第27話 老害

「ちょ、ちょっと! 閉じ込めるとか、ひどくないですか!?」



 俺は塞がれた帰り道を指差し、先代四天王たちを見る。



『我らの至宝を欲する愚か者に、慈悲など無い』



 またまた殺気が!


 俺は素早く横っ飛びをして、放たれた矢を避ける。


 やばいなこれ。

 様子見どころの話じゃなくなった。



「待ってください、話を聞い……」


『フレイムランス』


「今度は魔法ですか!」



 炎でできた槍が生まれ、俺に向かって飛んできた。



「ちぃ!」



 俺は炎の槍を小手で受け、そのまま弾く。


 すると、今度は横合いからキラリとひかる銀閃が迫ってきた。



 ギャイン!



 反射的に剣で受け止めると、そのまま距離を取るためにバックステップをする。


 その瞬間、獣人の男が降ってきて、俺の目の前の地面を拳でかち割って見せた。



 いやいや、さっきまで俺そこにいたんだけど!

 なんて物騒な連中なんだ!



 俺は念には念をの精神で、彼らからしっかり距離を取る。


 よし、これだけ離れたなら、どんな攻撃が来ても対処出来るだろう。


 ってかこの人たち、いきなり襲ってくるとか殺意が強すぎるんですが?

 どうにかならんのだろうか。


 彼らと対峙しながらも、俺はダメ元で聞いてみる。



「あの……もう武具はいらないんで、見逃してもらえたりは……」


『絶対に逃がさん』



 うぼあぁぁ。

 なんて意地悪な先代四天王なんだろうか。


 しかも。しかもだ。


 あいつら全員で襲ってくる気満々じゃないか?


 それちょっとひどくない?

 4対1ですよ?


 もっといえば、俺って魔王軍なんですよね。

 つまりは仲間。


 仲間に対してこの仕打ち。

 こーれ問題です。



 俺は敵対するために来たわけじゃないんだけどなぁ。


 強化装備だって、無理に所持したいってわけでもない。

 貰えるなら貰っちゃおうくらいの気持ちなんだ。


 ここは穏便にいきたい。



「先代四天王の方々。無礼は謝ります。自分も魔王軍に身を寄せる者なので、これ以上の戦いは無益では……」


『信用ならんな。そもそも補佐役というのも我らは聞いたことがない。ヴァルガス様はそのような役割の者をそばに置くはずがない』



 ヴァルガス?

 あぁ、そうか。この人たちは魔王が代替わりしたことも知らないのか。



「ヴァルガス様は亡くなりました」


『なに! そんな馬鹿な!』


「今はヴァルガス様の娘のアナスタシア様が魔王を引き継いでおられます。自分はそのアナスタシア様の補佐役です」



 これなら納得してくれないだろうか。


 外界の状況がわからないのだから、少なくとも話を聞く姿勢にはなってくれるはず。



『そうか、今はあの娘が……』



 おぉ、良かった。

 やっぱり話せばなんとかなるもんだな。



「そうなんです。なので自分は帰りた……」


『尻尾を出したな盗人よ!!!』


「え?」



 あれあれ?

 空気変わったんですけど?



『アナスタシア様が魔王? あんな小娘に、魔王が務まるわけなかろう!』


「え、いやいや、でも」


『仮に魔王を継いだとしても、お飾りだけの存在だ。我ら魔王軍を導くための強い意志など持っておるはずがなかろう!』


「……」



 先代の四天王の声が頭にキンキン響く。



『我らはアナスタシア様についても知っておる。優しいだけのただの小娘ではないか!』


『貴様、さては純真なアナスタシア様を騙して傀儡かいらいにするつもりか?』


『魔王軍は子供のおもちゃではないぞ!』


『貴様が本当のことを言っておったとしても、魔王軍を私物化しようとする盗人であろう?』


「……」



 はぁ。


 何を言ってるんだコイツらは。


 俺がアナスタシア様を騙してる盗人?

 アナスタシア様を傀儡かいらいにしようとしてる?


 全然違う。


 むしろ俺は振り回されて苦労している側なんだが?



『図星か? だんまりじゃないか』


『やれやれ、我々の時代ならばこんな軟弱な奴は殴って矯正きょうせいしてやったんだがな』


『昔から力のないものは、すぐに口から出まかせを言う。こいつもそのたぐいであろう』


「……」



 なぜ、事情を何も知らない先代四天王たちから、こんなに好き放題言われなきゃいけないんだ。


 考えてみれば、俺が前世の記憶を取り戻してから色々とひどくないか?


 俺はただ死なないようにと立ち回っていただけなのに。


 勝手に護衛部隊にされたり、補佐役にされたりして、何一つ思い通りにいってないんだぜ?



『まぁ良いではないか。ここで我らが始末すれば、魔王軍のゴミがひとつ減るというもの』


『はっはっはっは。ゴミ掃除か。それはいい』


「……」



 しかもこの先代の四天王たちは、性格が終わっとる。


 身勝手で傲慢ごうまんな、会社員時代のクソ上司を彷彿ほうふつさせるうっとおしさだ。



『本当にあの小娘の補佐役だったとしても、こやつが死んだことを知れば目が覚めるだろう』


『ある意味、魔王教育だのう。はっはっは!』



 はぁ?


 俺の死を利用して教育?


 何言ってるんだコイツら。


 先代の魔王様が亡くなって心を痛めていたアナスタシア様に、次は俺の死を突きつけるってか?


 こんな俺だが補佐役に任命されるくらいには、信用してもらっているんだ。


 心優しいアナスタシア様に、そんなこくな事できるわけねーだろ!

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