第34話 sideアナスタシア1

 ──sideアナスタシア



 レオンさんとお話をして、自室に戻った私はホッと一息つきました。



「ふぅ。ドキドキしました」



 なぜかレオンさんに会うと、嬉しさと緊張が同時にやってくるんですよね。

 彼の放つ独特な存在感が原因でしょうか?


 ……。


 あまり深く考えても、答えは出なさそうなので、私は今やるべき事をやろうと思います。



「イシュリナ。いますよね?」


「……はい、ここに」



 私が呼びかけると、どこからともなくイシュリナが現れました。


 以前、暗殺者に襲われてからというもの。彼女は常に影から私を護衛してくれているんです。


 なのでこうして声をかければ、確実に姿を見せてくれるのですが……。



「メモを読みました。あれはなんですか?」



 先ほどレオンさんの前でイシュリナに呼びかけたとき、彼女は姿を見せずに一枚のメモを私に向かって落としたのです。


 そこには──


『レオンは信用できない。奴がおかしな動きを見せたら、すぐに対処できるよう控えている』


 というような内容が書かれてました。



「そのままの意味です。アタシはあの補佐役を信用していません。アタシの姿を見せたら、守れるものも守れなくなってしまいます」


「はぁ。そうですか……」



 イシュリナから改めてレオンさんの印象を聞き、私は思わずため息が出てしまいました。


 レオンさんがいくらイシュリナを探しても見つからないわけですね。

 彼女はレオンさんを警戒して身を隠しているんですから。



「私は彼に何度も命を救っていただいているのですが、それでも信用できませんか?」


「できません。あのような得体の知れないやからは危険だと判断しております」


「得体の知れない……ですか」


「暗部の調査では、以前は中堅くらいの騎士だったようです。そのような者がウルガインを倒せるはずがありません。何か裏があるのかと」



 レオンさんの以前の立場と実力が不釣り合いなことに、イシュリナは警戒しているようです。


 四天王が魔王軍の最高戦力なのは間違いありません。

 彼女の言う通り、それを普通の騎士が倒すのは考えられない事態ではあります。


 彼女が疑うのも当然でしょう。



「それに、アナスタシア様に近づいたのも怪しく思っています。ハッキリ言いますが、傷心中のアナスタシア様にアイツが付け込んだと思ってます」



 イシュリナの付け込まれたという言葉を聞いてドキリとしました。


 彼女の言葉が当たっていたからではないんです。

 ただ、自分の甘えを再認識したので……。


 お父様が死んだとき私は落ち込んでいました。

 そんな落ち込む私のそばにレオンさんが居たのは事実です。


 私がレオンさんを頼った。いいえ、甘えたというのが正しいでしょう。


 彼の純粋さを知っていた私は、この人なら大丈夫、任せられると思ったのです。



「その反応。やはりアナスタシア様の弱みに!」


「違います! 付け込まれたなんてことはありません! それはイシュリナの思い過ごしです」


「……にわかには信じがたいですね」



 疑わしげな眼差しのイシュリナ。


 彼女はとても用心深いので、誤解を解くのは大変そうです。


 と、そこに扉をノックする音が響きました。



『アナスタシア〜! わっちじゃ。入ってもいいかの〜!』


「エリーさん? どうぞ入ってきてください」



 四天王のエリーさんが、ガチャリと扉を開けて入ってきました。



「なんじゃ、イシュリナもおったのか」


「あなたこそ、何の用かしら?」


「わっちは、アナスタシアに伝えたいことがあっての」


「なんでしょう?」



 いつもは研究室に閉じこもっているエリーさんが、私を訪ねてくるのは珍しいです。

 一体どういった要件なのでしょうか?



「レオンについてじゃ」


「「!!!」」



 ちょうど話題にしていたレオンさんの名前が出て、驚く私とイシュリナ。



「あやつ、一体何者じゃ? ありえないんじゃが」

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