第39話 華とは

「それでしたら、私の参加ではダメでしょうか?」



 アナスタシア様が恥ずかしそうに上目遣いで尋ねてきた。


 はい、可愛い。はい、最強。

 十分です。あなた1人で華は十分です!


 そう声を大にして言いたいところだが、そうもいかない。


 なんせ相手はゴレゴルンだ。

 あのクソ貴族のいやらしい視線をアナスタシア様が1人で受け止める?


 天が許しても、俺が許さぁん!



「アナスタシア様。ゴレゴルン卿にも好みがあるでしょう。自分はアナスタシア様お一人で十分ですが……」


「まぁ!」



 ポッと顔を赤くするアナスタシア様。

 うむ、可愛い。



「他にも数名いたほうがいいかと思います」


「なるほど。わかりました」



 ということで、まずはエリーを巻き込もう。


 座っているエリーの方を向き、彼女の頭のてっぺんから足の先までなぞるように視線を動かす。


 そして俺は半笑いで言った。



「おっと失礼。エリーさんは華とは言えませんでしたね」


「なんじゃと!?」



 見た目幼女だからな。

 将来は美人になりそうな顔立ちだが、食事会には間に合うまい。

 というかこれが成長した姿だったか。



「おぬし、この素晴らしいぷろぽーしょんがわからぬと!?」


「その幼い体型のことですか?」



 エリーが凹凸のない体をくねらせて必死にアピールしているが、ごめん正直1ミリも興奮しない。



「ぐぬぬぬぬ! これはこれで需要があるんじゃよ!」


「へー」


「わかった! もうよい! わっちも食事会に出て、その貴族とやらを悩殺してやろうぞ!」



 はい、幼女が1人釣れましたと。


 あまりにも簡単に釣れたので、ちょっと心配になるレベルだが。まぁエリーだしいいか。


 こうなったら、次の手も簡単だな。



「イシュリナさんはどうされますか?」


「歓待はアタシの分野ではないのでな」



 つーんとつれない態度を見せるイシュリナ。


 まぁ予想通りではある。


 だが残念だったな。

 俺はお前の弱点を見抜いているんだよ!



「そうですか。では俺とエリーさんがアナスタシア様の役に立てるようにがんばるとしますか」



 アナスタシア様の名前が出たところで、イシュリナがピクリと反応を見せた。


 ふふふ。やはりな。



「ゴレゴルン卿をばっちりもてなして、アナスタシア様の期待に応えてみせますよ……誰かさんと違ってね?」



 ドヤー!


 アナスタシア大好きダークエルフにこれは効くんじゃないか!?



「お、おぬし何を言っておる!? イシュリナ落ち着くんじゃ!」



 俺の意図に気づいたエリーが慌ててイシュリナを止めようとするが……。



「キ、キサマふざけやがって! いいだろう、アタシもその食事会とやらに出てやろうじゃない!」


「ナ、ナンダッテー」



 はい、イシュリナも確保。

 

 ぶっちゃけ、見た目もスタイルもいいイシュリナは食事会に出てもらうつもりでした。

 そうすればアナスタシア様が汚れた視線にさらされる時間が減るからな。



 これで、オルモント以外は全員参加となったわけだが……。



「な、なんだ。そんな目で見ても俺は参加しないぞ!」



 全員から視線を向けられてオルモントはバツが悪そうにする。


 うーん、まぁでも、余計な揉め事の種になりそうだし、コイツはいらないかなぁ。

 


「お、俺までもが食事会に参加したら、魔王軍が手薄になるだろう!? だから俺はあえて、残ってやるんだ!」



 はいはい。そういうことにしておこう。

 いまさらこの豪華な女性陣に加わりたいって言っても、俺は断固阻止しましたよ。


 全員の出欠が決まったところで、アナスタシア様がパンと手を合わせた。



「では、食事会の準備を手配しておきます。参加する方も不参加の方も、それぞれよろしくお願いしますね」


「「「はい」」」


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