第43話 ダンジョンとフィールド
Aランクダンジョン【
迷路のように入り組んだ通路と、罠だらけのダンジョン内を進むこと約10分。
俺は足を止め、警戒の目を前方に向けた。
「……ようやくモンスターのお出ましだな」
そう口にした瞬間、通路の奥から小さな影が複数現れる。
「キュー!」「キュゥー!」
甲高い鳴き声とともに現れたのは、白色の毛並みが特徴的な兎型のモンスター、トラップ・ラビットの群れだった。
数は全てで八体。その可愛い見た目とは裏腹に、一体一体がBランク下位指定とかなりの強さを誇っている。
俺が戦った時のガレウルフがCランクだったといえば、その実力が伝わりやすいだろうか。
とはいえ、単独でAランクの実力を誇る俺やリーベには遠く及ばない。
身軽な動きにだけ気を付けてカウンターを浴びせれば、問題なく倒せる程度の敵だった。
――そう、ここがダンジョン内でなければ。
「ふぅん。どんなモンスターが出現するかと思えば、この程度だなんて……期待外れもいいところね」
感想を口にしながら、手に魔力を溜めていくリーベ。
「キュー!」「キィー!」
その直後。トラップ・ラビットたちはタイミングを見計らったように、同時に四方八方へ飛び跳ねた。
それぞれが床、壁、天井に着地する中、一体の足場だけがわずかに沈む。
それを見た俺は反射的に叫んだ。
「ラブ、下がれ!」
「――――ッ!」
(意外にも)素直に、俺の言葉に従い一歩後ずさるリーベ。
その直後、彼女の前を眩い電撃が迸った。
リーベが目を丸くする。
「なっ! これは何!?」
「さっきの地雷と同じ、ダンジョン内のギミックだ。このダンジョンに出てくるモンスターの一部は自らの意思でトラップを利用してくる。ランク以上に厄介だと思った方がいい」
……まあ、リーベの耐久力を考慮すればそこまで気にする必要はないかもしれないが。
念には念を入れておくに、越したことはないだろう。
「……なるほど、そういうこと」
鋭い視線を前方に送るリーベ。
トラップ・ラビットたちは彼女が翻弄されている様が楽しいのか、「キキキ」と笑い声を零していた。
……さて、問題はここから。
相手の狙いが分かっている以上、俺たちに搦手は通用しない。真っ向からの火力勝負に持ち込んでやればすぐに決着はつくだろう。
しかしここはダンジョン。ダンジョンを攻略する上で一番大切なのは体力とMPを温存することだ。
そのための方法は既に考えてある。
「ラブ、一旦前に出て敵の注目を集めろ」
「ちょっと、私は後衛職よ!? どうして――」
「いいから早く」
「ああもう、分かったわよ!」
俺の指示通り、前に出るリーベ。
敵からはこちらが痺れを切らしたように見えたのだろう。
トラップ・ラビットたちは高い笑い声を上げた後、それぞれの足場を蹴りリーベに攻撃を仕掛ける。
(――――今だ!)
俺は右側の壁のうち、わずかに色が濃い部分を力強く押し込んだ。
すると、その直後――
「キィッ!?」「キャンッ!?」
四方八方から飛び出した石の槍が、次々とトラップ・ラビットに襲い掛かった。
その結果、見事に三体の串刺しに成功。さらには残りの五体についても、槍の檻に閉じ込めることに成功した。
あとはただトドメを与えてやるだけだ。
「ほら、あとは好きにしろ。ただ魔力は使いすぎるなよ」
「ふふっ、分かったわ」
リーベは気分良さそうに頷いた後、無防備なトラップ・ラビットにトドメを与えていく。
こうして俺たちの初戦は完勝で幕を閉じた。
討伐から数十秒が経過した頃だった。
トラップ・ラビットたちの死体がスーッと消えていき、後には小さな瓶が一つだけ残る。
それを拾い上げたリーベは、不満げに眉をひそめた。
「はあ、低級のポーションが一つだけなんて、大した戦果はなかったわね」
「……みたいだな」
俺は小さく相槌を打ちながらも、わずかに衝撃を受けていた。
というのも、目の前でモンスターの死体が消滅する姿を見るのは、これが初めてだったからだ。
(ゲームで事前知識はあったけど、実際に目の当たりにするとこれは驚きだな)
心の中でそう呟きつつ、俺は『剣と魔法のシンフォニア』におけるダンジョンの設定を思い出していく。
そもそもダンジョンとは、特定のボスモンスター、アイテム、コアを基に生み出される
内部に出現するモンスターはダンジョン内の魔力によって生成され、厳密には生物ではない。
そのため、討伐後はこのように魔力の瘴気となって消滅するのだ。
ちなみに『アルストの森』などのマップは、ダンジョンに対してフィールドと称されていた。そこでは現実の生物である魔物が生息し、討伐後も実体が残る。
その違いはドロップアイテムにも反映されていた。
ダンジョン内で倒したモンスターからは、アイテムや武器、金貨など、一体どこから出てきたのか分からないものが多い(RPGとしては一般的だが)。
対してフィールドでは魔物の素材など、現実に存在するものがそのままドロップしていたのだ。
これまで俺は『アルストの森』や領都でしか魔物を倒したことがなかったため、目の前で死体が消えるのを見たのはこれが初めてだ。
知識としては知っていても、現実で目の当たりにすると、こうも不自然に見えるんだなと強く実感する。
もっともこの世界で生きるリーベたちからすれば、これは当たり前の現象であり、特に驚くことではないようだが……
まさかこんなところで、改めて俺が転生者だという事実を思い知らされるとは。
(まあ、その辺りは特に気にすることじゃないか)
気持ちを切り替えた俺は、ポーションを懐に入れようとしているリーベに向かって鋭い声で言う。
「それじゃ、攻略の続きだ。日帰りだし時間もないから急いでいくぞ。あと報酬は俺に渡せ」
「……チッ、分かったわよ」
攻略を再開すること30分後。
なぜかトラップに引っかかりまくるリーベに呆れながらも、俺たちはひとまず中間地点に到達するのだった。
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