第30話 馬車の旅開始

 エレナは健斗とリサリアが購入した馬車に、無事に乗り込むことができた。エレナはその古びた馬車に乗り込み、外の世界と遮断するカーテンを引いた。


「これなら安心して旅を続けられますね。」とエレナが微笑んだ。リサリアは満足げに頷き、健斗はホッとした表情を見せた。


 馬車の旅が始まり、健斗はエレナとリサリアと共に馬車を進めていた。しかし、内装の傷みが気になった健斗は、町を出る前に布が売っている店で布と裁縫道具を購入した。移動中の時間を有効活用しようと、エレナに手伝ってもらいながら傷んだ箇所を隠す作業を始めた。


「器用なんですね、健斗様。」


 エレナが感心すると、健斗は笑って答えた。


「近ごろの男子はさ、お裁縫くらいできなきゃ意中の女の子を射止められないんだよ!」


 御者をしているリサリアはその言葉を聞いて、微笑んで言った。


「健斗様、リサリアはどう?見た目も良いし、どこに出しても恥ずかしくないメイドよ。それだけじゃなく戦闘訓練もしているのよ。」


 なぜかエレナがドヤ顔を見せた。


「俺、嫌われているだろ?話し方とかエレナと話す時と違って冷たいし。確かに見た目は好みだよ。」


 健斗は少し照れながら答えた。


 リサリアは軽く笑いながらその様子を聞いていたが、健斗はまさか当のリサリアに聞こえているとは思っていなかった。


「嫌いな相手に体を差し出すような提案はしないわよ。彼女は身持ちが良いのよ。」


「じゃあ、俺がこの旅の終わりに褒美として彼女と冒険者をやりたいと話したら、君の侍女を辞めて俺の仲間になるのか?」


 健斗は端からまともな回答を期待せずに尋ねた。


 リサリアは少し驚いた表情を見せたが、真剣に考えるように頷いた。


 それを見たエレナはドヤった。


「問題ありませんわ。元々彼女は旅の終わりと共に公爵家の使用人を辞める予定でしたもの。残念ではありますが、私も魔法学園にて学びますから潮時と考えたのでしょう。でもですね、ちゃんとお前が欲しい!俺の女になって一緒に冒険者をやってほしい!俺のところに来い!って言わなきゃだめですわよ。」


「それプロポーズやん!」


「私も一緒に行きたいくらいですわよ。」


「ハハハ。でもさ、俺異世界から来たんだよ。」


「問題ありませんわ。初代様は異世界人を妻としたと聞いております。それより異世界人と言うのであれば、何か面白いことの1つや2つありませんの?」


 健斗は今できることとして閃き、エレナが紙を持っていることに気づいた。エレナが興味を示したのもあり折り紙の話題に移ることにした。


「エレナ、これを見て。」


 健斗は紙を手に取ると折り始めた。エレナは興味津々でそれを見守っていた。


「これは日本の伝統的な遊びなんだ。折り紙って言って、いろんな形を作ることができるんだよ。」


 健斗は説明しながら、鶴を折り始めた。

 鼻歌交じりに機嫌よく折っていた。

 美少女と一緒で、さらに数年後が楽しみな少女からうるうるされては、まんざらじゃない。


「すごいですね!私にも教えてください。」


 エレナは目を輝かせながらお願いした。


「もちろんさ。まずはこの四角い紙を使って・・・。」


 健斗はエレナに手取り足取り教えながら、折り紙の基本を教えた。エレナは最初は戸惑っていたが、次第に折り方を覚えていき、最終的には自分で鶴を折ることができた。


「できました!」


 エレナは完成した鶴を見せながら、喜びの声を上げた。


「すごいじゃないか、エレナ!」


「エレナ様、素晴らしいです。」 


 健斗がエレナを褒めると、リサリアは後ろを覗き込み微笑みながら褒めた。


 馬車の旅は穏やかに続き、道中で彼らは様々な景色を楽しんだ。健斗はエレナに折り紙の他にも、日本の文化や遊びを教え、エレナはその全てを興味深く学んだ。


 馬車が川沿いの美しい風景の中を進んでいた時、エレナはふと健斗に尋ねた。


「健斗様、日本ではどんな冒険があったのですか?」


 健斗は少し考え込んだ後、笑顔を浮かべながら答えた。


「日本ではね、こんな風に異世界に飛ばされるような冒険はないけど、日々の生活が一つの冒険だと思っていたよ。学校に行って、友達と遊んで、テニスをして・・・それが僕の冒険だったんだ。」


 エレナは興味津々で健斗の話を聞き入り、感想を述べた。


「日本の冒険も素敵なのですね。」


 旅の途中、彼らはしばしば立ち寄る町や村で補給を行ったり、休息を取ったりした。健斗とリサリアは協力してエレナの安全を確保し、彼女が快適に過ごせるよう努めた。


 馬車が打ち捨てられた古びた城の近くに差し掛かった時、リサリアは健斗に話しかけた。


「健斗様、ここで少し休みましょう。エレナ様も疲れていることでしょう。」


 健斗は頷き、馬車を止めた。エレナも外に出て、新鮮な空気を吸い込みながら、周囲の風景を楽しんだ。リサリアはエレナのために食事を準備し、健斗も手伝いながら皆で和やかなひと時を過ごした。


 その夜、星空の下で彼らは焚き火を囲んで語り合った。健斗はエレナに日本の星座の話をし、リサリアも自分の故郷の伝説を語った。


「健斗様、あなたと一緒にいると、本当に安心します。」


 エレナは微笑むと健斗は照れくさそうに笑いながら答えた。


「僕もエレナとリサリアと一緒にいることができて嬉しいよ」


 こうして、健斗たちの馬車の旅は続いていった。彼らは互いに支え合いながら、新たな冒険に向けて一歩一歩進んでいくのだった。

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