第20話 四天王会議

 ──魔王軍の会議室



 バンッと音が鳴り、乱暴に扉が開く。


 会議室の中に入ってきたのは、四天王の1人であるオルモント。

 レオンが内心でキザと呼んでいた人物だ。



「ふん。揃っているようだな」



 オルモントは手近な椅子を引くと乱暴に腰掛け、すでに集まっているメンバーを見た。


 彼の正面に座っているのは、同じ四天王である魔法使いのエリー。

 魔女のとんがり帽子を被った幼い幼女だ。


 色白で綺麗なストレートの金髪と、愛らしい青の瞳を持つ彼女は、誰が見ても将来美人になると予想するだろう。

 会議室の机と椅子が背丈に合っていないため、特注のお子様用椅子に座って足をぶらぶらとさせていた。


 将来が楽しみな彼女であるが、残念なことにこの小さな見た目が成長した姿だったりする。


 そんなエリーがオルモントを見て口を開いた。



「もう少しで帰るところじゃったぞオルモントよ。無駄な時間は使いたくないんじゃ、今日も手短にの」


「それは俺も同じだ」


 エリーの言葉を軽く受け流し、オルモントはもう1人へと目を向ける。


 席は空いているのにあえて座らず、会議室の壁にもたれかかっているダークエルフの女性。


 長いボリュームのある銀髪と褐色の肌が印象的だ。

 エリーとは対照的に成熟した大人の魅力にあふれており、豊満な体つきを見せている。


 四天王の1人。射手、兼暗殺者のイシュリナ。

 

 彼女はこの場に興味がないかのように、目を瞑っていた。



「では四天王会議を始める。ちなみにウルガインは治療院にいるから今回はパスだ」


「あのバカのことじゃから、問題なかろう。いても頭を使うことは苦手じゃろうからな」



 そう言って誰もいない席を見つめたエリー。


 本来ならば、そこがウルガインの定位置なのだろう。



「で、今回招集をかけたのは、アナスタシア様の演説の件じゃろう?」


「そうだ。それと補佐役についてだ」



 補佐役という言葉が出た瞬間、これまで目を閉じていたイシュリナがピクリと反応した。


 切れ長の目を開き、整った顔立ちを見せたイシュリナだが、その表情は非常に険しい。



「……アタシは補佐役を認めていない」


「ほう。イシュリナ、どうしてじゃ?」


「ただの騎士風情が、父親を亡くした姫様に取り入っただけだ。アタシの知らないところでな」



 冷たく言い放ったイシュリナ。

 その様子を見たオルモントは手を叩いて笑う。



「はっはっは。そういえば、ヴァルガス様の部屋の片付けは奴に一任したんだったな。そこでアナスタシア様に近づいたのか」


「なんだとっ! あの補佐役は貴様の差金か!」


「あくまでも俺は仕事を命じただけだ。それを利用してアナスタシア様に近づいたのは奴の独断だ」


「くっ、あんなどこの馬の骨ともわからぬ輩が……」


「ふーむ。なるほどのぉ」



 不機嫌なイシュリナと、スカした態度のオルモント。そして考える仕草をしているエリー。



「あやつの実力はどうじゃ? あの筋肉バカを倒したのは素直にすごいと思うんじゃが」


「っふ、ただの暗黒騎士にしてはよく動いていたとは思う。だがその程度だろう」


「……冷静さを欠いた狼男のミスよ。アイツが強いわけじゃない」



 オルモントとイシュリナの強気な発言を聞いて、エリーはニヤリと笑いながら尋ねた。  



「ほうほう。ならばどうする? 我ら3人で補佐役をとっちめてやるか?」


「ふん、3人? 俺なら1人でも勝てるがな」


「過剰な自信で身を滅ぼさないといいけどねぇ」


「なんだと! 奴は所詮ただの暗黒騎士だ。俺より強いはずがないだろう!」



 イシュリナにあおられ、ドンと大きく机を叩き立ち上がるオルモント。


 それをジト目で眺めていたエリーは、やれやれと首を振る。



「補佐役に関してはウルガインにも聞いた方がよかろう。あやつがリベンジを考えているならば、我々が手を出すと話がややこしくなるぞい」


「それもそうだな」


「アタシは負け犬のプライドなんか知ったことじゃないわ」


「やれやれ。イシュリナはアナスタシア様が関わると過激派になるからのぉ」



 自信過剰なオルモントと、姫様過激派のイシュリナ。この二人を相手にしてエリーはため息をつく。



「そもそも、アナスタシア様の考えにはどう応えるつもりじゃ? ちなみにわっちのところは、放置するつもりじゃ。ハッキリ言って興味がないのでな」


「人間国との和平だったか。俺たち暗黒騎士は一応、アナスタシア様の考えに合わせるつもりだ。まぁ夢物語だとは思うがな」


「……アタシたちは応えるつもりはないわ。その考えも補佐役が誘導した可能性がある」


「そうかそうか。見事に意見が違ったのぅ」



 彼ら四天王はそれぞれの兵士の代表でもある。


 オルモントは騎士。

 イシュリナは射手と暗殺者。

 エリーは魔法使い。


 ちなみにウルガインは戦士の代表である。


 魔王軍は強いものが上に立つという野蛮な組織だ。

 それゆえに、各四天王の考えが魔王軍の動きに強く影響を与える。

 


「ならば今まで通り、各自好きにやらせてもらうってことでどうじゃ?」


「あぁ、それでいい」


「アタシも問題ない」


「ならば今回の会議は以上じゃな、ではの」



 エリーが締めの宣言すると、彼女とイシュリナは素早く会議室から去っていった。


 会議とは言ったものの、実際は各四天王が自分の意見を言うだけの集まりだ。

 他の四天王の考えも一応聞いといてやるかという程度のもの。非常に簡素である。


 1人残ったオルモント。

 彼は誰もいなくなった会議室で静かにつぶいた。



「人間国との和平? バカバカしい」

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