第5話 検証

 健斗は新たな発見に喜びながら、一段落ついたところでノートに打ち方とその追加効果を記録していった。記録が終わるとノートをリュックにしまい、出発することにした。


「よおし、そろそろ出発すっか!」


 誰に言うのでもないが、敢えて口に出すことで気合を入れ、周りを探索し始めようとするも、どこに向かったものか見当がつかなかった。


『閃きました!俺って天才?』


 そう呟きつつポンと手を叩くと、その辺に転がっている木の枝を拾う。その枝を地面に立てて、自らぐるぐると回り適当に枝を離した。そうやって枝が倒れた方向に進むことにした。

閃いたと言う割によくあるありきたりな方法だ。


 程なくして獣道を見つけたが、人が歩く道だと思い込み、喜々としてその獣道に何の疑いも持たずに進んでいった。スマホに入っているアプリを見るも、地図は未踏破部分に関しては役に立たず、感覚を頼りに歩くことにした。


 最初は楽観的に考えていたが、進むうちに次第に森の中、さらには山の中へと入り込んでしまった。木々が生い茂り、足元には落ち葉が積もり、小動物が走り去る音が聞こえる。鳥のさえずりが響く中、健斗は一歩一歩進んでいった。


「まあ、ここで一晩過ごせばいいか」


 健斗はちょっとした岩場を見つけ、そこで夜を過ごすことにした。岩場は風を防ぎ、夜露から身を守ってくれる。リュックを枕にして横になると、星空が広がっていた。満天の星が輝き、流れ星が一筋の光を描いていた。


 翌日も歩き続け、少ない飲み物をちびちびと飲んで喉の渇きを癒したが、早々に補助食品を食べきってしまった。


『すぐに人里に着くさ!』


 楽観的な考えに支えられていた。見知らぬ異世界、訳の分からない魔物に襲われる中で、不安で仕方がなかった。


『すぐに人里に・・・』


 自己暗示をかけなければ心がもたない。食料を大事にという思考が抜け落ちていた。


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 獣道を進む健斗は、次第に現実の厳しさを感じ始めた。人里を見つけられないかもしれないという不安が次第に彼の頭をよぎり始めたが、楽観的な考えにすがりつき、自分に言い聞かせることで恐怖を押し込めていた。


 しかし現実は厳しく、腹は減り、喉が渇く。魔物を倒しながら進んだが、二足歩行の魔物に初めて遭遇した時は心理的に厳しかった。


「これはゲームの中だ!ゲームの中だ!だから大丈V(ぶい)!」


 健斗は冗談交じりのギャグを口にしながら自分を鼓舞した。一度二足歩行の魔物を倒すと、次第に慣れていったが、人を殺しているようで嫌な気分は消えなかった。


 その夜、星空を眺めながら健斗は心の中で叫んだ。


「違うだろ!異世界に来たらこう、スババババッと活躍してさ、メインヒロインとお近づきになってうっふん、あっはんな出会いなイベントがあったり、なかったりしてさ、俺TUEEEと叫びながら無双してさ、お姫様に勇者様って言われるのがお約束だろ!誰だよ俺にこんな辛いことさせんの!作者出せ!」


 翌日、空腹が限界に達し、草を食べることも考えながら歩いていると、森が抜けそうな場所に差し掛かった。金属が擦れる音、話し声、馬のいななき等が聞こえる。


「ついに・・・ついに人里に着いたのか?」


 健斗の心は希望に満ち、期待と不安が交錯する中、音のする方向へと足を進めた。木々の間から光が差し込み、道が開けていく。健斗は胸の高鳴りを抑えながら、慎重に進んでいった。


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 健斗がノートにまとめた打ち方と効果


 サーブ: 威力が高く、貫通力あり。

 スマッシュ: 高威力で敵を打ち上げる。

 ボレー: 足をもつれさせる。

 バックハンド: 硬直効果。

 フォアハンド(ショット): 動きが遅くなる。攻撃の主力で、素早く得て、威力もそこそこ高い。

 スライス: 回転を加えると当たった相手が目を回して転倒する。威力はそれほど強くない。

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