第5話 魔王に謁見


 翌日。



 俺は魔王ヴァルガス・デモニウスの謁見えっけんの間に連れて来られてしまった。



 どうしてこうなったのか……いや、理由はわかってる。十中八九昨日の件だ。


 名乗っちゃったもんな。そりゃ呼び出されるってもんよ。


 昨日の件。アナスタシア様の暗殺を防いだわけだが、あれから兵舎に帰りついた俺は色々と考えていた。


 この世界が仮にゲーム世界だとしたら、俺の行いはシナリオ上死ぬはずだったアナスタシア様を助けてしまったんじゃないかと。


 だがよくよく考えてみたところ、それならそれでアリだなと思った。


 アナスタシア様を守れたことによって、魔王様のブチ切れは回避できたわけだ。

 ということは、戦争も起こることはなく。

 戦争が起こらないなら、俺がすぐに死ぬような事態にはならないはずだ。


 よかった。本当によかった。

 これで今世は短い生涯にならずに済むってもんだ。

 あとはこの、魔王様の呼び出しを無難に終わらせればいい。


 待ってろよ、俺の平穏生活!



 そんな事を考えながら片膝をつき頭をれていると、魔王様からお声がかかった。



「ふむ。面をあげよ」


「はっ!」



 俺が頭を上げると、謁見の間の様子がスッと目に飛び込んできた。


 まず最初に目につくのは魔王様だ。


 ぱっと見の年齢は人間で例えると5、60歳くらいだろうか。鋭い眼光と巨大な角が只者じゃない感をこれでもかと発している。


 たくさん装飾が施された服を着て、玉座に座っている姿は……いやいや、まんま『エンシェントクエスト』の魔王・第1形態なんですけど?

 親の顔よりも見た回数が多いんじゃなかろうか。


 そしてその隣には、昨日の夜にお会いしたアナスタシア様がいる。


 魔王様よりも少しだけ控えめだが、それでも豪華な装飾をあしらったドレス姿だ。う〜ん可愛い。


 そして魔王様とアナスタシア様の後方には、謁見の間全体を見張るかのように4人の男女が立っている。彼らは魔王軍の四天王だ。


 俺を含めて合計7人。


 俺以外は全員魔王軍のお偉いさんなので、1対6です。

 胃がやばいです。



「この者が、昨晩お前を助けたのか?」


「はい、お父様。私が暗殺者に襲われていたところを、身をていして守ってくださったレオンさんです」



 アナスタシア様がレオンと言った瞬間、魔王様の眉がピクリと反応した。


 こわいこわい! やめてくださいアナスタシア様!

 父親の前で、男の名前を出すのは慎重にしてください!


 絶対今の、ふーん、娘が名前を覚えているんだ? って思われたよ。あわわわわ。


 戦争は回避できた。だけど俺はここで死ぬかもしれん。魔王様にやられてプチっと潰される未来が見える。


 あぁ。もし俺の余生が擬人化していたら、今頃は全力で手を振って走り去っているのだろう。

 ふふ、願わくば来世はもう少し長生きしたいです。



「ふむ。レオンよ、よくぞ娘を守ってくれた。ワシからも礼を言おう」


「はっ! ありがたきお言葉です」



 さすがは魔王様! こんなところで変な嫉妬を見せたりしないんやでー!


 俺は命がギリギリで繋がったのを感じ取り、俺は安堵あんどの息を漏らす。


 大丈夫だ。俺は前世も今世も至って普通の生活を送ってきた。

 数多くの難題をなんかうまい感じに潜り抜けてきたという実績がある。



「見たところ暗黒騎士のようだが、オルモントのところの所属か?」


「はい。普段は街の治安維持部隊の任務についております」


「ふむ」



 オルモントというのは、魔王様たちの後ろに控えている四天王のうちの一人で、貴公子っぽい出立ちの騎士だ。騎士系の職を統括管理している人物でもある。


 ちなみにゲームではこいつが四天王最弱だ。キザったらしい仕草と、高圧的な態度から、好感度も最低だった気がする。


 他の四天王は戦士がウルガイン、暗殺者と射手はイシュリナ、魔法使いをエリーが担当している。


 狼男とダークエルフと魔女っ子、これに最弱のキザを加えた4人が魔王軍四天王だ。


 俺が四天王全員を視界に入れて、こんなところもゲームと同じなんだよなぁと考えていると、魔王様が口を開いた。



「ワシは今回の暗殺未遂について重く考えておる。そこでだ、アナスタシアを護衛するための専属部隊を作ろうかと思っている」


「は、はぁ」


「レオンよ、その部隊に所属してみるか?」

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