第15話 レオン VS 四天王ウルガイン1

「よく吠えますね。遠吠えは勝ってからやってもらえますか?」


「ぬわぁにぃぃぃぃぃぃ!」



 ……あっ。


 やべぇ! やっちまった!

 うっかり内面の言葉が漏れてしまった!


 目の前にいる筋肉質のワーウルフが、目を血走らせ、歯を剥き出しにして怒りを表す。


 うわぁ。

 ウルガインのやつ、めっちゃキレてるよ。


 あいつの歯がギリギリ音を立てているのが、ここまで聞こえてるんだぜ?


 アナスタシア様のことは守りたい!

 でもこいつと戦うのは怖い!


 だけど、ここで俺が戦わないとアナスタシア様が……。

 うおおおおおお!


 俺は染み出す恐怖をねじ伏せながら、ウルガインと対峙する。



「雑魚い騎士が、ボコボコにしてやらぁ!」



 そう言った瞬間、ウルガインが飛びかかってきた。


 はやっ!

 あっという間に間合いを詰めて来たんだが!


 キィン!


 繰り出された爪の一撃を剣で弾く。


 こいつやっぱ強ぇ。流石は四天王だ。

 自信があるのか強気でぶつかって来やがる。



「この程度で調子に乗るんじゃねぇぞ!」



 獣人種は俊敏しゅんびんで有名だ。

 たった一撃を防いだ程度じゃ止まってくれない。


 二度三度と振り下ろされる爪。

 それを剣でいなしていく。


 この時点で、他の護衛隊よりも持ち堪えてると思うんだが。

 ってか、やっぱりこいつ、パワーもスピードもあるからキツイぞ。


 速すぎて隙は見つからないし、押し返すだけの力もない。

 終わった。俺終了のお知らせです。



「オラオラオラオラァ! どうしたぁ!」


「くっ!」



 この脳筋、マジで素のステータス高すぎないか?

 自分の身を守ることでいっぱいいっぱいだ。


 強靭な肉体を持つ獣人族の頂点なのはわかるが、これは無理ゲーすぎる。


 アナスタシア様を守らないと、戦争が始まって俺の死が近づくと思ったんだが、これって戦争云々よりも、普通にウルガインに殺されんじゃね?


 マジかよ。ゲーム世界だって気づいてすぐ四天王戦で死亡?

 ぶっちゃけ理不尽なんですが!


 なんでこんな目にあうんだ。泣きたくなってきた。



「っち、やるじゃねぇか! テメェが護衛のリーダーだったか」


「え? いやいやいやいや、違いますよ!」



 全然違います。俺は護衛部隊で一番下っぱです。

 たしかに、他の部隊員よりかは耐えているけども。


 反射神経の差じゃないかな。ギリッギリで反応できちゃってるもん。



「なら、俺様も遠慮せずにやってやらぁ!」



 えぇ!? 俺、否定したじゃん!


 あ、やっべ、なんかさらに速くなったぞ。


 くそっ、剣での迎撃が間に合わん!



「くははははははははははは!!!」



 上下左右、さまざまな角度から繰り出される攻撃が、俺の鎧をじわじわと削り取っていく。



「どうしたぁ!? もう終わりかぁ!?」



 くぅ。マジで困った。


 一応この状況をしのぐ方法はあるにはある。


 先代の魔王様が勘付いていたように、俺は普通の暗黒騎士が習得していないようなスキルを色々と持っている。


 とはいえ、そんなスキルを駆使しても、できるのは一時凌しのぎ程度。

 ウルガインを倒せるかと聞かれたら、無理と答えるだろう。


 しかもだ。


 暗黒騎士には使えないはずのスキルをガンガン使っちまったら悪目立ちしてしまう。

 大半の魔王軍が集まっている中でそんなことをしてみろ。

 俺は異端ですって喧伝けんでんしているようなものだ。


 そうするとどうなるか。


 そう、四天王の一人、エリーという研究馬鹿の魔法使いが俺をさらっていくだろう。

 それ即ちTHE ENDな。


 なので俺は、一般的な暗黒騎士としてこいつをどうにかするしかないんだが……。



 あれ?


 グダグダと考えながら戦っていたから気づかなかったが、なんか俺へのダメージ減ってないか?



「オラオラオラオラオラオラァ!!」



 相変わらずウルガインは威勢よく攻撃を繰り出しているが、俺の身体が勝手に反応してしのぎ切っている!?


 いや、まてまて、そんな馬鹿な話があるか。


 じゃあ、なんで…………あ! まさか!


 俺に向かって跳躍してきたウルガインが、右手の爪を振り下ろす。


 それを素早く弾いた俺は、なんとなくウルガインの左手に注目していた。


 すると、今度は警戒していた左手が俺の思い描いた軌跡で襲ってくる。


 やっぱりそうだ。じゃあ次は縦に一回転してからの……。



「グルルルルァァァ!」



 ドンピシャ! 両手の爪だ!



 ガキィン!



 完璧なタイミングでウルガインの爪を弾く。



 ふはは。そうかそうか。そういうことか!



 俺は喜びのあまり、兜の内側で思いっきり口角を上げた。



 こいつゲームと動きが全く同じじゃないか!

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