第16話 レオン VS 四天王ウルガイン2

 四天王すなわちヤバいやつと思っていた時期がありました。


 いやぁ、驚きましたねぇ。

 まさかゲームと全く同じ攻撃パターンだなんてねぇ。


 さっきまでの慌てた心はどこへやら。

 俺は極めて落ち着いて……、いや、むしろちょっと興奮してるかもしれない。



「くそっ、偶然防げただけでいい気になるなよ!」



 俺の完璧な守りを見て、悪態をつくウルガイン。


 偶然? ふふふ偶然ねぇ?


 兜の下でニヤニヤが止まらない。

 あぁ俺、多分キモイ顔をしてるんだろうなぁ。


 いや、だってねぇ。

 俺がどっぷりやり込んだゲームと同じ動きしてるんだもん。

 そりゃ笑っちゃうってもんよ?


 再びウルガインが突っ込んでくるが、俺は冷静に対処する。


 左右の爪による連撃、素早い身のこなしを利用した死角からの一撃、凄まじい脚力を使った蹴り。


 知ってる知ってる。それ全部知ってる。


 俺は全ての攻撃を完璧に見切り、回避と防御を織り交ぜて対処してみせた。



「あの攻撃を止めたぁ!?」

「おい! あの騎士、なんか強くないか!?」

「そんな……ウルガイン様とまともに戦えているだと?」



 観戦者と化した魔王軍の兵士たちの声が、攻防のたびに聞こえてくる。


 目立っちまってるけど、これは大丈夫だよな?

 おかしなスキルは使ってないから、問題ないはずなんだが。


 今回の相手がウルガインで良かった。

 こいつは脳筋なこともあって搦手からめてが全くない。

 それゆえに、純粋な立ち回りだけで対処できているんだ。


 これが他の四天王だったなら、スキルで切り抜けることが必要な技の一つや二つはある。

 それが無いだけで、このウルガイン戦のなんとありがたいことか。



「ちくしょう! どうなってやがる!」



 ウルガインが苛立いらだったような声を上げる。


 ふふふ。どうなってるんでしょうかねぇ。

 やばい、ちょっと気持ちよくなってきた。


 熟知している攻撃をたださばいているだけだってのに、何かすごいことをやってる感がある。


 今もほら、ウルガイン的には不意をついた攻撃なんだろうが、俺にとっては腐るほど見た攻撃だ。


 迫真のフェイントは華麗にスルーし、急に放たれた裏拳を避ける。


 前世で何回この攻撃にひっかかったと思っているんだ?

 100回……いや、1000回は食らったはず。


 その度に頭を抱えて涙した俺の経験を舐めるなよ!



「うおおおお、今のを見切った!?」

「あいつやるじゃねぇか」

「ふん。まだウルガイン様が優勢だろう」



 外野は楽しそうに騒いでいるが、これ絶対見せ物になってるよな。

 流石は血の気の多い魔王軍だ。間に入って止めようとするヤツが一人もいない。


 まぁ止めてもらわなくても平気ですけどね!


 飛び込んできたウルガインの攻撃を軽く交わしながらほくそ笑む。


 はいはい、わかってますよ。

 次は足払いからの蹴り2連でしょ。


 飛び上がった俺の足元をウルガインの足が豪速で通過する。


 次の蹴りはこの辺りに来るは……なっ!

 ちょちょちょ!


 蹴りじゃないだと!?


 俺は突然目の前に現れたウルガインの右爪を、脊髄反射で避けた。


 こんな攻撃パターン知らないんだが!?


 いやいや、落ち着け。

 次は何が来る!?

 

 右爪のあとに続く攻撃は左爪か左足からの蹴りの2パターンしかない。


 これはウルガインの左半身を注視していれば見切るのは簡単だ。



 しかし……。



 タックルだとぉぉぉ!?


 ウルガインは右手を体の内側に引っ込め、巨大な肩を使って俺にぶつかってきた。


 知らん知らん! こんなパターン知らん!


 俺は咄嗟とっさに両腕をクロスしてガードする。



「ぐっはぁ」


 いてぇぇぇぇぇ!

 全く予想外の攻撃だったために、中途半端な防御しかできなかった。 



「ふふん。どうだぁ?」



 俺の反応を見たウルガインが嬉しそうに口元を歪ませた。



「ちょこまかと避けてばかりいたが、もう限界じゃねぇか?」



 限界? 違う違う!

 お前が変な動きをするから動揺しただけだっての!


 ちょっと待ってくれよ。

 ここは『エンシェントクエスト』の世界だろ?

 さっきまで攻撃パターンもゲームと全く同じだったのに……。


 ウルガインが距離を詰めて攻撃をしてくる。

 その動作を見た俺は、ゲームのパターンに当てはめて動こうとした。


 ……っぶねぇぇ!

 右手、左手、両手かと思ったら、途中で蹴りに変化しやがった!


 ギリギリで防げてはいる、だが先ほどまでの余裕は全くない。

 ぶっちゃけ俺の超反応だけが頼りな状態だ。


 くそぅ、どうなっているんだ。


 魔王様の件といい、ウルガインの攻撃といい、ゲーム世界のはずなのに、展開が全然違うのですが!

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