第4話 シナリオ崩壊
俺が驚いて固まっていると、遠くから何やら切羽詰まったような声が聞こえてきた。
「アナスタシア様! アナスタシア様ぁ!」
その声を聞いて俺はハッと我に帰った。
そうだ。魔王様の一人娘の名前はアナスタシアだったず。ということは目の前にいるのは間違いなく……。
やばい! 驚き過ぎてフリーズしていた!
ななな、なんか話しかけられていたよな!?
覚えてないんだが。何言われたか覚えてないんだがー!
相手は姫。
ここはそれっぽい感じを出して何とかやり過ごすしかない!
俺は内心の焦りが顔に出ないようにと、必死にすました顔をしつつ、アナスタシア様に応えた。
「姫がご無事で安心しました。では」
そう告げると、俺はすぐに方向転換して兵舎の方を向く。
これは言い切ってスタスタと歩き去る作戦だ。
色々と
ただしあまり使いすぎると変人扱いされてしまう
本当はこんな手は使いたくなかったが、今の俺は平静を保てる自信がない。あんなVIPの前だ。どんなポカをやらかすか、わかったモンじゃない。
それに彼女のことを探しに来た人たちが近づいているのが気配でわかる。
なのでここはその方達に任せてささっと撤退だ。
急げ! 後ろに向かって前進だぁ!
「待って下さい!」
俺が歩き出した瞬間、アナスタシア様から呼び止められてしまった。
くぅ、作戦失敗だ。
ワンチャン聞こえないフリをしようかと迷ったがやめた。
こんな美少女だが魔王軍の姫だからな。無視はやばい。
さっきの黒ずくめの爆発で耳が遠くなった説をゴリ押しても……80パーセント死ぬと思う。
仕方がないと思いつつも、失礼の無いように振り返る。
「……なんでしょうか」
「あの、お名前だけでも教えてもらえませんか?」
うわぁ。さっきは気が動転していてちゃんと聞き取れなかったが、声もめっちゃ可愛いい!
天が二物も三物も与えている!?
……はっ、危ない危ない。またまた思考が明後日の方向へ向かってしまい、内容が頭に入ってなかった。
確か名前を聞かれたよな。俺の名前に何の意味があるんだろうか?
いや、それよりもこの展開はありがたい。
ここで名乗ってしまえば、
俺は内面の
「レオン。暗黒騎士のレオンです。迎えが来たようなので自分はこれで」
「……レオンさん」
アナスタシア様の後方に、彼女を迎えに来たであろう人たちが見えた。
「いたぞ! アナスタシア様だ!」
「良かった。ご無事だぞ」
彼らに気づいたアナスタシア様も
これならもう帰っても大丈夫だろう。
俺は呼び止められないことを祈りつつ、一歩また一歩とその場を離れる。
よし! 今度こそ脱出成功だ。
若干の早足で進み、数回角を曲がったところで、一息ついた。
いやぁ、危ないところだった。
何か
高速で逃げ出した俺の平常心も、やっと戻ってきたところだ。
まさか、俺がアナスタシア様を助けることになるなんて。
でも今のって、シナリオでアナスタシア様が暗殺されるところだった可能性が……。
まさかまさか。
うん、深く考えるのはやめよう。
まずは俺の部屋に帰ることが大事。
大丈夫だと自分に言い聞かせ、何度もうなずきながら兵舎へと向かった。
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