第38話 おもてなし会議

 会議室にアナスタシア様のやる気に満ちた声が響く。



「はい、みなさん揃いましたね。早速ですが、人間国の使者の方に対する対応を話し合いたいと思います」


「はい」

「ふん」

「……」

「ふむう」



 会議室に集まったのは俺、アナスタシア様、オルモント、イシュリナ、エリーの5人だ。


 四天王の3人はそれぞれ、なんとも言えない反応を示している。


 そんな中、がんばろうとしているアナスタシア様が声を発した。



「今回、ゴレゴルン卿は2、3日程度の短期の滞在となってます。その間に魔王軍が友好的であると、少しでも感じ取ってもらいたいのです」


「ふん。俺は人間如きにこの魔王軍が測れるとは思えませんがね」



 オルモントが不遜ふそんな態度でアナスタシア様に意見する。



「まぁまぁ。測れずとも以前の魔王軍とは違うと思わせればいいのじゃろう?」


「どうやって思わせる? アタシには全然思いつかないけど」



 エリーとイシュリナは比較的前向きな考えをしているようだ。

 少なくともオルモントのように、すぐに否定するつもりはないのだろう。



「ふん、そんなの補佐役に考えさせればいいんじゃないか?」



 はぁ!?

 いきなり言われても困るんだけど!


 というかオルモントの俺への振り方が雑すぎる!

 こんな仕打ちは酷いと思うんだが。


 そこでふと俺の脳裏に、前世での思い出が蘇った。


 あぁ、そうか。

 社会人時代ならこの手の理不尽は良くあったな。

 

 わかる、わかるぞ。

 これは上司の無茶振りと同じ系統だ。


 ということは……。


 これまで無難な返事をして、お茶をにごしてきた俺の実力が光る瞬間だ。



「食事会を開いて歓待するのはどうでしょう? 兵は同じ飯を食えば仲間意識が芽生えますから、使者の方と食事を共にすれば仲が深まるかもしれません」



 一緒にご飯を食べればいいでしょという、なんの捻りもない当たり前のことを言う俺。


 本音を言えばあのクソデブ貴族と仲良くなるなんてゴメンだが。


 そんな俺の、すごい無難な誰でも思いつくアイデアを聞いて、アナスタシア様は嬉しそうに手を叩く。



「レオンさん! 素晴らしいアイデアです! さすが補佐役ですね!」

「ふん、なるほどな」

「ほう。飯か」

「ふむふむ。考えたのう!」



 あれ? なんか好感触なんだが?

 というか、他国の使者をもてなすのに、食事を共にするのは普通でしょ?



「今のところ食事会はかなり有力な候補ですよ! みなさん他に何かアイデアはありませんか?」



 俺の案で勢いづいたのか、アナスタシア様は嬉しそうに他の意見も求めた。


 そんなアナスタシア様に応えるように、四天王たちが次々と口を開く。



「俺の配下である暗黒騎士の強さを見せるために、目の前でモンスターを八つ裂きにするのはどうでしょう?」


「それは却下です」


「我が暗殺部隊が使う毒の強さを見せるのはどうですか? 大きな象が一瞬で死ぬところを見せれます」


「ダメです」


「わっちの作り上げた、死体を再利用したエコ兵士を見せるのはどうじゃろうか!」


「絶対にやめてください」



 四天王たちが出すトンデモアイデアをアナスタシア様がバッサバッサと切り捨てていく。


 というかこいつらセンス無さすぎじゃね!?


 そんなグロいもの、誰も見たくねーよ!

 使者の意味を理解しているのかすら怪しいぞ。



「私は平和を目指して仲良くしたいのです。威嚇いかくするつもりはありません」



 うんうん、そうだよな。


 アイツらの提案はどれも人間国の奴らを脅しているようなものだもんな。



「他に意見はありませんか?」



 シーンと会議室が静まり返る。



「こうなると、レオンさんの食事会という案が一番ですね」


「ふむ」

「……」

「そうなるよのう」


「わかりました。使者の方との食事の席を用意しましょう」



 無難ではあるが、俺も食事会がいいと思う。

 顔を突き合わせて美味いものを食べれば、大抵はうまくいくはずだ。



「では食事会は決定として、今度は誰が出席するかになりますが……ゴレゴルン卿と楽しく、できれば仲良く食事ができる方はいますか?」



 ゴレゴルンと一緒に食事かぁ。

 性格がひん曲がった貴族相手の食事ってことだよな?


 うわぁ。いやだなぁ。


 なんとか理由をつけて、俺だけでも逃げ出せないだろうか。


 俺がどうしたものかと思案していると、オルモントが机を叩いて立ち上がった。



「ふざけないでいただきたい! 人間どもとの交流どころか、このオレにこびを売れということですか!?」


「い、いえ。そういうわけでは……」


「申し訳ありませんが、俺は食事会は辞退します。そういう役目は補佐役が相応しいと思いますがね?」



 なっ!

 オルモントのやつ、こっちになすりつけやがった!


 全員の視線がこちらへと向く。


 やられた。これは断れない流れですやん!


 くそう。ならばせめて……。



「食事会にはもちろん出席させてもらいます。ただ、自分だけでは華がないので……」



 もさいオッサンと飯を食うなら、せめて可愛い子くらいは付けて欲しい。


 チラッとエリーとイシュリナに視線を向ける。


 オルモントは1抜けしやがった、悔しいが仕方がない。


 だが、他の連中は逃がさんよ!

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