第26話 歴戦の祠

 ──歴戦のほこら


 ゲーム中にプレイヤーがこのダンジョンの情報を得てから向かっても、もう遅いんだよな。


 というのも、このダンジョンは四天王の強化イベントに連動して出現するものなんだ。


 魔王軍四天王の4人。

 ウルガイン、オルモント、イシュリナ、エリー。


 ゲームではこの4名を好きな順番で倒すことが可能だ。

 ただし、2人倒した段階でイベントが発生する。


 残った四天王の2人が歴戦のほこらおもむき、強化装備を獲得してくるんだ。


 当初はプレイヤーを舐めていた四天王だったが、2人倒されたことで焦り、力を求めたという流れだったはず。


 まぁゲーム的に考えれば、2人倒した時点でプレイヤーは充分に強いので、残った2名の難易度を上げたかったのだろう。


 しかしこの強化四天王が、またまた強いんだよなぁ。


 初めて『エンクエ』をプレイしていたデータでは、四天王最弱のオルモントと3番手のエリーを先に倒しちゃったもんだから、泣いた泣いた。


 ただでさえ強いイシュリナとウルガインが、めっちゃ強くなってなぁ。


 それはもう理不尽なくらい。


 流石にやり込んだ後の俺ならば、まだ対応は可能だ。

 でも、できれば戦いたくない。


 そんな危険なアイテムが眠っている歴戦のほこらだが、今なら間に合うんじゃないかって思ったわけだ。


 この間ウルガインに襲われたように、今後四天王に襲われる可能性もなくはない。

 ならば強化装備はこっちで握っておいた方がいいだろう。


 それにだ。


 最悪の事態で人間国との戦争になってしまっても、切り札として強化四天王を差し向けられれば、俺の命のタイマーが少しは伸びるかもしれん。


 完璧だ。完璧な立ち回りじゃないか。


 全ては俺が死なないために!


 よぉし、そうと決まれば善は急げだ!


 やってやるぜ、歴戦のほこら







 と思っていた時期が俺にもありました。


 現在、歴戦の祠の最奥部。


 そこに4人のゾンビがいるんだ。


 いや、ゾンビは失礼か。

 なんて言えばいいかな。


 動く死体とでもしておくか。


 で、何の死体かというと。

 先代の四天王だ。


 レオンとして魔王軍に所属したばかりの頃は、彼らが四天王として魔王軍を率いていたのを覚えている。


 残念ながら災害獣との戦いで命を落としたと聞いていたが、このような形でお目にかかるとは思っていなかった。


 ってかこの世界の死体って消えるはずなんだけど。

 あの人たちどうしてここにいるんだ?


 まぁそれはいいか。

 いるんだから、しょうがない。


 ただ、これ絶対やばいと思うんだ。


 強化装備は代々受け継がれているものだったはず。

 それを四天王とは関係のない部外者の俺が取りに来たらどうなるか。


 ……襲ってくるんじゃね?


 そんな気配がヒシヒシと伝わってくる。


 あぁ、やっちまったぁ。

 ゲームではもぬけの殻だったから油断した。

 きっとプレイヤーの見ていないところで、四天王の武器継承が行われたって筋書きだったんだろう。


 そんなん知らんやーん!


 どうする?

 このまま諦めて帰るか?


 うーん。

 四天王の強化装備は抑えておきたい。


 ……先代の四天王って強いんだろうか?


 設定資料にはそこまで詳しいことは書かれていなかったんだよな。


 ちょっと戦ってみて、やばそうだったら逃げる。

 これでどうだろうか。


 魔神のほこらでかなりレベルアップしたはずだし、そう酷いことにはならないと思うんだ。


 さすがに、4人全員が襲ってくるなんて鬼畜な展開も無いだろうし。


 うんうん。大丈夫。

 やばくなったら逃げる。これを徹底すれば問題ないはずだ。



 意を決した俺は通路を進み、先代四天王が揃っている大部屋の中へと入っていった。


 体育館くらいの大きさがある部屋の中央。

 そこに立っていた先代四天王が、俺の侵入を察知して振り向く。



『何者だ』



 頭の中に男性とも女性ともいえない独特な声が響いた。



「魔王の補佐役のレオンです」


『補佐役? 聞いたことのない役職だな。して、その補佐役が何用か?』



 どうしようか。素直に言うべきか否か。

 いや、ここは真正面からぶつかってみよう。


 力こそ全ての魔王軍は、細かい駆け引きが苦手な傾向にあるからな。

 周りくどいことをするよりも良い結果が得られるはず。



「漆黒の剣、野獣の小手、星の宝珠、古代樹の弓をいただきに来ました」



 四天王の強化装備の名を語る。


 すると、脳内に響いていた声のトーンが一段下がった。



『どこでその武具の名を知った──』



 やば! 殺気が!


 俺はすばやく後ろに飛ぶと、先ほどまでいた地面に数本の矢が突き刺さった。


 誰だ! 直球勝負が良いって言ったやつは!

 めっちゃ攻撃してきたやん!


 許すまじ、さっきの俺!



『貴様を生かして返すわけにはいかなくなった』



 そんな言葉が聞こえてきたかと思うと、入り口が土壁によって塞がれてしまった。


 はぁぁぁぁ!?

 逃げ道を塞ぐとかありかよ!?


 やべぇ、どうしよう!

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