第9話 見透かす者
こんな展開知らないんだが。
今俺がいるのは、魔王様の寝室だ。
俺の目の前にはベッドの上で寝ている魔王様がいる。
その呼吸は荒く、顔色も心なしか青白くなっているように思う。
なぜ俺が魔王様の寝室にいるのかというとだな。
魔王様が倒れたという知らせを受けて、アナスタシア様とその護衛部隊である俺たちは魔王様の元へと駆けつけたんだ。
幸いなことに魔王様の意識はあった。
魔王様曰く、ちょっとフラついただけとのことだったが、その顔色はとても悪い。
なので、ここは大事をとって、魔王様には休んでもらうことになったわけだ。
で、お休み中の魔王様の見張りとして、アナスタシア様護衛部隊から俺が選出されてしまった。
まぁ選ばれてしまったものは仕方がない。それはもういい。
問題は目の前の魔王様だ。
すんごく弱っているように見えるんですが?
いやいや、この人アレですよ。『エンシェントクエスト』の世界で最強の存在ですよ?
普通に戦ったらまず勝てないくらい超強いんだから。
ゲームのシナリオでは人類最強のゼクスカイザー将軍が自身の命を犠牲にして、やっとこさ魔王様の第1形態を突破するんだ。
その後、プレイヤーキャラである勇者が第2形態と第3形態を打ち破るわけだが、これがまたクソ強い。
ライトなゲームユーザーどころか大半のヘビーユーザーですら、魔王様の圧倒的な強さに涙したという。
まぁそれくらいヤバい奴。それがこの魔王様なんだ。
そんな魔王様が、今にも死にそうなくらい弱ってる?
そんなシナリオは知らん!
困惑。これ困惑です。
俺はどうすればいいんだ?
ここで魔王様をやっちまえばいいのだろうか?
そうすれば戦争が回避できてハッピーに……ならないだろうなぁ。
魔王軍って魔王様以外も血の気が多いんだもん。
じゃあどうすればいいのかってなるが、そんなもんわからーん!
俺の頭の中は混乱状態である。
そこに、魔王様から声がかかった。
「……おまえは、確か。レオンだったか」
「はっ」
一瞬アナスタシア様と同じで俺を見分けられるのかと思ったが、そういや兜をつけていなかったな。
魔王様は少しだけ調子が戻ったのだろうか、呼吸が安定しているように思う。
体調が良くなったのは素直に喜ばしい。
いくら凶悪な魔王様とはいえ、衰弱している姿を見て喜べるほど俺は極悪人じゃないからな。
しかし、そんな俺の優しい心とは裏腹に、当の魔王様はトンデモ発言をかましてきた。
「レオンよ、いつの間にそこまでの強さを身につけた?」
「!!!!」
え? ちょ、この人急に、な、何なんですか!?
「おまえが内包している力が、他の騎士と違うのはわかっている」
そんなのパッと見でわかるはずがないんだが……え?
思い当たる節は……ある。ゲームと同じかどうかを確かめる過程で、最近は色々なスキルを習得していたからな。
とはいえだ。
素直に答えるわけにもいかんだろう。
ここは知らんぷり一択だ。
「強さ? 何のことでしょう?」
「ふん。あくまでシラを切り通すか。面白い」
よし。避けれた。
というか、魔王様は深く追求するつもりがないようだった。
あぁ、怖かった。
脈絡なく人の強さに言及してくるなんて、この人デリカシー無いんですかね!?
「まぁよい。アナスタシアの眼は確かだったということだな」
「は、はぁ」
アナスタシア様? どういう意味だろうか?
さっぱりわからんが、この話題は俺にとってあまりいいものじゃない。
なので聞き返すことも
「ふふ、面白いではないか…… ゴホッ……ゴホッゴホッ」
「魔王様!!」
「よい……ゴホッゴホッ……すこし、横になる」
魔王様の容体は再び悪くなってしまった。
これ以上会話を続けることは難しそうだ。
ゴホゴホと咳き込む魔王様を見て、戦場で無双していた魔王様が嘘なんじゃないかと思えてくる。
さっきは、ここで仕留めればなんて考えていたが、流石に弱って苦しんでいる様子を見てしまうと、気が引けてしまうな。
調子の良し悪しを繰り返している魔王様。
その姿を見守っていると、今度は部屋の扉が開かれた。
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