第21話 出世と冷遇

 どうしてこうなった……。


 『エンシェントクエスト』の世界に転生したのはまだいい。


 転生先がやられ役の魔王軍側だってのも、百歩譲ってヨシとしよう。


 しかしだな。


 俺が前世の記憶を思い出した途端に、アナスタシア様を暗殺者から守る機会が訪れ、そのまま彼女の護衛部隊に昇格させられ、トドメは四天王と同等の立場の補佐役ぅ?


 意味がわかりません。


 俺、何にも大したことしてませんが?


 野望もへったくれも、何も持っていないんです。

 それなのに、気がついたら補佐役ですよ。


 …………。



 誰か助けてぇ!

 この世界の奴らの無茶振りやばいんだけどぉ!


 ただ普通に生きたいだけの一般人を、捕まえて、踊らせて、楽しいのかぁ!


 とまぁ、内心でそんなことをなげきながら、俺はアナスタシア様の執務室へと向かっていた。



 魔王城内の廊下を歩いていると、アナスタシア様が魔王になってから、さらに変わったように思う。


 中世のよくあるイメージのお城そのものだった魔王城。

 それが今では花瓶に花が生けられていたり、燭台が可愛らしい動物を模したものに変わっていたりと、細かいところが華やかになっているんだ。


 女性の力恐るべし!


 ゲームではいかつくてグログロした、ラストダンジョンに相応しいお城だったのに、主人が変わるとこうも変わるのか。


 今では廊下を歩いているだけなのにいい匂いがします。


 威厳のある魔王城?

 そいつはもう死んだ。忘れるんだ。



 廊下を進むと、アナスタシア様の執務室が見えてきた。

 扉の前には鎧を着た護衛部隊が門番として立っている。


 扉の前に俺が到着すると、まるで通せんぼするかのように、門番が立ちはだかった。



「何の用だ?」


「アナスタシア様に会いに来ました」



 俺がそう答えると、門番の2人は数秒顔を見合わせてから、ガシャンと音を立てて足踏みをした。


 え? これって威嚇する時にする動きじゃね?



「そのような連絡は聞いていない」



 そう言い切って、扉の前を塞いだまま動こうとしない護衛たち。



「え、いやいや、自分はあの補佐や「聞いておりません」……なんです、けど」



 えぇ!?

 余裕で俺の言葉を遮ってくるんですが!?


 俺、今は魔王軍でも偉い人のはずなんだけど!


 というか……。


 あんたら元同僚でしょうがー!

 態度がめっちゃ冷たいじゃないですか!


 たしかにアポ無しで来た俺が悪いのかもしれない。

 でも四天王と同じランクなんだから、ちょっと融通きかせてくれもいいじゃん!


 こいつらの前で盛大に泣いてやろうか!?


 大の大人が、扉の前で泣きじゃくる姿に困惑させてやろうか!?


 微動だにしない門番相手に俺がぐぬぬをやっていると、扉の向こう側から声が聞こえてきた。



『大きな音が鳴りましたが、何かありましたか?』



 この可憐な声はアナスタシア様のものだ。


 彼女の声に門番が素早く反応する。



「失礼いたしました。扉の前に蚊がいたものですから」


「ちょ! 蚊ってひどいですよ!? アナスタシア様ー! 俺です! レオンですー!」


『あら、レオンさんが来られたのですね。どうぞお通しください』



 あったけぇ。アナスタシア様あったけぇ。


 その反面この門番はなんなんだ。

 俺のこと嫌いすぎないか?


 実力主義の魔王軍なら、俺の実力もちょっとは認めてくれてもいいと思うんだが。


 ……あ、ひょっとして、壇上で煽ったのが効いているのか!?


 そうなのか!?



「っち、さっさと通れ」


「はいはい、どうも」



 今もめっちゃ舌打ちされたし。

 やっぱり泣いてやろうか?



 冷たい門番を突破し、俺はアナスタシア様の執務室に入った。


 魔王城は華やかになりつつあるが、執務室は逆に普通だ。


 執務机と応接セットが置かれていて、周囲の壁には資料を収納するための棚が配置されている。


 机の端に置かれた、小さな花瓶と花が唯一の女性らしい小物だな。



 アナスタシア様とほぼ同時に応接セットに座ると、彼女が早速尋ねてきた。



「今日はどうされたんですか?」


「補佐役について少し話をしておきたくて」

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