を見ると、その中の一天使から力の光が伸びてきているのが見える。
「あ……ありがとうございます!」
ビハールはそう言って頭を下げると、
「いいってことよ!」
計画部署の上官がさわやかな笑顔で言って、手を振った。
「ご覧のように、この状態では1と7を間違えてもしょうがないと思うんです!」
上官天使の書いた7と、ミスを犯したとされた天使の書いた1はほぼ同じ形で、個別に書いてあったら判別は不可能だろう。
「この数字の書き方は、僕たち天使でも、元となった魂に影響されるようです。そして僕の知る限りでは、気をつけなければならないのはこの1と7のみ」
もしかしたら他にもこういうモノがあるかもしれない。でもそれはどちらか片方の部署だけで簡単に見つけられるものとも思えない。
「僕が、今回のことを誰にも大した咎はないと考える理由はそれです。
魂からの情報、そもそもの認識の違い。コレは普段からお互いを認め合って良く話していないと……気づけないことじゃないですか……?」
何かが悪いとするならば、両部署の関係性。常日頃当たり前のように会話がなされていれば、今日のミスだってもっと早い段階で解決していたかもしれない。ビハールはそう思っていた。
「そして……こういうミスは、これから正していくことが……可能だとは思いませんか…………?」
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