第19話 補佐役

 おかしい。

 異常事態だ。


 血気盛んな魔王軍をあおっても、全然襲ってこないのですが?


 これじゃ俺の予定が……好感度調整が完遂しないじゃないか!



 静まり返った魔王軍を見て内心で焦る俺。


 煽りが弱いってことはないと思うんだ。

 敵意の視線っていうのかな、そういうのはビシビシ感じてる。


 でも誰も動こうとしない。


 なんでやねーん!


 どうしよっか。もういっちょ煽ってみるか?

 なんて言えば食いついてくれるだろうか。


 うーん。



「……あの。レオンさん。少しよろしいですか?」


「え? あ、は、はいっ!」



 しまった。

 アナスタシア様の存在を忘れていた。



「私からも皆さんに伝えたいことがあるのですが……」


「す、すみません! ささ、どうぞこちらへ!」



 反射的にアナスタシア様に場所を譲る。


 あ、やっちまった。

 もう少し煽って好感度を調整するはずだったんだが。


 まぁ仕方がない。


 それに、調子に乗って痛いことを言う奴認定はされたはずだ。


 俺は壇上の一番いい場所をアナスタシア様に明け渡し、彼女から一歩位引いた位置に立った。



「もう彼に挑む者はおりませんね?」



 アナスタシア様が魔王軍全体に向かって問いかけると、ガヤガヤとした声は聞こえてくる。


 だが、そこまで止まりだ。

 大きく声を上げる者はいない。


 マジでどうなってんの!?

 かかってこいよ!

 俺はいつでもやられる準備ができてるんだってのに!


 どよめくだけで動きのない魔王軍。


 それをしばらく見つめていたアナスタシア様は満足したようにうなずいた。



「では、私の方針に納得していない方はいますか?」



 アナスタシア様の方針って……あぁ、平和を目指すってやつか。

 納得していない奴なんてまだまだいると思うんだけどなぁ。


 ウルガインなんて氷山の一角じゃない?

 過激派の急先鋒ではあっただろうけども。


 この方針自体は俺にとってはいいものなんだよなぁ。

 ここは反対者が出ないことを祈る。



 魔王軍からはどよめきの声が聞こえるが、その声が膨らむようなことはなく。


 結果、アナスタシア様の元に届くような反対の声は聞こえない。



「意を唱える者はいないということでよろしいですね」



 消極的な賛成ってことだろうか。それとも一旦様子見か?

 なんにせよ、今この場でアナスタシア様に楯突たてつく奴はいなさそうだ。



「それでは、私の魔王としての方針は以上となります。それから、もう一つ伝えることがあります」



 んん?


 なんだろう。

 さすがに人間国との和平以上のビッグな内容は無いと思うけども……。



「私の求める平和の実現は、言葉にするのは簡単ですが実現するのはとても難しいでしょう」



 それはそう。

 現在進行形で人間国とはいがみ合っているんだ。

 いきなり仲良くなんてできるはずがない。



「なので、今回新たに四天王と同等の立場の補佐役を作ることにしました」



 へ!?

 四天王と同等!?


 それって魔王を除いた、最上位やん! 



「この補佐役には平和を実現するための力添えをお願いするつもりです」


 

 ヤバっ、俺の命ってもしかしたら、そいつ次第かもしれん。


 新たな役職の追加って、おいおい。

 この姫さんやってくれる!


 こんなのもう俺の知ってる『エンクエ』じゃないぞ!?


 マジかマジか。



 俺が困惑して固まっていると、目の前のアナスタシア様が振り返って笑顔を見せてくれた。


 はい可愛い。

 この笑顔、可愛過ぎ。


 そんな可憐に微笑む彼女は言った。



「ということで、レオンさん。補佐役の仕事お願いしますね」


「は、はいっ……へ?」



 え? この姫様、今なんて言った?

 つい反射的に返事してしまったが、あれあれ?


 俺が補佐役?


 ……。


 えええぇぇ!?


 そんな話、聞いてねぇぇぇぇぇ!


 今うっかり、はいって言っちゃったけども!



 俺の理解が追いついていない中、嬉しそうにうなずいたアナスタシア様は再び魔王軍へと向き直った。



「今この瞬間より、暗黒騎士レオンは魔王アナスタシアの補佐役となりました。皆さんご協力をお願いします」



 こんなの護衛隊長どころの話じゃないぞ!


 補佐役ぅ!? 四天王と同等ぅ!?


 なんで、なんでこんなことのなってんのぉぉぉ!?






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