第36話 歩み寄る者たち

 ──翌日



 アナスタシア様に呼ばれた俺は、彼女の執務室へと来ていた。



「失礼します」



 部屋の中にはアナスタシア様と……イシュリナがいるな。



「ようこそレオンさん。こちらにどうぞ!」


「え、あぁ、はい」



 ニコニコ顔のアナスタシア様にうながされて中に入る。



「それで、今日はどういった用件でしょうか?」



 この布陣、おそらく昨日アナスタシア様が任せてくれと言っていた件だとは思うが……。


 相変わらず可愛らしい笑顔を振りまいているアナスタシア様だが、今日はその笑顔に癒されている場合じゃない気がする。


 理由は単純だ。


 アナスタシア様の後ろに控えているイシュリナが、ものすんごい目つきで俺を見ているんだもん。


 目を見開いて、ギョロ! って感じ。


 やべぇよ。


 ゲームに出てきた、サイコホラーのイシュリナの目をしてるじゃん!


 微笑むアナスタシア様と超怖いイシュリナという組み合わせ。


 これは一体どういう空間なのか。

 意味がわからん。

 わからんが、油断大敵だってのはわかるぜ!



「レオンさんに昨日伝えていた、イシュリナの説得が完了したんですよ!」


「お、おぉ。そうでしたか」



 あなたの後ろにいる人、とても説得されたような顔には見えないんですが。


 目がバッキバキなんですが……。



「ほらイシュリナからも、言ってあげて」


「……コレカラ、ヨロシク」



 カタコトーーーーーー!


 え、なになに、どういうこと。

 ゲームに登場したイシュリナにめっちゃ近づいているんだけど!?

 人間味の無い、サイコパスなイシュリナ再び!?


 怖い、俺怖いです!


 ……。


 でもさ。


 ここで何も返事をしないのはまずくないか?


 一応相手は挨拶をしてくれているわけだ。


 あの状態のイシュリナとは、よろしくしたくないが、そうもいかないのがこの世の辛いところ。



「ど、どうも」



 とりあえず無難に挨拶をしておく。


 近づくそぶりも、振り払う気配も見せない、一定距離を死守する挨拶だ!


 押しても怖い、引いても怖いという状況なので、こんな消極的な返しになってしまった。


 まぁいいだろう。

 横目にアナスタシア様の様子を見てみると、普通に嬉しそうにしていたし。


 これで挨拶ターンは終わりかと思いきや、なんとイシュリナが前に進み出て、俺に手を差し出してきた。


 あ、握手?


 あれあれ?

 ひょっとして俺の先入観から、イシュリナを怖がっていただけなのか?


 そうかそうか。ゲーム知識が逆に足を引っ張っちゃうなんてこともあるんだなぁ。


 俺は失礼にならないようにと握手をする。


 すると……。



「……キニイラレテルカラッテ、チョウシニノルナヨ」



 ひぃぃ!!


 俺にしか聞こえないように、なんか怖いこと言ってきた!


 ヤバイ。ヤッパリ、アイツ、ヤバイ。


 でも、ここでおかしな動きはできない。


 ニッコニコのアナスタシア様の顔を曇らせてしまう可能性がある。



 俺は何事も無かったかのように、握手を済ませて元の位置に戻る。



「はい、これでまた一歩魔王軍がまとまりましたね!」



 すごい嬉しそうに、手を合わせて微笑むアナスタシア様。


 そんな彼女に対してイシュリナは……。



「さすがはアナスタシア様ですね」


「そんなイシュリナったら! 私は何も大したことはしてませんよ?」



 めっちゃ普通に喋ってるやーん!


 なんなんだこれは。


 イシュリナがますますわからなくなったんだが?


 まぁ、俺に対しては怖いということで。


 ……泣いていいか?




 そんな世知辛い魔王軍を体感していると、アナスタシア様が思い出したように言った。



「そういえば、お二人には伝えておくことがありました」


「何でしょうか?」


「実はですね……なんと人間国から友好的なお手紙が届いたのです!」


「おおおぉ!」

 


 たしか以前聞いたときは、人間国が魔王軍の新しい方針を不審がっていたって話だったが、進展したということか。



「何度もお手紙を送った成果が出ました。やっぱり話せばわかってもらえるのですね」



 これは純粋に彼女のがんばりによるものだろう。

 嬉しそうに話すアナスタシア様を見てほっこりする。



「ちなみに、その手紙というのは、どのような内容だったのですか?」


「友好の架け橋になるために、使者の方が来てくれることになりました」


「使者?」


「ええ。魔王の代替わりで、魔王軍がどれだけ変わったのかを、まずは使者の方が見に来られるそうです」



 ほほ〜う。


 なるほどなるほど。


 魔王軍が平和を目指していると言っても、じゃあすぐに国交を開きましょうとはならないもんな。


 まずは少数の人の往来から、仲良くやれるのかどうかを確かめる必要がある。


 そのための使者ということか。



「なので、使者の方が来られたら、魔王軍のいいところをいっぱいお見せしましょう」


「わかりました。それまでにはウルガインにも協力を取り付けたいですね」



 まだ入院中ということだったが、多少無理してでも会う必要が出てきたなぁ。


 ウルガインを抑えれば、晴れて魔王軍が一丸となった姿を見せられるはずだ。



「ちなみに使者の方はいつ頃来られるのですか?」


「それが……近いうちにとだけ」



 近いうちっていつだろうか。

 詳細はもう少し詰めてからってことなのだろうか?



 と、その瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。


 中に入ってきたのは1人の騎士だ。



「アナスタシア様! 緊急の報告です! 人間国の使者を名乗る者が、国境付近に現れました!」


「えぇぇぇ!!?」



 え?


 使者、もう来たの?






──────── ────────


人生初のレビューをいただきました。

本当に本当にありがとうございます。

作者は嬉しさでいっぱいでございます。


ここまで読んで下さった方もありがとうございます。

先が気になるとか、少しでも面白いと思っていただけたなら、星やフォロー、コメントなどをお願いします。皆様からの反応があると作者が喜び、執筆の励みになります。


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