第31話 正義の鉄槌
彼女はパッと起き上がり、自身の膝をパンパンと払うと、うなだれた時に落ちたのであろうとんがり帽子をかぶった。
見た目が幼女なので、一つ一つの動作が微笑ましい。
微笑ましいが、逃げるタイミングは見失いました。はい。
彼女が部屋の中をキョロキョロと見渡すと、なぜか突然目を見開いた。
んん? なんだ一体?
エリーの行動が読めん。
俺が疑問符を浮かべていると、彼女が口を開いた。
「お主、ちょっと聞きたいことがあるんじゃが!」
薄い胸を張りながら、ビシッと俺を指差すエリー。
彼女の足首まである、長いストレートの金髪がサラサラと揺れる。
見た目は完全に少女の魔女コスプレだ。
可愛らしい容姿をしているので、とても似合っているが、彼女の年齢と見た目は釣り合わなかったはず。のじゃロリだしな。
先ほどまでの落ち込んでいた姿はどこへいったのやら。今は微笑みを浮かべてこちらを見ている。
これはチャンスか?
このままエリーの協力を得られれば、魔王軍の意識を変えるという任務の達成に、一歩近づくだろう。
彼女の機嫌を取るためのアイテムはいくつか持って来たが、この様子なら手土産は無しでも良かったかもしれん。
ちなみにゲームでは彼女はかなりマッドなキャラだった。人体実験だとか、改造だとか、そういう方面で物騒な子だったので、本音を言えばあまり近づきたくはない。
まぁ、これも魔王軍の意識改革のためだ。
「聞きたいことですか? いやまぁ、答えられる範囲でしたら」
「ホントか!? うひょー! 嬉しいのじゃ!」
本当に嬉しそうに飛び跳ねる幼女。
これでも四天王なんだがなぁ。
この絵面だけ見たら、ただの可愛い女の子がはしゃいでいるだけにしか見えん。
そんな光景を見て、俺の気が緩んでいたのだろう。
彼女の質問を聞いて俺は固まってしまった。
「この部屋には能力値を測る装置が付いておるんじゃ。おぬし、異常な数値を出しておるが、本当にただの騎士かの?」
「!!!!!」
彼女はパソコンのディスプレイのような物を見ながら言葉を続ける。
「装置の故障はないじゃろう。わっちの数値は問題ないからの。おぬし本当に何者じゃ?」
能力値を測る装置!?
そんなの聞いてないんですけど!
つまりは、どういう事だ。
彼女には俺のステータスが見えてるってことか!?
「目を疑うような数値じゃのう。魔力だけでもわっちの何倍じゃ? ちょっと信じ
魔神の
どうする? どう説明すればいい?
鍛えたんです、で通る次元は超えている気がする。
魔法使いのエリーの魔力の数倍って、それちょっとヤバいよな。
平和を目指して意識改革するはずの補佐役が、ステータスは全く平和じゃないっていうね。
むしろ、戦闘の
「興味深いのう」
彼女の瞳がまるで獲物を見つけたかのように、キランと光る。
!!!!!
ヤ、ヤバいぞ!
一番目をつけられたらダメなやつに、ロックオンされた!
くっ、こうなったら意地でもはぐらかすしかない。
絶対に
「自分の能力値ですか……」
装置、装置、装置……あった、あれか!
何やら妖精のような存在が数匹、こっちを血走った目で見つめている謎の装置がある。
って、ひでぇ!
あの妖精さん、全身にコードが刺さっていて、かつ逃げられないように鎖で縛らせているんだが?
何あの装置、こわっ!
「そうなのじゃ! 何か心当たりはないかの?」
「……うーん。そうですねぇ」
考えるフリをしながら、スッと装置に近寄る。
よくよく見ると、血の涙を流している妖精さんもいる……。
マッドすぎる。エリーのやつマッドすぎるんだが!
勝手に俺の能力を見るのもいただけないが、あの装置はアカン。
「あー、ひょっとしてアレが原因ですかねぇ?」
「むむむ! それはなんじゃ!?」
期待のこもった目でこちらを見てくるエリー。
そんなキラキラした目で見ても無駄だ!
「チェストォォォォォォォォォォ!!!」
気合いの声と共に、謎の装置に拳を目一杯振り下ろす。
ドゴォォォォォォン!!
俺の
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! わっちの大事な装置がぁぁぁぁぁ!」
こんな残酷な機械は滅するのが正義だ!
俺と妖精さんの安寧のためには手段は選ばん。
「あーしまったー。手が
「う、ううう、嘘じゃろ! なんて事をしてくれたんじゃぁぁぁ!」
「すみませんねぇ。でも俺の能力値が異常と出たんでしょ? 元々壊れていたのでは?」
妖精さん、血の涙流してたし。
ある意味壊れとったよ。うん。
この完璧な作戦によって、俺の能力値についての
あとは
彼女のマッドをやめてもらう?
それは無理そうだから諦めよう。
エリーを怒らせるというリスクはあるが、そっちにも対策はある。
「装置はちゃんと動いておった! おぬしがぶっ壊すまではのう!」
「異常があったように思いますが……自分の
「どうしてくれるんじゃ! かなりの研究費を
握った拳をわなわなと震わせて、涙目で怒っているエリー。
見た目が見た目なので、正直全然怖くはない。
怖くはないが、申し訳なさそうな顔だけはしておく。
「いやぁ本当に申し訳ないです。お
手土産用の袋からチラッと草の葉を見せる。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます