人間、難しい


 「聲の形」で、 石田将也の空想の中で他人の顔全てにバツがついているシーンがある。個人的にあれはとてもうまく表現されていると思う。と同時に救われた気がした自分がいた。なんとなく、自分自身がずっとうっすら思っていることを表現されたことによって自己理解が進んだから。

 正直一番古い記憶でもあの感じはあった。どこか自分は違う、周りの人の会話が聞こえない。複数人で会話してる中で声が聞こえない。もし今の時代にそういうことを自分の言葉で伝えられることができたのなら、多分病院に連れていかれ何かしらの診断を下され薬づけにされていたのかもしれない。その点、それは気のせいと言い張って僕を病院送りにしなかった両親にはとても感謝してる。

 __自分が好きなことはできるだけ話さない方がいい。

そんな風に思うようになったのもこのころかもしれない。

多分きっかけは些細なことで、ほら、おおかみ子供の雨と雪で雪が宝物!といって他の子と違うものを見せつけてドン引きされた後に、他のこと同じようなものを好きなる努力をしてたじゃないか。成長した雪が心の奥底で実はまだ虫の抜け殻とか骨とか葉っぱとかきのみとかが好きかはわからないが、少なくとも周囲に馴染めるようになってやがてそれが自然に振る舞えるようになっていたと思う。それが僕には無理だった。もちろん努力はしてみた。人並みに高校デビューっぽいものもやったことがある。あれは半年ぐらいで限界がきたな。

 毎日毎日毎日毎日、朝起きて絶望して学校行って帰ってきて3時間ぐらい寝ないと立てないぐらいに疲れて疲れて疲れて疲れて。でも、周りに合わせるように周囲の話に合わせて合わせて合わせて合わせて。いつかわかるようになると思ってた。結果的には今もさっぱりわからない。

 これは感覚的にそうだな。原神で甘雨が、

「璃月港は

絶雲の間よりも孤独です。

絶雲の間で雲を眺めるのは、1人でいることに対する孤独です。

でも…

璃月の人混みの中で感じるのは『人ではない者』の孤独です…」

というシーンがあるがこれと同じだ。

自分以外が複数人で楽しく会話している中で、自分からすると友達だと思っている人間にすら顔にバツがついていき、声も何も聞こえなくなる。そんな時本当に孤独で、それは一人旅で雑踏の中に紛れたり、一人で砂浜に行ったり、一人で山に行ったりするものとは比べ物にならないものがある。本当に逃げたい。僕にとっての「絶雲の間」に帰りたい。

 これはどこなんだろうと考えてみる。答えは考えるまでもなくて本の中だ。本を読むというのは孤独な作業だ。時には輪読したり、議論しあったりすることがあるが読んでいる間は一人だ。他の誰も邪魔することのない世界である。ただし、その世界の中は一人ではない。今読んでいる三体だと、ワン・ミャオや、イエ・ウェンジェがいる。彼らのやり取りを彼らの言葉を追いながら脳内で反芻する。それなら多少頭の中でツッコんだり、いや、こういうのもあるんじゃない?と提案できる。実質イマジナリーフレンドに近いものかもしれない。彼らと話している間は現実世界を見なくて済む。頭の中では国際会議の最中や、荒野の中だったりする。文字通りその世界に没頭することができる。

 この感覚はあまり人に話したことがないが、どうだろう。まあまあ共感してくれる人は少ないかもしれない。

 ___その場で話すことができない僕のような人間に小説を。

没頭している間、僕は絶雲の間に入門することができ、宇宙旅行もできるし、海底にも行けるし、なんなら名探偵ポアロとともに難事件を解決することができる。

さて、ここまでただ逃げて逃げてばかりいるわけですが、それはあくまで複数人での会話に絞っていると考えていただきたい。

一対一なら理解できるし声も聞こえる。これは男女その他関係ない。なんだろう。一対一の会話なら理論的に理解できるんだ。ああ、今ここで会話の区切りがあったな、これはおそらく相槌を打つ時だな。今はこのテーマに移ったからこのテーマに対して話すことにしよう。そういった感じで自分の中では話の流れを読み取ることができる。自分が話さなかったら大体相手も話さないし、その間は前の会話のコンテキストが残っていると判断できるからね。

しかし複数人だと違う。そもそも会話のコンテキストが聞こえないのだ。他の人たちはこれをどうやって理解していけたのだろう。考えてみてもやっぱり僕にはわからない。

人間って難しい。いい感じに眠気がきたからこのまま寝る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る