第35話 sideアナスタシア2

「あやつ、一体何者じゃ? ありえないんじゃが」


「何があったのですか?」


「魔法使い連中を、アナスタシアの方針に協力的になるようにしてくれと言われたんじゃ」


「それは私も本人から聞いています」



 先ほどレオンさんが嬉しい報告として知らせて下さいましたから。

 ですが、その話だけでエリーさんが直接訪ねてくるとも思えません。



「その時提示された対価じゃがの……これなんじゃ」



 エリーさんが取り出したのは小瓶でした。

 綺麗な見た目の瓶ですが、これが何かはわかりません。



「これは?」


「鑑定してみるがよい」



 一体何なのでしょうか?


 私もイシュリナも彼女に言われるままに、鑑定の魔法を使いました。



「えええぇぇ!!!」


「な、なんだ、と!」



 神水!?


 全ての傷を一瞬で治すという奇跡の水!

 体の欠損ですら治療してしまうという最強の回復薬じゃないですか!?



「これをあやつは4本も渡して来たのじゃよ!」


「そんなまさか!?」



 神水が4本!?

 ありえません!


 だってこれは……



「おい! アタシのことを騙そうとしても無駄だ! この神水が世界に3つしかないことは知っているんだからな!」


「イシュリナの反応も当然じゃろう。でもここに……ほれ」

 


 そう言ってエリーは追加で3つの小瓶を取り出しました。


 鑑定の結果は……そ、そんな。


 

「「……………………」」



 あまりの事態に私とイシュリナは絶句してしまいました。


 これをレオンさんが?


 魔法使いの協力をお願いする対価に?



「これだけのお宝を積んだんじゃ、最初はわっちの体が目当てかと思ったがの」



 しなしなと体をくねらせるエリーさん。

 レオンさんがエリーさんの体目当て?


 ……ふーん。



「どうやら本当に協力をお願いするだけで、この神水をくれたようなのじゃ」


「ふん。おまえのそんな貧相な体など、誰も興味をもたないだろう」


「な、なんじゃと! 言っていいことと悪いことがあるぞイシュリナ!」


「事実だ」



 あ、そうなのですか。

 体目当てでは無かったと。


 ふむふむ。

 エリーさんの体型は好みじゃないのですね。


 それはそうと、それなら余計に気になることが出てきました。



「レオンさんは神水の価値をわかっていないのでしょうか?」


「そうかもしれないのう。ただこれだけはハッキリ言えるのじゃが」


「なんだそれは?」


「あやつは、野心のかけらもないんじゃろう。それかものすごいバカか」



 エリーの言う通り、神水があれば権力者にり寄るのも容易たやすいでしょうし、巨大な財を得ることも可能でしょう。



「イシュリナもレオンについては警戒しておったからの。神水をポイっと出すような奴じゃから、気にはなるが危険はないと思うんじゃ。気にはなるがの」


「……ふむ。そうか」


「でも、レオンさんはどこでこの神水を手に入れたのでしょう?」


「……魔神のほこらで取ってきたそうじゃ」


「「!!!!!」」



 再び驚く私とイシュリナ。



「魔神のほこらって、あの魔神のほこらか!?」


「そうじゃろうな」


「………………」



 たしかに魔神のほこらなら神水があってもおかしくありません。

 でもあそこは、お父様が攻略できなかった凶悪なダンジョンです。


 そんなダンジョンを攻略できる実力がレオンさんにはあるということ。


 でも私はなぜか納得しました。


 なるほど。だからあんなに……。



「まぁわっちは、本当じゃろうとは思っておる。アナスタシアもそれは気づいておるんじゃないかの?」


「そうですね……私の眼でもそれは確認できていますね」



 私の持つ眼。魔眼。


 相手の魔力の質や量を見抜くこの眼は、これまで私の人生において何度も助けてくれました。


 危ない人物や危険な存在は魔力がにごって見えるので、そういったものを意図的に避けることで、いくつもの危機を回避してきたのです。


 つい最近暗殺者に襲われたときも、早めに声を上げることができましたし。


 そんな私の眼で見てもレオンさんは特別な存在でした。


 純粋でとてもんだ魔力をしているのがレオンさんなんです。

 他の誰よりも綺麗で透明な魔力。そんな方が悪い人のはずがありません。


 そして特筆すべきは、レオンさんの魔力量です。


 エリーさんが言ったように、私はレオンさんの実力にも薄々気が付いていました。


 彼の持つ魔力が日に日に大きくなっていくのを見ていましたから。



「アナスタシア様、その眼で見たあの男はどうでしたか?」



  ピンチに駆けつけてくれたレオンさんの背中を思い出して、少しだけ目を閉じる。


 私が見たレオンさん……それは。


 瞳を開けてイシュリナをまっすぐと見つめる。



「この際しっかりと言っておきましょう。彼はこの魔王軍で誰よりも純粋で……」



 先ほど見たレオンさんの魔力。

 圧倒的な彼の魔力を見て私は確信しました。



「誰よりも強いでしょう」



 それこそお父様を超えているのではと思えるくらい。


 ですから、彼を疑うのは時間の無駄です。

 悪しき存在なら問題ですが、彼はとても優しい素敵な方なので。


 それこそ、この魔王軍の救世主のような。



「レオンさんが何者かは私にもわかりません。ですが、悪い人物ではないのは確かです。もしそうなら、とうに魔王軍を支配しているでしょう?」


「そ、それはたしかに……」


「ですから、イシュリナ。私の平和への想いは彼が吹き込んだものではありません。むしろ私のこの想いを後押ししてもらっているのです」


「では本当に人間国と……」


「ええ、なのでイシュリナも私たちに協力してもらえませんか?」

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