第二章 最強の背中

第38話 レストの妹

 リーベをテイムしてから数日が経過した朝。

 俺は心地よい目覚めとともに、ゆっくりと体を伸ばした。


「んー」


 伸びをしながら、これからどうするべきかを頭の中で整理し始める。


 レストに転生してから、早くも四か月弱が経過した。

 物語の開始――つまり俺がアカデミーに入学するまでは、あと約十か月ほどとなっている。


 この短い期間で、俺は既に三体ものテイムを成功させた。

 風を操る狼型の魔物、ガレウルフ。

 この国に伝わる伝説の存在、黒竜。

 そして原作では、俺ことレストを殺した張本人である魔族のリーベ。


 ここまでの進行具合は、まさに順調そのもの。

 正直なところ、物語開始のタイミングでこのレベルまで上がっていればいいと考えていたくらいだ。


 あとはゲームのメインヒロインであるシャロとの出会いなど、想定外の出来事が次々と発生してはいるが……

 今のところ、俺が最強となり死亡フラグを破壊するという目的を邪魔するほどのものはない。


 気を引き締め直し、このペースで頑張ろう。

 そう思いながら自室を出て、廊下を歩いていたその時だった。


「ちょっと新入り、何度言ったら覚えるのですか!? 庭の掃除は、先に洗濯を終わらせてからですよ!」


「くっ……!」


 窓から見える中庭に、アルビオン家に長年勤める給仕長と、鮮血のような赤髪が特徴的な美しい女性――リーベの姿があった。

 彼女はひとまず俺のそばにいるため、俺専属の使用人として仕えることになったのだが、空いた時間はああやって雑務も任されているらしい。


「なぜこの私が、こんな下々のすべきことを……!」


「何か言いましたか?」


「いいえ!」


 リーベはあれで――というかこれまでのやり取りで分かっていた通り、少しポン……抜けているところがあるらしい。

 今も仕事の手順を間違えたのか、給仕長に叱られて不満そうな表情を浮かべていた。


 今にも手を出してしまいそうだが、それはさすがに控えるよう俺が事前に止めてある。

 そのためもあってか我慢自体はできているものの、鬱憤が溜まっている様子だ。


(まあ、元は魔王軍の幹部だからな……少しはガス抜きも必要か)


 そんなことを考えつつ、俺は食卓に向かうのだった。




 家長のガド、第一夫人のジーラ、双子の兄エドワード(次男)とシドワード(三男)から、いつものように皮肉を言われながらの食事を終えた俺は、一足早く食堂を後にする。


 その足で小修練場に向かおうとした、まさにその時だった。


「お、お兄様……!」


「えっ?」


 思いもしないところから呼びかけられた俺は、声の方向に視線を向ける。

 するとそこには、一人の可愛らしい少女が立っていた。


 肩まで伸びる明るいピンク色の髪は、窓から差し込む朝日に照らされ輝いている。さらに、まるでエメラルドのように鮮やかな翡翠色の双眸が特徴的だ。

 少し華奢な体つきで、幼さの残る容姿をしている。両手を胸の前で軽く組み、遠慮がちに俺を見上げる姿勢からは、少し弱気な性格であることが見て取れた。


 彼女の名はレイン・アルビオン。

 俺の一つ年下の妹であり、同じ第二夫人(故人)を母親に持つ。

 さらにはゲーム『剣と魔法のシンフォニア』にも登場したサブキャラクターだ。


(まさか、レインの方から俺に話しかけてくるとは……)


 彼女を前にした俺は、心の中で小さくそう零した。


 というのもだ。

 俺と彼女の関係は少しだけ複雑だった。


 そもそも俺が転生する前のレストとレインは、兄妹でありながらそこまで親密な仲ではなかった。

 兄と親しく接したいレインに対して、レストは少し距離を取ろうとしていたと言うべきだろうか(思春期だったのかな?)。


 そして俺がレストに転生して以降は、『神託の儀』を終えて食事の場が別になったことで、顔を合わせる機会は急激に減っていた。

 さらに俺が【テイム】という外れスキルを得て、家庭内の扱いが悪くなっていることも知っていたのだろう。

 たびたび顔を合わせた時も、気まずそうな表情のまま挨拶を交わすだけだった。


 だからこそ、こんな風に彼女から話しかけられるのは意外だった。

 俺は呼吸を整えた後、不安げな表情でこちらを見上げるレインに応対する。


「レインか。どうしたんだ?」


「っ!」


 ただ返事をしただけだが、レインは嬉しそうにパアッと顔を輝かせる。

 俺から相手にされないことも考えていたのだろう。


 レインは顔の前で人差し指をちょんちょんと合わせながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「そ、その……最近、お兄様の噂を色んな所で聞きまして。エドワード様やシドワード様との決闘に勝っただとか、シャルロット王女殿下と仲良くなり町に現れた魔物たちを倒したとか……」


 ここで一つ、口を閉ざすレイン。

 まるで何かを決意しているかのようだ。


 俺は何も言わず、静かにレインの言葉を待ち続ける。

 それから数秒後、彼女は意を決したように言った。



「私も、お兄様みたいになりたくて……どうすればいいのか、教えてもらえませんか?」



――――――――――――――――――――――


大変お待たせしました。

『第二章 最強の背中編』開幕です!

第一章以上に熱く爽快感溢れる、レストによる成長と無双をお届けできればと思うので、どうぞよろしくお願いいたします!


それから少しお知らせですが、本作は並行して小説家になろう様の方でも連載しております。

アカウントを持っているという方は、あちらでも応援していただけると幸いです!

『悪役テイム』と調べていただければすぐに出てくると思うので、どうぞよろしくお願いいたします!

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