第4話 健斗のこと

 本編に戻る(2話目の続き)


 健斗の見た目はごく普通、いやどちらかと言うと冴えない顔立ちの高校生だ。どこにでもいる普通の少年がテニスをしているだけの地味な存在。

 それが周りの評価だ。


 しかし、持ち前の反射神経や機転、思い切った戦術で、テニス部では一番の実力を持っている。だが運が悪く、戦績は全大会初戦敗退だ。再度強調するが、見た目は冴えない高校生であり、運も悪い。


 スポーツ刈りのヘアスタイルから彼がスポーツマンであることは分かる。薄着の時には胸板や腕の筋肉が見え、それなりに鍛えているのは一目瞭然だ。だが、身長も平均的で、背景に馴染むモブキャラに過ぎない。しかし、意外にもテニスウェア姿はよく似合い、女子ウケも良い。ただし、それはテニスウェアを着ている時に限る。


 1年生の時、県総体に向けた校内選抜試合では圧倒的な強さを見せ、20年振りに優勝が期待されていたが、運が悪く熱を出して初戦敗退した。


 前年の試合成績は全て初戦敗退していたが、それは体調不良のせいだ。家族が季節外れのインフルエンザに罹り、それをもらい発熱。前日家族と食べた店が食中毒を出し、無理に試合に行くも腹痛。実に不運な男だった。しかし、持ち前の性格から自虐ネタにして過ごしてきた。負けは負けとして悔しさをバネに人1倍頑張るも、その様子を自慢したり人に知られるのを嫌がる性格だ。根は真面目だが、ややもすると厨二病を患っていると言われる馬鹿っぽいところもある。


 そんな健斗だが、几帳面なところもあり、荷物の目録とステータスを書き記すとノートをリュックにしまう。


「よし、次はスマホを確認しよう!」


 健斗はスマホを取り出し、電波の確認をした。案の定、【圏外】と表示されている。


「だよね~。わかっていましたとも。ハイ・・・」


 うなりながらも、バッテリーマークが通常とは異なっていることに気がついた。さらに、【ヘルプ】という新しい項目が追加されている。


「これは…?」


 周りの気配を探りつつ、慎重にヘルプを開いてみる。すると、画面には次のような説明が表示された。


【魔力を有する者が手をかざせば、魔力をスマホにチャージできる】


 インジケーターはスマホにチャージされた魔力を示すらしい。


「魔力をスマホに?・・・試してみるか!」


 スマホに手をかざしてみると、何かが吸い取られるような感覚があり、次第に息が荒れてきた。慌てて止めたが、インジケーターを見るとわずかだが魔力が増えているのが分かる。


「まだ1割にも満たないけど・・・すげー!本当に増えた!」


 次に、健斗は先ほど拾ったドロップ品を確認しようと考えた。スマホを操作していると、【かんてぃ】という鑑定アプリがあることに気づいた。


「鑑定アプリか・・・試してみよう。」


 ドロップ品をスマホで撮影し、鑑定ボタンを押すと、画面には詳細な情報が表示された。


「この外套は・・・魔力を防御する力があるのか。そして、この宝石のようなのはやはり魔石か。高ランクの魔物の魔石?」


 さらに、テニスラケットとボールも撮影して鑑定したところ、【破壊不能】という結果が表示された。


「うおおおお、これもすげーな!流石異世界!」


 健斗は興奮しながら、次にボールの検証を始めた。まず、ボールをラケットで打つと30秒後に手元に戻ることを確認した。試しにボールを投げてみたが、拾いに行かなければならなかった。投げた場合はただの破壊不可なボールだった。


「投げるだけじゃダメなんだな。やっぱりラケットで打たないと。ってしくじった!遠くに投げすぎたぞ!俺のバカーん・・・」


 何とかボールを見付けて戻ると、洗面器程度の大きさの石に向けてボールを打ってみた。

 すると、ボールが当たると石は見事に砕け、さらに少し離れた木に向けて打つと、幹が砕けて木が倒れた。


「すげー!ラケットで打つとこんなに威力があるんだ。」


 健斗は色々な打ち方でボールを打ち出し、その力を魔物相手に確認したいと思い始めた。そんな中、突然背後から何かの気配を感じた。


「また魔物か・・・?」


 振り向くと、大型の魔物が現れた。


『スマートなカバって感じだな』


 心の中で呟くと即座にラケットを構え、フォアハンドでボールを打ち出した。ボールの速度はプロの選手が放つサーブより速く飛んでいき、魔物の足に当たると動きを鈍らせた。足がもげたりはしなかったが、確実にダメージを与えたようだ。


「今度は足を鈍らせたか…これは使える!」


 健斗は次々と異なる打ち方でボールを打ち出し、それぞれの効果を確認し始めた。スマッシュは高威力で魔物を数メートル吹き飛ばし、バックハンドでは硬直効果が現れた。


「うおおおお、これもすげーな!バックハンドで動きを止め、スマッシュかサーブを打てば良い感じだな!」


 健斗は興奮しながら、新たな発見に喜びを感じていた。そして、再び魔物が現れた瞬間、次の行動を考え始めた。異世界での戦闘が続くのだろうが、少しずつ安全に狩る方法を見つけていこう!と。


「よし、これでまた新しい技が使えるぞ!」


 スマホを手に、健斗は次の行動を考え始めた。ここがどこなのか、どうやって帰るのか、そして何よりも生き延びるための方法を模索するために。


 その時、スマホの画面に見慣れないアイコンが表示された。健斗は興味津々でそのアイコンをタップした。すると、画面に「異世界ナビゲーションシステム」と表示され、地図が表示された。


「これって…まさか、異世界専用の地図アプリ?」


 健斗は驚きながらも、地図を拡大して現在地を確認した。地図には【スタート地点】と書かれた場所が示されており、周囲には【安全地帯】や【危険地帯】といったエリアが色分けされていた。ただ、一度行ったところが明るくなるので、未踏破の範囲は役に立ちそうにない。

 ただ、今いるところがガッツリ危険地帯なのだが、未踏破区域が多すぎて良く分からなかった。


「これなら、なんとかなるかも…」


 健斗は希望を胸に、地図を頼りに次の目的地を決めた。まずは「安全地帯」に向かうことにした。そこには他の冒険者や商人がいるかもしれない。情報を集めるためにも、まずは安全な場所を目指すのが得策だ。


「よし、行くぞ!」


 健斗はリュックを背負い直し、テニスラケットを手にしっかりと握りしめた。未知の世界での冒険が、今まさに始まろうとしていた。

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