第19話 商人一行

 健斗は休憩している時に、左手の状況を確認していた。左手の傷はまだ痛んでいたが、回復ポーションのおかげで今のところ血は止まったままだ。水の音から小声での会話ならば問題ないと、3人は背中合わせになりながら休んだ。


『やっぱりここは異世界なんだな。回復ポーションなんてアニメや小説の中の話だもんな。凄いよな。まあ最初はあれだったけど、美少女とお近づきイベントはちゃんとあったもんな。不思議だよな。見た目はヨーロッパの人に近いけどさ、流暢な日本語なんだよな』


 健斗は現状について耽っていたが、ふと疑問を思い出してエレナに声をかけた。


「エレナ、もう少しで日が暮れる。夜になる前に安全な場所を見つけて休もう。気になった場所があれば声を掛けてくれ」


 エレナはうなずく。


「分かりましたわ。明日はちゃんと歩きますね・・・」


 その時、リサリアが突然立ち上がり、剣を構えた。


「何かが近付いて来ます!」


 健斗もすぐに身構え、周囲を見渡した。すると木陰から数人が現れた。彼らは疲れた表情をしていたが、何人かは武器を手にしていた。


「何者だ?」


 健斗は緊張した面持ちで声を張り上げた。


 1人の男が前に出て、疲れた声で答えた。


「待ってください。私たちに敵意はないです!我々はこの森で迷ってしまった商人で、助けを求めています。」


 健斗は一瞬警戒したが、相手の様子を見る限り本当に困っているようだった。


「どうやってここまで?」


「私たちは賊の襲撃を受け、無我夢中で林の中へ逃げ込んだのです。何とか巻いたのですが、喉の渇きもあり水の音からここに来たら、あなた方がいたという訳です」


 男はそう言ってから仲間たちを紹介した。彼の家族と従業員たちが現れ、10歳くらいの子供と奥さん、若い従業員の男女数名が含まれていた。


 健斗は少し考えてからリサリアとエレナに目配せし、大丈夫だろうと伝えた。


「私たちもこの林を抜けようとしているところです。賊に襲われ、健斗様に助けられましたが、逃げる時に方向を見失い迷っている状況です。貴方たちも一緒に行動しますか?」


「それは助かります。護衛は殺されたのか、はぐれてしまいましたから」


 リサリアの言葉に、男は感謝の表情を浮かべた。子供がいるし、嘘を言っているようには見えなかった。


「ああ、こちらこそ宜しく!」


 健斗が握手を求めると男も応じた。


「ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします。戦える者は皆死んだかはぐれてしまいましたから、本当に心強いです。あっ!自己紹介をしていませんでしたね。私はリース・・・」


 お互い軽く自己紹介をし、健斗はいちばん大事なことを聞いた。


「ところで街道の方向など分りますか?街道に出たいんですが、現在位置がわからなくて。ただ、おそらく賊と相対しても倒すことができるので協力しあい、ここから出て何としても町にたどり着きたいのです」


「はい。それは心強い。方角は・・・・」


 こうして、健斗たちは商人たちと行動をともにし、旅を続けることになった。互いに助け合いながら、彼らはこの厳しい異世界で生き抜くための道を模索して先へと進むことになるだろう。

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