第18話 小休止

 健斗はリサリアに先程のカードについて質問をした。


「さっき持っていたカード、あれは何だったんだ?死んだら出るって感じだよな?」


 リサリアは淡々と答えた。


「死んだ者の額からステータスカードが出るのです。死体を見たことがないのでしょうか?」


 健斗は驚きながら確認した。


「護衛のカードってことだよね?」


「いいえ、あれは賊のカードですわ。」


 リサリアの冷静な言葉に、健斗は驚きと不安を感じた。


「俺、殺してないよな?骨を折ったやつはいたはずだけど・・・」


 リサリアは冷静に答えて行く。


「私は健斗様がとどめを刺しに行く手間を省いただけですわ。それに、あの賊に懸賞金が出ていれば、健斗様のものになるの。」


 健斗は彼女の言葉に衝撃を受けつつも、彼女の冷静な判断力に感謝した。


「そんなこと・・・君が殺し・・・」


「それがこの世界のルールよ、健斗様。」


 リサリアの言葉に、健斗は衝撃を受けつつも納得し、押し黙るしかなかった。


 重苦しい雰囲気のまま3人は再び歩き始めた。健斗はリサリアの表情に怯えと後悔が見え隠れしているのに気づき、彼女を守る決意を新たにした。


「2度とあんな顔をさせてなるものか!俺が2人を守って安全な所に送り届ける!」


 健斗は心の中で強く決意し、再び歩き始めた。森の中の道なき道を進む彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。


 健斗たちは静かに進み続け、いつの間にか鬱蒼とした林の奥深くへと足を運んでいた。リサリアは前を歩きながら草や蔦を切り払い、健斗はエレナを背負い、彼女のために一歩一歩慎重に進んだ。エレナは健斗のラケットを握りしめ、いつでも健斗に渡せるよう構えていた。


 一見すると順調に進んでいるように見えたが、実際には道に迷っていた。


 健斗もエレナも、リサリアが道を切り開いて進む様子を見て、彼女が道を把握していると思い込んでいた。


「なあ、リサリア、念のために確認するけどさ、道って大丈夫か?ここはどう見ても森の中だよな?多分街道から随分遠ざかっているような気がするんだけど、大丈夫か?」


「えっ?健斗様もエレナ様も何も仰らないので、適当に進んでおりました。何かあれば方向を指示して頂けるものと思っておりましたが・・・」


「俺はこの国に来たのは初めてで、そもそも地理なんて分かるはず無いだろ・・・」


 健斗がエレナの方を見ると、彼女は顔を逸らした。


 結局のところ健斗たちは道に迷っていた。3人とも誰かが道を知っているだろうと他力本願で、しかも口にしなかった。追手や魔物を引き寄せる恐れから、必要に迫られない限り会話を避けていたのだ。


 実際問題として、今どの辺りなのか見当がつかなかった。街道の位置も分からない。しかし、太陽の位置から方角を見定め、街道があるはずの方向に進もうと健斗が提案したところだった。


「何か聞こえる・・・」


 突然、遠くからかすかな音が聞こえるとエレナが告げ、健斗は立ち止まると周囲を見回しリサリアも耳を澄ませた。


「水の音のようですね。川が近いのかもしれません」


「それなら休憩できる場所が見つかるかもな。水も補充できるかも!」


 健斗は希望を胸に抱きながら、音のする方へと進んだ。


 数分後、彼らは小さな清流にたどり着いた。水は澄んでいて、冷たく心地よさそうだった。健斗はエレナを下ろし、彼女に水を飲むよう勧めた。


「エレナ、ここで少し休もう。水を飲んで少し体を休めよう」


 エレナは健斗に感謝の笑みを浮かべ、健斗が水筒に汲んできた水を飲んだ。


「ありがとう、健斗。このような水入れ、私でも見たことがないですわ」


 リサリアも水を飲み、辺りを見回した。


「この場所なら少し休めそうですね」


 健斗はエレナとリサリアが休んでいる間、自分も少し休息を取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る