第15話 ツインベッド
3人は慎重にその場を後にした。街道から少し距離を置きつつも、街道と並行になるように林の中を進んで行く。木々に紛れ追手が現れるのを警戒しながら進んでいたのだ。賊の生き残りやその仲間、そして追っ手がすぐ近くにいるのではないかと、焦る気持ちを抑えなければならない。
リサリアからは、賊が襲ってきたのは時間が不自然で、盗賊行為ではなく、初めからエレナを狙う刺客だったのではと聞いていた。
健斗はエレナとリサリアを守る決意を新たにし、未知の危険に立ち向かう覚悟を固めていた。リサリアの話や、賊との戦いから自分がそれなりに強いのだと理解したからだ。
「健斗様、恩人にとんでもないことをしてしまいました。本来ならばこの非礼、命を持って詫びねばならないところでございますが、今はお嬢様の安全を守る使命があります。お詫びはお嬢様の安全を確保するまで待って頂きたい」
リサリアから何度目だろうか、またもや謝られたが健斗は困った。
「俺が逆の立場だったら同じことをしたさ。だから気に病むなって。ただ、傷が治るまで着替えとか手伝ってくれたらそれで良いよ」
「それはもちろんです。その後のことでございますが・・・」
この後何を言いそうなのか想像がついた健斗は人差し指でその整った口が次の言葉を発するのを止めた。
「いいから。何を言いたいか察したから。どうせエレナの親からお礼としてお金を渡されるんだろ?ならさ、その後、この国を案内してよ。俺何も知らないんだ」
リサリアは「畏まりました」と言い、その後お礼にとか償いというワードを発しなくなった。
健斗は痛む左腕をかばいつつ、林の中を街道から離れないように注意しながら歩いていた。健斗はエレナとリサリアを守ることに集中していたが、リサリアの声が響いた。
「くぅ、なぜなのだ!」
リサリアが唸ったが、視線の先にはツインヘッドというB級の魔物がいた。その魔物は魔法耐性が非常に高く、物理攻撃特化でしか倒せないため、物理攻撃が得意な者が少ないパーティーではA級の魔物よりも厄介な存在だった。
「悪夢だ・・・お嬢様を守れない・・・」
リサリアは死を覚悟した。
そんな中、健斗が突然とんでもないことを言った。
「リサリア、外套の左前のポケットの中に手を突っ込み、そこにある玉を俺の頭の上に投げてくれ。」
リサリアは驚きと怒りを覚えた。
「あんなことを言いつつ、今このタイミングで私にそんなことをさせるのか!」
彼女は怒鳴ったが、健斗は冷静に答えた。
「左腕が動かせないんだ。死にたくなければすぐにそれを出せ。やつを倒す」
リサリアは恥ずかしさから真っ赤になりながらも、健斗の気迫に押されて左前ポケットに手を入れた。そのポケットは脚の付け根に位置しており、絶妙な位置に健斗の目的の物があった。彼女は戸惑いながらもボールを取り出すと健斗に投げ渡した。
「俺のハートを喰らえ!スマーーッシュ!」
健斗は痛む左手でボールを上に投げ、右手に握るラケットでスマッシュの要領でボールを打った。訳のわからぬ雄たけびとともに放たれたボールは真っ直ぐにツインヘッドに向かい・・・見事に命中した。
当たった瞬間、まるで打ち上げ花火のようにその巨躯が打ち上げられ、地面に叩きつけられるとツインヘッドは瞬く間に霧散した。
「っしゃー!見たか俺の熱い一撃を!これがスマッシュの威力だ!」
「凄い・・・私の王子様・・・」
健斗が魔物を倒したのを見たエレナは場違いな感想を漏らしたが、リサリアはそうではなかった。
リサリアは自分が刺した相手が盗賊を無傷で倒したり、自分をあっさりと組み伏せたことから強いとは思っていたが、予測を遥かに超えるとんでもない力を持っていることを悟り、涙を浮かべながら再び健斗に懇願した。
「この身を捧げます!先程の続きも夜伽も致しましょう!ですからお嬢様には手を出さないでくださいまし!どうかお情けを!」
リサリアは逆らったらどうにもならない相手だと理解し、己の体を差し出してでも何とかお嬢様を守ろうと考えたのだった。
それはつまり、リサリアが健斗のことをまだ信用していないことを意味していた。
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