第11話 残された者たち

 ありえんって、魔王様今死ぬとかありえんってぇ!


 シナリオはどうなってるんだ?

 『エンシェントクエスト』ではこんな展開は無いぞ?


 魔王様はアナスタシア様の死をキッカケにブチギレて人間国と戦争をするの。で、勇者にやられるの。


 そのはずなのにだ。



 人間国との戦争前に死んだ?

 アナスタシア様が次期魔王?


 はぁぁぁぁぁぁぁ!?



 意味がわからん。


 全然シナリオ通りじゃないんですが!?


 世界観とか登場人物とか、果ては強くなるためのシステムも同じなのに。


 シナリオだけ思いっきり違っているんですが!?



 魔王様の死で困惑する俺。


 そしてアナスタシア様たちは……。



「お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「くっ、まさかこのタイミングで!」



 アナスタシア様は泣き崩れ、ベッドに顔を突っ伏してしまっている。


 オルモントも飄々ひょうひょうとした表情が消え、この事態に狼狽うろたえているようだ。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


「と、とりあえず俺は戻るぞ!」



 泣き止む様子のないアナスタシア様を見たオルモントは、まるで逃げるように部屋から出ようとした。


 その瞬間、俺とオルモントの目が合う。


 今まで俺の存在に気づいていなかったのか、オルモントは俺を見た瞬間ニヤリと口角を上げた。



「ちょうどいい。もうヴァルガス・デモニウスはいないんだ。おまえがこの部屋を片付けておけ」


「え? は、はぁ」



 おいおい、部屋の片付けってマジか。


 侍女とかメイドさんっぽいのとかいっぱいるだろうに何故騎士の俺が片付けを!?


 しぶしぶ返事はしたものの、納得はいかんですよ。はい。


 暗黒騎士を統括する立場だからって、関係ない仕事を振られるのは筋違いなんですけどね?

 


「次期魔王のアナスタシア様がお使いになられるかはわからんが、そのさらに次の魔王が早期に現れるかもしれないだろう」


「アナスタシア様の次?」


「そうだ。そのためにもせいぜい綺麗に片付けておけ」



 何言ってんのこのキザ?

 百歩譲って片付けるのは構わない。


 だが、アナスタシア様の次ってなんだ?


 ひょっとしてまだ魔王の座を狙っているとかか?


 うわぁ、ちょっとキモいんだが。

 野心家すぎないか。


 さっきの片付けの命令も不躾ぶしつけだったし、なんなんだこいつは。


 ちょっと仕返しをしてやろう。



「次となると、四天王で一番戦闘力のあるウルガイン様ですかね」


「なっ!」


「獣人種の近接戦闘能力はずば抜けてますからね。魔王軍としては強い方が魔王になるんじゃないですか?」



 実際、魔王様は最強だったからな。

 次代も強さを求められるのは当然だろう。


 そしてこのオルモントは四天王最弱だが、ウルガインは四天王2位だ。


 この名前を出されて、どういう反応をするのか……。



「ふ、ふん! あの狼男は分かりやすく強いだけだ。真の強さという意味では程遠い」


「真の強さですか。では誰が四天王で一番強いのでしょう?」


「この俺に決まっているだろう!」



 それはない。アンタ四天王最弱だぞ。

 俺の知識では最強はイシュリナだったはずだ。



「へーそうなんですかー」


「ったく。これだから下っ端は。細かいことはいいから、さっさと部屋を片付けておけ!



 俺の気のない返事を聞いてイラだったのか、オルモントは捨て台詞を残して去っていった。


 ふふん。ざまぁみろだ。


 肩で風を切って出ていったオルモントに内心で舌を出しつつ、俺は魔王様の寝室を眺めた。


 部屋には見舞いの品やら治療の道具やらと、色々と散乱している状態だ。


 やれやれ。これを片付けるのが俺の仕事か。


 チラリと魔王様のベッドを見ると、まだベッドに伏せたままのアナスタシア様がいた。


 あの状態の子を引き剥がすのも可哀想だからな。うまく避けて片付けをしますかね。

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