第12話 誓い
バタバタと、寝室にふさわしくない医療器具のようなものを片付けていく。
といっても素人目にはよくわからないので廊下に放り出すだけだがな。
ちょうどいい機会なので、片付けをしつつも色々と考えてみた。
今回1番の問題は魔王様の死だ。
本当にどうなってんの?
演出かもって疑う余地もなく死んじゃったんだけど。
おまけに、暗殺されるはずだったアナスタシア様が生き残って魔王を引き継ぐって。
そんなシナリオ知らん!
ワイ、そんな話知らんでー!
アナスタシア様が次期魔王に指名されていたが、その点についても心配しかない。
魔王には強さが求められるものだ。
もしアナスタシア様が誰もが納得する強さを持っていたなら、そもそも暗殺者に襲われても跳ね返せるってもんだ。
というかだな。
今思えば、俺がアナスタシア様を助けたことでシナリオの流れが変わった気がする。
ゲームと同じ展開になるなら、予測もしやすくて、延命するための立ち回りもできただろうに。
はぁ。どうしたものか。
むしろ今後の展開が読めなくなったことで、より不安が大きくなってしまった。
人間国、魔王軍、四天王、次期魔王……うぅん、困ったなぁ。
俺が今後について
彼女の美しく整った顔は、泣き腫らしたためか全体的に赤みを帯びていて、目元にはまだ涙が溜まっている。
それでもまだ可愛いんですが。
「……お父様。私、がんばります」
そう
数秒後。
目を開けた彼女は美しくも凛々しい表情に切り替わり……突然俺に話しかけてきた。
「レオンさん。お話したいことがあります」
「ふぇ!?」
ふぇって何だよ。カッコのつかない返事をしてしまった。
でも
俺、めっちゃ掃除してたからね?
話しかけられるって思ってなかったんだもん。
見惚れてぼーっとしていたわけじゃないぞ!
俺の情けない返事とは裏腹に、彼女はスッと真っ直ぐな視線を俺に向けてくれている。
やべぇ、なんかドキドキしてきたんだが。
「私はお父様から託された魔王を継ごうと思ってます」
「は、はい」
魔王を継ぐ!?
それマジか。
彼女の真剣身を帯びた目を見て理解した。
……マジなんだろうな。
可愛いだけのアナスタシア様しか知らなかった、こんなに真剣な彼女は初めてだ。
「簡単なことではないのはわかっています。きっと苦労するであろうことも」
あの魔王様の次だもんな。
たぶん誰であってもキツイと思う。
「ですが、私には私なりに魔王軍を思う心があります。その心に従い、魔王軍を導いて行きます」
「はい……」
すごいな。これが魔王様の娘か。
貫禄があるというか、凄みがあるというか。
何かこう一本の芯が通った、信念のようなものを感じる。
彼女の真っ直ぐな気持ちが、ヒシヒシと伝わってきた。
きっとこれがアナスタシア様の覚悟であり、魔王としての器なんだろう。
「そこでレオンさんには、お願いがあります」
スッと一歩近づいてくるアナスタシア様。
え!? お願い!?
この雰囲気で真正面からのお願い!?
え、なになに、怖い!
「まだ未熟な私ですが、レオンさんの力を貸してもらえないでしょうか?」
あーー! 力ね!
なるほどなるほど。
そんなのモチのロンでお貸ししますよ!
そういうことなら簡単だ。
こんな真面目な雰囲気の時、するべき騎士の作法がある。
たしか、こうやって剣を眼前に掲げて……。
「わ、我が剣に、ちか、誓って!」
「……」
ぬあぁ! これ剣じゃなかった!
掃除に使っていたモップやん!
しかもめっちゃ噛んだし……。
やっちまった。これじゃ格好がつかねぇぇぇ!
「……っぷ、あはははははははははっ」
俺が間抜けにモップ掲げて固まっていると、アナスタシア様がお腹を抱えて笑い出した。
「いやいや、えっとコレはですね……」
「ふふふっ。いいんです、レオンさん。むしろ、ありがとうございます」
「へ?」
そう言ったアナスタシア様の顔は、どこか張り詰めていたものが取れたような、柔らかい雰囲気になっていた。
「実は不安でいっぱいだったんです。でも、こうして笑ったおかげで、少しだけ元気が出ました」
「そ、それは、よかったです」
まるで俺の失敗が良い方に転がってくれたような。そんな言い方をされた。
可愛いすぎるんだが。おまけにめっちゃええ子。
かっこ悪いところを見せてしまったのに、なんかいい感じにフォローまでしてくれて……やばい。尊死するかもしれん。
「レオンさん。どうかこれからも、よろしくお願いしますね」
そう言ってアナスタシア様はとても可愛らしい笑みを見せてくれた。
俺の知っているシナリオとは全然違う。
本当にどうしようもないくらい違う。
けど、アナスタシア様の笑顔も見れたし、これはこれでいいのかもと思った。
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