第32話 説得(物理)

 前話の能力値を測定する装置についてご指摘をいただき、書き直しいたしました。

 大きな流れは変わっておりませんが、非人道的な装置を破壊したことになっております。

 ──────



 魔神のほこらで取ってきた結構レアな草、草というか薬草だ。


 これくらい貴重な物ならば食いつくかなと思っていたが……予想以上だな。



「そ、それは霊草ドラコルブ・ソウルでは!?」


「ご存知でしたか。先日たまたま手に入ったんですよ」



 霊草ドラコルブ・ソウルを袋から取り出して近くの机に置く。


 その動作を食い入るように見つめていたエリー。


 あまりにガン見するのでちょっと面白かったのは内緒だ。



「この霊草を差し上げてもいいですよ」


「ほ、本当か!? 欲しいのじゃ! 貰ってやろう!」


「元々壊れていた装置を、さらに壊してしまったおびということですがね」


「いや、最初は壊れておらんかった。壊したのはおぬしが拳で……」



 何やらよく分からない事を言い出したので、霊草ドラコルブ・ソウルをスッと袋にしまう。



「あぁ! わっちの貴重な薬草が!」



 目の前から消えた霊草を追って切なそうな顔をしたエリー。

 そんな彼女に対して、俺はいい笑顔でたずねる。



「元々壊れていませんでしたか?」



 袋から再び霊草の葉をチラ見せする。



「う、い、いや。壊れていた可能性もないこともないが……」



 エリーが言いよどむ様子を見て、今度は霊草ドラコルブ・ソウルを2束にして置く。



「増えとるぅぅぅぅぅ!!!」


「自分と同じ認識を持っていただかないと、おびができないんですよね。何を壊したおびなのかをね」



 そう言ってさらに追加でもう1束霊草を置く。



「さらに増えとるぅぅぅぅぅ!!」


「元々壊れていた装置を、さらに壊した……で合ってますかね?」


「ああああああ! そうじゃった! あの装置は元々壊れておったんじゃった!」



 霊草ドラコルブ・ソウルに目が釘付けのエリーがブンブンと首を縦に振る。



「そうですよね。いやぁ良かった。自分の認識が間違っているのかと思いましたよ」


「ま、まま間違っておらん! それで、この霊草は貰えるんじゃろ!?」


「おびですからもちろん。ただ、壊れていた装置の数値は当てにならないと思うのですが、その件については……」


「そう、そうじゃな! おぬしの数値については、装置が壊れていたので何もわからん! うむうむ!」


「安心しました。では、この霊草をどうぞ」



 俺が笑顔で告げると、エリーはさらうように霊草ドラコルブ・ソウルを手に取った。



「うひょおおおお! これで新しい研究ができるのじゃぁぁぁ!」



 ふふふ。作戦は成功だ。

 能力値に言及げんきゅうされてすごい焦ったが、結果良ければ全てヨシ。


 エリーの趣味嗜好しゅみしこうも理解できたので大収穫と言っていいだろう。


 まだ俺の仕事は完全には終わってないが、安堵あんどの息をつく。



「ところで、エリーさんには一つお願いしたいことがあるのですが」


「ぬぬ、一体なんじゃ? わっちは安い女じゃないんだがのう」



 こちらに警戒した眼差しを向けるエリー。

 その手にはガッチリ霊草ドラコルブ・ソウルが握られているので、全然説得力はない。



「魔法使いの方達に、アナスタシア様の方針に協力的になってもらいたいんですよ。そのためにはエリーさんが四天王として、アナスタシア様の方針に賛同してもらえると助かるのですが」


「ほぅ。それが補佐役の仕事というわけかの」


「そうですね。もちろんタダでとは言いません」



 俺は手土産用の袋から、小さな小瓶を取り出した。



「鑑定の魔法は使えますよね。この瓶の中身を調べてみてください」


「なんじゃ? こんな小瓶が一体……」



 いぶかしげにビンを見るエリー。


 彼女は小さく呪文を唱えると……。



「な、な、な、なんじゃと! 神水じゃとぉぉぉぉぉぉ!」



 部屋の壁まで後退あとずさり、驚きの表情で叫び出した。


 ちょっと面白いな。

 霊草以上の見事な反応だ。


 ゲームでは完全回復する使い切りのアイテムだったので、霊草よりも貴重ではあるが、ここまでオーバーなリアクションをしてもらえるとは思っていなかった。



「お、おおお、お主これをどこで手に入れたんじゃ!?」


「魔神のほこらです」


「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」



 神水を鑑定した瞬間よりも派手なリアクションをしてくれるエリー。


 魔神のほこらってそんな驚く要素あっただろうか?

 いや、それはまぁいい。

 今は協力を取り付けるのが先だ。



「それよりもどうでしょうか。アナスタシア様の方針については」


「……その神水も貰えるのじゃろうか?」


「方針を同じくする方は仲間ですから、自分は仲間には寛容かんようなんですよね」


「もちろん! わっちはアナスタシア様の考えを支持しとる! 平和を目指すんじゃったよな!」


「えぇ、他の魔法使いの方達にも、その考えが伝わればいいのですが」


「わっちに任せてくれればよい! ただ、神水が無いとその……」



 エリーが上目遣いで、困ったように俺を見上げてくる。

 くっ、ちょっと可愛いじゃないか。


 だめだ、ほだされるなレオン。

 気を強く持つんだ。



「わかりました。この神水が必要なんですね。では……」



 2本目の神水を取り出して机に置く。



「なぁぁぁぁぁぁぁ! あ、ありえん! その水がどれだけ貴重じゃと……」



 さらにもう一本を置く。



「さ、3本!?」



 反応が面白いので、もう一本置いてみる。



「……………………」



 目を見開いて固まってしまった。


 どうせならもう一本出してみるか。


 バタン!



 あ……エリーが白目をいて倒れてしまった。

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