第2話 初戦闘

 健斗は、目の前の巨大な魔物に対して恐怖を感じながらも、瞬時に状況を判断した。魔物の圧倒的な存在感にたじろぐが、健斗はすぐに冷静さを取り戻した。


「しかしでかいな。北斗◯拳の黒王号に角を付けたらこんな感じか?」


 健斗はテニスラケットをしっかりと握りしめ、攻撃についての思考に戻った。


「いや、そんな呑気なことを言っている場合じゃないな。逃げられないなら、攻撃するしかない!後100mほどか?どう見てもラケットで殴ってもラケットの方が砕けるよな・・・」


 他に攻撃に使えそうなものを探したが、石を拾って投げてもかすり傷がつけば御の字だろう。ポケットの中にあるのは3球のテニスボールのみ。


「ボールが体に当たっても多少痛い程度だろう。ならばどうするか・・・」


 健斗は短時間で自問自答を繰り返した。流石にどんな強靭な生き物でも、目にボールが当たれば破裂するか、しばらく視界が防がれるはずだ。アニメでも体に剣による攻撃が通らなくても、大抵の場合目にだけは刃物が通る。それに両目を潰せなくともボールが当たれば、一時的にしろ視界がゼロになり、逃げられるかもしれない!健斗は楽観的な性格で、俺ならやれる!と気持ちを切り替えて即決し、そして実行に移した。


 サーブを打ち込む要領で魔物の目を狙い、1球目を打ち出すと叫んだ。


「イッケー!」


 心臓が激しく鼓動する中、全力のサーブを繰り出した。最初の1球は力んでしまったからか、魔物の頭をかすめて後ろの木に向かって飛び、木に当たると幹を粉々に砕いて更に後ろに飛んで行った。


「くそ、外した!次!」


 健斗はすぐに2球目を手に取り、再びサーブを放つ。今度は眼前に迫るほどの勢いで30mほどにまで迫っていたが、不思議と落ち着いており、狙いを定めた。音速を超えるとは言わないが、これまで人類が放てる限界を超えた速度に達したボールは、今度は外れることもなく魔物に向かって飛んでいく。あまりの速度、距離も近いこと、人間を舐めていたのもあり、避ける素振りを見せなかったのか、避けられなかったのか健斗は分からなかったが、ボールは顔の真ん中を直撃した。そしてボールは風穴を穿つように貫通すると、先程木を砕いた時のように遠くに飛んで行った。


 頭部を半ば失った魔物は、惰性のまま力なく数歩進む。そして健斗の息が届く距離に来ると倒れながら霧散した。


「っシャー!」


 健斗はガッツポーズを取り、地面に落ちたドロップアイテムに目を向けた。黒い外套と握りこぶし大の宝石のようなものが転がっている。


「何だ・・・これ?」


 とりあえずそれらを拾い上げると、先程外したボールが手元に戻ってきた。そして1球目、つまり魔物に当たらず木に当たり幹の中央を砕いて半ば貫通した木がバキバキと音を立てながら倒れた。


「ふぅ、なんとかなったか・・・しかし、これ多分魔石?だよな。なんかコートのようなのもあるし、やっぱりゲームの中か、ゲームを舞台にした世界に来たのか?」


 頬を叩くと健斗は周囲を確認し、安全が確保されたことを確認した。次に持っている荷物を確認し始めた。几帳面な性格の彼は、持ち物を一つ一つリストアップし、目録を付けた。


「よし、次はスマホだな・・・」


 健斗はスマホを取り出し、バッテリーの残量を確認した。まず圏外なのを確認した。


「ですよねー・・・分かっていましたとも。まあ、これも異世界のお約束っつうやつですから」


 そんなようにつぶやいたが、幸い、ソーラータイプの充電器も持っているので、電力の心配は少ないはずだ。


「これで地図アプリでも使えたら楽なんだけどな・・・」


 健斗はスマホを手に、次の行動を考え始めた。ここがどこなのか、どうやって帰るのか、そして何よりも生き延びるための方法を模索するために。


 その時、健斗は木に向かって飛んでいったボールが手元に戻ってきたことを思い出した。


「そう言えば外したボールは何で戻ってきたんだ?」


 疑問に思い、いろいろと検証を始めた。どうやら、このボールは一度ラケットで打つと30秒後に手元に戻る不思議な仕様のようだ。手で投げたボールが戻ってこなくて慌てて拾いに行ったが、遠くに投げ過ぎたとぼやいていたりする。


「これって、使い方次第ではかなり強力かも。打ち方で違うのかな?次魔物を見たら試そう!」


 ラケットから放たれたボールが岩をも砕いたことから、少し安堵した。


「これなら、なんとかなるかも…」


 健斗は希望を胸に、次の行動を考え始めた。まずは安全な場所を見つけることが最優先だ。


 健斗はそう言えばと持っていたテニスバッグの内ポケットを見ると、その中に先輩からもらった特別な靴紐があることに気づいた。


「試合で切れたら洒落にならんからな」


 そう言って、ボロボロになった靴紐を見かねてキャプテンが渡してくれたものだ。この靴紐が異世界でどのように役立つかはわからなかったが、健斗にとってそれは大切な思い出と支えであった。


 異世界での冒険中、この靴紐が何度も彼を助けることになる。たとえば、緊迫した状況で結界を張るための儀式に使ったり、罠を仕掛ける際に必要な道具として利用したりすることで、健斗は危機を乗り越えていくのだが、今はまだ知らない。



 **健斗の持ち物リスト**


 **通学用**

 - 勉強道具

 - 水筒

 - スマホ

 - ソーラータイプのバッテリー内蔵の充電器とケーブル

 - ノート

 - エチケットブラシ


 **部活用**

 - ジャージ

 - ウェア

 - 靴下

 - タオル

 - スポーツタオル

 - スポーツ用の靴

 - 下着

 - ビニールの袋数枚

 - 硬式テニスのラケット

 - 予備のラケット

 - 予備のストリング

 - スポーツグラス

 - グリップテープ

 - ボール3個+未開封のボール2個(新品)

 - 先輩から貰った靴紐

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