第66話 破壊の亡将


「俺の勝ちだ――――アヴァルス」



 最後の一撃を浴びせ、アヴァルスを下敷きにした俺は、頭上から堂々と勝利を宣言した。

 割れた兜の奥に見える青白い目が、じっと俺を見つめ返してくる。

 

 数秒後、アヴァルスはゆっくりと目を閉じる。

 するとその直後、俺とアヴァルスの間にメッセージウィンドウが浮かび上がってきた。



『使役条件を達成しました』

『アヴァルスが、貴方が自分を上回る強者であることを認めました』

『アヴァルスが使役可能となりました。テイムしますか?』



 どうやら、アヴァルスも決闘の勝者が俺であると認めてくれたようだ。


「っ」


 安堵した瞬間、一気に体が重くなる。

 【禍毒蛇の雫】と 【石眼の宝珠】の効果が切れたのだろう。

 正真正銘、ギリギリの勝利だったということだ。


「と、そんなことよりも……」


 俺は重たい体をゆっくりと持ち上げ、アヴァルスの上から離れる。

 そしてそのまま宿敵へと手を伸ばし、力強く言った。


「――約束通りだ。お前の活躍する場なら俺が与えてやる。だから俺に下れ、アヴァルス」


『………………』


 少しの無言のあと、アヴァルスもまた手を差し出してくる。

 俺はその手を掴み取ると、そのまま魔力を注いだ。


 直後、俺とアヴァルスの間に繋がる経路パス

 全てのステータスが一気に上昇する。

 アヴァルスは接近戦を得意とする魔物ではあるが、アンデッドのためか相変わらず魔力の上り幅が大きい。


「にしたって、俺もアヴァルスもほとんど魔力が残ってないはずなのに、この上昇分は一体どこから生じてるんだか……」


 浮かび上がる疑問も程々に、改めて現状に意識を向ける。

 俺は魔物を使役するテイマーとはいえ、基本的には剣を武器に自分自身で戦う。

 そのため魔力だけが大きく上昇することに対し、これまでは少し物足りなさを感じていた。


 だが、今回は限っては例外である。

 なぜなら――



『テイムに成功しました』

『テイム対象が持つ力の一部が、あなたに与えられます』

技能アーツ蒼脈律動そうみゃくりつどう】を習得しました』


『テイム数が一定数値を突破しましたため、技能アーツ感覚共有かんかくきょうゆう】を習得しました』

『【感覚共有】:視覚および聴覚を使役対象と共有することができる』



「よし、狙い通り!」


 想定通り、新たに【蒼脈律動】を得ることができた。

 これで有り余る魔力を、全て身体強化に活かすことができる。

 俺にとって最高に相性のいい技能アーツであることは間違いないだろう。


「そしてもう一つ。四体目のテイムで得た【感覚共有】……これを使えばガレルたちと視界や聴覚を共有できるのか。使い方次第では戦闘にも活かせそうだし、こっちはこっちでかなり便利な技能アーツだな」


 何はともあれ、これで無事にテイムは終了。

 俺と契約を結んだことで、アヴァルスもこの場所から出られるようになった。

 俺と経路パスを結んだことで生息位置に縛られなくなったし、そもそも【異空間住居】を経由すれば強引に連れ出すことができる。


 そう思いながら俺はアヴァルスを見て、改めてそのボロボロぶりに苦笑いを浮かべた。


「決闘のせいで、鎧や剣がボロボロだけど……まあお前の場合、時間が経てば体力や魔力と一緒に回復するから問題ないか」


『…………』


 コクコクと頷くアヴァルス。

 その様子からはどこか、早く次の強者を戦わせろと急かされているように感じた。


「まあ落ち着け。俺もお前も魔力切れ状態だし、今はとりあえずこのフィールドを抜け出すことだけに集中しよう。それこそ、ここからはガレルに頼りっぱなしになりそうだけど……ん?」


 振り返り、俺は小首を傾げる。

 アヴァルスとの戦闘前、【永劫えいごう千魂墓所せんこんぼしょ】の外で見守っていてくれていたはずのガレルがそこにいなかったからだ。

 しかし、いったいなぜ? 何かあったのなら経路を通じて助けを呼ぶこともできただろうに、その感覚はなかった。


 だとするなら、いったいどこに――


「そうだ! こういう時こそ、感覚共有を……」


 俺は新たに得たばかりの技能アーツ【感覚共有】を使用した。

 ガレルの視界にリンクし、アイツが見ている景色をこの目に映す。


「――なっ!?」


 その結果、俺は思わず言葉を失った。


 俺の目の前――否、ガレルの前には今、一体の魔物が存在していたからだ。


 それは漆黒の鎧のような外皮に覆われた、巨大な人型の不死者アンデッド

 その身長は10メートルに届こうとし、眼窩から青みがかった炎が静かに燃え、手には歪な大剣が握られている。

 歩くたびに大地が大きく震え、周囲の生命力を吸い取るかのような威圧感を放っていた。



「コイツはまさか……ルインブリンガーか!?」



 俺はこの魔物を知っていた。

 コイツは本来『剣と魔法のシンフォニア』において、戦闘を回避することを想定して用意された存在。

 Aランク上位のネームドモンスター:破壊の亡将ルインブリンガー


 アヴァルスやデストラクション・ゴーレムと同等の力を持つ魔物と、ガレルは今、たった一人で戦っていた。

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