第63話 VSアヴァルス 前
「はあッ!」
『シィッ!』
二振りの長剣が、宙に数多の剣閃を瞬かせ、甲高い金属音を鳴らしていく。
最初の衝突を皮切りに、俺とアヴァルスは激しく刃を打ち合っていた。
まだお互いに様子見といった状況だが、それでも十分にアヴァルスの凄まじさを実感する。
どれだけ切り込んでも、一向に構えが崩れる気配がない。
(それもそうか。なにせコイツには、数多の魂から得た記憶が備わってるんだから……)
【
加え、【
俺がこれまで戦ってきた魔物の中でも、飛びぬけた力を持つ存在というわけだ。
「潜在能力では
俺が息継ぎをしようとした刹那、アヴァルスが突きを放ってくる。
タイミング、速度ともに申し分ない攻撃。
しかし――
「――喰らうかよ!」
『ッッッ!?』
俺は既のところで
敵の刃の腹に剣を添わせるようにして受け止めた後、けたたましい摩擦音を鳴らしながら攻撃を受け流すことに成功する。
アヴァルスは僅かに体勢を崩すも、すぐに整えると俺に鋭い眼光を向けた。
それを受け、俺は小さく口の端を上げる。
(最初はどうなるもんかと思ったが、案外やれるもんだな)
先ほども少し考えていた通り、身体能力、技量、経験、全てにおいてアヴァルスの方が俺よりも上。
ただヤツの場合、特性として闘争本能が強く出過ぎているためか、苛烈な攻めは得意であるものの、駆け引きについてはこちらに分があるようだ。
相手の攻め気を上手くいなすことで、俺は何とか互角の攻防を可能にしていた。
とはいえ、ただ守り続けるだけでは勝ちを掴むことはできない。
俺は覚悟を決めると、力強く地面を蹴った。
「さあ、次はこっちの番だ!」
『――ッッッ!』
立場が逆転し、次はこちらの猛攻がアヴァルスを襲い始める。
【身体強化】、【
今の俺が持つありとあらゆる手段を総動員し、破壊の長剣が次々と大気を断ち切りながら幽紺の騎士に迫っていく。
『――――!』
しかし、さすがの身体能力というべきか、アヴァルスは驚異的な反応速度でその全てを凌いでいた。
一瞬、腰から二振り目の
(デストラクション・ゴーレム戦で二刀流がうまくいったのは、速度面でこちらにアドバンテージがあり、防御意識を一部切り捨てても問題なかったから。同じことをアヴァルス相手にやれば、間違いなく手痛い反撃を喰らうはずだ)
ここまで極まった剣士同士の戦いになると、一つの選択ミスが死に直結する。
そんな状況の中では、より戦い慣れた方法を選ぶのが最善。
「――ッ! ここだ!」
直後、アヴァルスに隙が生まれた一瞬を見逃さず、俺は渾身の一振りを放った。
鉄槌剣による重厚な一撃はそのままヤツの胴体に吸い込まれ、激しい衝撃音と共に鎧を大きく凹ませる。
『……ァァッ』
アヴァルスは痛みに悶えるように、小さく嗚咽を零した。
かと思えば、ここまで真正面から斬りかかってくるばかりだったヤツにしては珍しく、苦痛の様子で後ろに飛び退く。
そのまま追撃すべきか悩むも、カウンターの餌食になる可能性を考慮し、俺はその場に踏みとどまった。
「…………」
『…………』
戦闘が始まる前と同じ距離感で向かい合う俺とアヴァルス。
有効打を入れたため、優勢なのはこちらだと思いたいところだが――
残念ながら、そう簡単に主導権を渡してくれるほどアヴァルスは甘くなかった。
シュゥゥゥと、鉄槌剣を受けて凹んだ鎧の箇所から濃紺の魔力が漏れ出す。
かと思えば数秒後、魔力の漏れは止まり、鎧は元通りの姿になっていた。
それを見た俺は、思わず苦い笑みを浮かべる。
「やっぱり、そうくるよな……」
『剣と魔法のシンフォニア』において、上位魔物の多くが有する【自動再生】。
デストラクション・ゴーレムの場合、HPが10%を切ったタイミングで発動していたが、アヴァルスの場合は初めの段階から再生が発動する仕様だった。
さらに厄介な点として、アヴァルスは
そしてそれは肉体だけでなく、なんとヤツが身に纏う漆黒の鎧や、手に待つ長剣まで該当するのだ。
武器を含めた全てがヤツにとって自身の肉体であり、その影響か再生効果はそれらにまで及ぶ。
つまり、たとえ剣や鎧を破壊しても、魔力がある限り勝手に修復されてしまうわけである。
武器の削り合いでは、明らかにこちらが不利。
(やっぱり、事前に鉄槌剣を用意しておいてよかったな……)
頑丈さが取り柄の鉄槌剣だからこそ、これだけ打ち合っても無事でいられる。
そして見ての通りアヴァルスは常に鎧で守られているため、切断武器よりも打撃武器の方が相性がいいのだ。
そこまでの情報をまとめた後、俺はふーっと息を吐く。
「厄介なのには変わりないが、仕組みさえ理解できているのなら恐れるほどのことじゃない」
俺は改めて鉄槌剣を構えると、真正面からアヴァルスを見据える。
「悪いが、このまま押し切らせてもらうぞ」
『――――ッ』
その言葉を皮切りに、第二ラウンドが始まるのだった。
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