第17話 ベアーとの死闘

 目の前に現れたベアーは鋭い爪と牙を持ち、筋肉質な体が威圧感を放っている。


「気をつけろ!こいつはただの熊じゃない!」


 健斗はエレナを地面に降ろし、渡されたラケットを構えた。リサリアも剣を握りしめ、ベアーに立ち向かうべくエレナを守る位置にて身構えた。ただ、リサリアは健斗の慌てように首を傾げる。これくらいの魔物ならば、自分1人だけなら何とかなると思う。確かに強敵でエレナ様がいるので、守りながらだと少し厳しい。

 しかし、これまでの戦闘で見せた健斗の実力なら、A級寄りとはいえ、B級の魔物程度ならば問題なさそうなのだが、なぜかなの?と不思議だった。


 ベアーは低い唸り声を上げながら健斗たちに向かって突進してきた。リサリアは健斗から渡されていた素ボールを素早く取り出し、頭上に投げた。ちょうどよい位置に来たボールに向けラケットを振るう。強力なスマッシュが放たれたはずだったが、ボールはベアーの肩に直撃するも一瞬ひるんだだけで、すぐに態勢を立て直し再び突進してきた。


「くそっ、どうしてだ!威力が足りない!」


 健斗は悪態をつきながら再びリサリアがトスしたボールを打ち出したが、リサリアのアシストでは特殊効果が発動せず、威力も半減していた。ボールはベアーの鼻先に当たり、痛みによろめいたが、それでも倒れることなくさらに激しく唸り声を上げた。


 リサリアはその隙を突いてベアーの脇腹に剣を突き立てた。ベアーは怒り狂い、リサリアに向かって爪を振り下ろす。リサリアは素早く身を翻し、攻撃をかわしたが、かわしきれずにベアーの爪が彼女の肩をかすめ、血が飛び散った。

 爪が少し伸び、間合いが変わったのだ。

 健斗が感じた違和感はこれだった。


「リサリアあああ!」


 健斗は叫びながらエレナにトスさせたボールを打ち出す。ベアーの足元を狙ったボールは少し狙いが外れ、足の付け根に当った。


 リサリアの負傷に動揺し、焦ったからだ。冷静に見れば肩を押さえて少し距離を置いたことと、負傷した側の手にはロングソードが握られていることから、血は出ているも大した怪我ではないと分かるものだが、健斗には判断できなかった。


 ベアーは先程までと違い、バランスを崩してその場に倒れ込んだ。不思議とノックバックせず、その場に足が縫い付けられたかのように離れることがなかった。その瞬間を逃さず、健斗はラケットを振り下ろし、ベアーの頭部に強力な一撃を加えた。


 ベアーは首を横に振りつつ、苦しげに唸り声を上げて立ち上がろうとしていた。それを見たリサリアがスカートをたくし上げ、その美脚を惜しげもなく晒した。

 そしてその脚に巻かれたベルトには数本の投げナイフがあり、3本を掴むと投げつけた。両手と喉元に刺さり数秒ほど藻掻いていた。だが、段々と動かなくなっていった。健斗は息を整えながら、リサリアの元に駆け寄った。


「リサリア、傷は大丈夫か?」


 リサリアは肩を押さえながらも、微笑んで答えた。まだ露わになっている生脚が艶めかしいはずが、怪我の度合いが心配でそれどころではなかった。


「大丈夫です、健斗様。あなたのおかげで助かりましたわ。かすり傷ですから心配無用ですわ」


 健斗は安堵の表情を浮かべ、エレナの元に戻った。


「エレナ、もう大丈夫だ。ベアーは倒したよ。」


 エレナは涙ぐみながら、健斗に感謝の意を示した。


「ありがとう、健斗様。本当にありがとう。」


 健斗は今の戦闘から、他人がアシストしたボールを打っても大した威力にはならないと悟った。次の戦闘で確認する気にはなれず、別のことを試す。だだ、余裕がある時に検証する必要があると感じた。リサリアのトスだと、プロ選手並の威力だった。いや、少し高いが、人の打ち出せる限界の範囲だ。今のところ自分のトスだと、人や魔物に当たると手足を吹き飛ばしたり、殺すことになる。これまでのところ威力を殺す術がなかった。


 エレナの時は少し違う。リサリアのトスと、自身でのトスとの間くらいの威力だが、吹き飛んだりよろけて数歩であっても歩くこともなかった。動きは不自然だった。つまり、トスする人が変われば、効果や威力が変わることを意味する。


 しかし、危険が多い今の段階で細かい検証はできないが、1、2回程度なら試すことが可能だろうと、1玉だけは手元に置きつつ、試すことにした。


「エレナ、試しに俺がボールを上に放ったらラケットを渡してくれ」


 そうして健斗はボールを上に投げると、エレナは言われたようにラケットのグリップを健斗の右手に差し出した。健斗は右手にグリップの感触というか、何かが押し当てられたのを感じ、何の疑いを持たずにぐっと握りしめると、思いっきりラケットを振り抜いた。


 するとボールはかなりの勢いで飛んでいき、大木にめり込んた。


「よおっし!エレナ、ナイスサポートだ!魔物を確実に倒すために次からはこれで行くからな!頼むぜ相棒!」


 リサリアはその威力に唖然としつつ、やはり健斗に逆らうのは駄目だと心に刻んだ。その一方でエレナはまるで乙女のように想い人に向ける顔を向けたが、健斗はボールの回収などで見ていなかった。


 また、その間にリサリアはドロップ品とさきほど投げたナイフを回収し、ナイフを脚に巻いたベルトに戻した。


 その後再び歩き出したが、健斗はふと先程のカードのことを思い出し、リサリアに聞いてみることにした。

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