第3話 魔王の娘
女性の悲鳴が聞こえた方向に俺は駆け出す。
魔王軍には女性の兵士もいるにはいるが、女性といえど兵士だ。
あんな女の子らしい悲鳴をあげるとは考えにくい。
いったい誰が?
猛ダッシュのおかげで、数秒もかからずに声の発生源に到着できた。
そこで目に入ってきたのは……。
剣を持った全身真っ黒な装備の人物と、へたり込んでいる女の子の姿。
誰がどう見ても、この黒ずくめが悪い奴だろう。
俺はこれでも兵士なんだ。ここで
「おい! 何をやっている!」
「!!」
黒ずくめが俺の声に驚いて振り返る。が、もう遅い。
声をかけると同時に接近していた俺は、体勢の整っていない黒ずくめに思いっきり体当たりをしかけた。
黒ずくめの横っ腹に激突。
不意をついたおかげで、俺が圧倒的に優勢だ。
そのまま地面に押し倒して、マウントポジションを取る。
はい。勝ち確です。
こうなったらもう手も足も出ないだろ?
「こんな時間に女性を襲おうとするなんて、許せませんね!」
「っち!」
こいつは顔も見えないように黒い布で覆ってやがる。絶対真っ当な奴じゃないぞ。
バタバタと暴れているがこっちは馬乗り状態なんだ。簡単に逃すわけがない。
「まずはその顔を拝ませてもらいます!」
俺は黒ずくめの顔へと手を伸ばした。
その瞬間。
「危ない! 離れてください!」
先程まで襲われていた女性が声を上げた。
突然のことで、何がどう危ないのか分からない。だが、すぐに身を守った方がいいのは伝わった。
すぐさまマウントポジションから飛び退くと地面を数回転がる。
俺の
俺は黒ずくめへと目を向ける。
すると寝転んだままだった黒ずくめの体が不自然にボコボコと
やばい、あれはやばい!
人間があんな風に
「こちらです! 私の元へ来てください!」
声の聞こえた方を見ると女性がなにやら結界のようなものを展開していた。
この状況。わずかでも身を守れる手段があるなら、それに越したことはない。
「わかりました!」
女性の元に滑り込み、結界の内側へと入り込む。
そのタイミングで、黒ずくめの体が巨大な肉の塊のように
ドゴオオオオオオオン!
真っ白に染まった視界と爆音。さらに吹き荒れる風。
あいつ自爆しやがったのか!?
視界が晴れると目の前には5メートルほどのクレーターがあるだけで、黒ずくめは跡形もなく消え去っていた。
幸いなことに、俺は女性が用意してくれた結界のおかげで難を逃れた。
もちろん女性も無事だ。
危なかった。あの黒ずくめのやつ、暗殺者か何かか?
最後は自分の命を犠牲にしてまで……。
ん? まてよ。
ついさっき暗殺がどうのって考えていた気がするんだが。
はっと気づいた俺は、助けた女性をまじまじと見る。
「あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
ふわりと揺れる赤い髪に黒い角。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ魅惑的なスタイル。そして、優しげな目とスラリと通った鼻筋、さらにはぷっくりとした唇。
まごうことなき美少女だ。
俺はその美少女を見て硬直してしまった。
可愛いいというのもある。
だが、可愛いだけで固まったわけじゃない。
この子……魔王様の一人娘なんですけど!
「えっと、だ、大丈夫ですか? まさか、どこかにお怪我を?」
オロオロとしている魔王様の一人娘が視界に入っているが、俺はそれどころじゃない。俺の内心は大混乱中だ。
これってひょっとして……。
シナリオで死ぬはずだった子を助けてしまったのでは!?
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