第18話 勝者の立ち回り

 ウルガインが倒れたことで、俺の肩の力はスッと抜けた。


 あぁ怖かったぁ。


 ビジュアルも大概たいがいだったが、ワンミスも許されないというのは精神衛生上よくない。とてもよくない。


 俺がホッとしたのも束の間。


 すぐに大歓声が聞こえてきた。



「うおおおおおおおおおお!」

「あいつやりやがったぁぁぁぁぁ!」

「マジか! 四天王倒すとかマジか!」



 ……はっ!


 これだけのギャラリーがいるところで、ウルガインをボコったんだった!


 え、いやいや。それって普通にマズくね?

 俺ただの暗黒騎士なんだけど、これってやっちゃってよかった?



 …………。



 ま、まぁ。ア、アナスタシア様は、ま、守れたしぃ……。



 俺の行いが正しいと再確認するために、アナスタシア様の様子を伺う。


 すると彼女は、手を胸の前で組み、祈るような姿勢で俺を見ていた。


 ぬあぁ! 可愛い!


 あぁ違う違う。そうじゃない。

 いや、可愛いのは間違いない。


 そうじゃなくてだな。

 無事に彼女のことは守れた。それはいい!


 でもこれ、大事にならないか?


 アナスタシア様の目から、ものすごい信頼のオーラが出ている気がする。


 やばいぞ。


 これはひょっとしたら、行き過ぎた信頼の感情から護衛隊長に任命される可能性が出てきたんじゃないか?


 頼りになるんでお願いしますなんて言われて……。



 するとどうなるか。


 簡単だ。


 俺よりエリートな人たちを、使う立場になってしまう。


 この流れはダメだ!


 危険な気配がする。


 そもそも俺の目的は立身出世じゃない。

 早々に死ななくて済む未来が欲しいだけなんだ。


 護衛隊長になんてなったら、胃痛で死ぬ可能性も浮上してくるじゃないか。


 自分よりキャリアも年齢も上の人たちを顎で使えるほど、俺のメンタルは強くない。


 ……どうしよう。



 そんなことを考えていると、気がついたら目の前にアナスタシア様がいた。



「あの……レオンさん」


「は、はい!」



 え、近!

 アナスタシア様めっちゃ近い!



「また、貴方に助けられましたね。ありがとうございます」


「……そ、それが仕事ですから」



 やばいぞ。

 距離の近さイコール信頼の証だこれ。


 先代の魔王様が生きてたら、俺は今死んでいただろうな。それくらい近い。


 アナスタシア様を守れたのはいいが、これは早急に好感度調節が必要だと思われる。



 俺はアナスタシア様から距離を取ると、壇上の一番前。魔王軍を一望できる場所へと移動した。



 うひゃぁ。めっちゃ見られてるんですけど。

 あっちもこっちも、全部魔王軍かよ。


 あぁ緊張する。

 でも俺の心の平穏のためにも、今やるしかないんだよな。



 俺は内心の不安を悟られないように声を上げた。



「さて。もう相手はいないのですか? こんな狼男程度では興醒きょうざめなんですがね?」



 肩をすくめオーバーな身振りを交えて、できるだけ偉そうに魔王軍を見下ろして言ってやった。


 今の俺の姿を見た者はめっちゃ不遜ふそんな野郎って思うだろう。


 狙ってやってますからね!

 調子に乗った糞騎士をやらせてもらってます!


 高圧的な態度をモロに出して魔王軍から反感を買う作戦。

 こうすることで、アナスタシア様から得た好感度も下がるって寸法だ。


 今のアナスタシア様には俺はこう見えているはずだ。


 ウルガインは倒したけど、すげー調子に乗るやん。こいつぜってぇやべぇってな。


 しかもだ。


 魔王軍からはヘイトを買っている。

 ということは、俺に腹を立てたやつが出てきて挑んでくるはずだ。


 そいつには負ければいい。


 アナスタシア様に矛先が向かないなら、俺はあっさり倒されますよ?

 そうすれば完全解決だ。素晴らしい。


 さぁ! 挑戦者よ現れなさい!


 さぁ!


 ……。


 …………。



 俺の挑発のような言葉を聞いた魔王軍は一歩も動こうとしない。



「お、臆病者しかいないんですかね?」



 おいおい。血の気の多い魔王軍が何してるのさ!

 ここに調子に乗った騎士がいますよ!


 おーい!

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